第拾壱話 異変発生2
「へえ。君の世界にも道化師という存在がいるのかい。それはそれは...興味深いねぇ」
なにもすることがなく、雑談する五人と人形。
銀想はどうやら外で魔法の練習をしていたらしく、そのせいで反応がなかったようだ。
ちなみに、銀想は魔法の練習をした時に周りに被害が出ないように、森の中に住んでいる。
だが、よく山火事や土砂崩れを起こすらしく、結局は他人に迷惑をかけているのだが。
そんな銀想を含め、五人は直巳の元の世界に興味があるらしく、その話題で盛り上がっている。
「しかし...美麗のやつも感心せんな。直巳が異世界から来たことを黙っておくなど。居候と聞いた時は何かと思ったが、まさかそういう意味だったとはな」
リヒトによると、異世界から同意なしに他人を召喚することはかなりの問題らしい。
今回は直巳が召喚されたことを喜んでいるため、結果的にはお咎めなしとなった。だが、下手すれば小神の地位剥奪くらい起こっても不思議ではないそうだ。
美麗はクロノスのお気に入りということもあり、剥奪はないと思われるが、それでも相応のペナルティがあったと思われる。
過去にも同じような行った人物がいたが、その人物は誤って家庭円満で充実した日々を送っていた人物を召喚してしまったらしく、小神の地位を剥奪されたとか。
召喚された人物は、残してきた家族への不安などで強い負の感情を有してしまい、一時期は悪霊製造機のようになってしまったらしい。
ちなみに、現在は二人とも平和に暮らしている。
(はぁ、だからあの時話を無理やり中断したのか。ていうか俺も俺で、聞くのをかんっぜんに忘れていたけどな)
まあ、お咎めなしだしいいんじゃないかな。そう、自分に言い聞かせることにした。
「まあまあ、いいじゃないかリヒト。君は相も変わらず堅物だねぇ。...あ、言い忘れていたけど、いま死んではいけないよ。生き返ることが出来ないから」
「...え?何故ですか?」
記憶が確かならばオーベロンの能力で、この世界は誰も死なない筈だ。
たしかに、闘技場開始前にオーベロンは能力を変更すると言っていた。だが、死んだら気絶する程度のものだったはずだ。
もしかしたら亜空間で死んだら生き返れないのかもしれないと思ったが、亜空間で死んだはずのリヒトが今生きているので、それも違うだろう。
何故か...そう考えていると、ワイズが微笑みながら明瞭な答えをくれた
「だって...今はきっとオーベロンが能力を解除しているから、ねぇ」
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美麗達が競技場まで来ると、そこには十四人の者達が、六人側と八人側で別れていた。
六人側はリヒトとワイズを除く闘技場本戦進出者である。
つまり、残る八人は『憑霊』ということだ。
「『憑霊』が八体ですか。これはこれは豪勢な歓迎、御苦ろ...」
「ここにいた観客共はどうした!確かに今日は闘技場開催日なのだろうが!この...」
「...人の話は黙って最後まで聞くのが礼儀だろう?」
話を途中で遮られた人物が指を鳴らすと同時に、話を遮った『憑霊』が一体消滅した。
『憑霊』とは、妖怪、人間のいずれかに取り憑くことの出来る悪霊である。
取り憑かれた者は、『憑霊』が取り憑くのをやめない限り、決して『憑霊』から離れる方法はないという、厄介な悪霊だ。
だが、『憑霊』が離れることなど滅多にない。
早い話、取り憑かれた者は『憑霊』諸共殺すしかない、という訳だ。
だが、『憑霊』諸共殺したとしても、本来は殺された者の死体は消滅しない。つまり、今『憑霊』を殺した者は、死体を能力で消滅させたということだ。
彼の名はストレ。貴族のような出で立ちをしたした青髪の青年だ。
種族は『氷人』。能力は『エネルギーを奪う能力』と『エネルギーを自在に変換する能力』を持つ。
先程の死体も、死体という物質の存在そのものをエネルギーとし、それを奪うことで消滅させたという訳だ。
ストレは小神ではないが、『創神』オデンの最も信頼する人物として呼ばれ、この場に来ていた。
性格は礼儀正しく優しい人物だが、自分に敵対する者がわずかでも不快な行動をとると後先考えずに抹消しにかかる。極端な性格を持つ人物だ。
現に今も
「ちょ、ちょっと!ストレ、ここに来るまでの間に決めたでしょ!あのこと!」
あのことというのは、『憑霊』と取引をして三年前にこの世界に来たらしい人物を知っているか、聞き出すことだった。
『憑霊』は基本的には生あるものを害することに執着している。
だが、悪霊は基本的には人間と同程度の知能がある。
なので、生あるものに害を与えずに、もしくは危害を与えられたとしても効果の薄い者に危害を与えて消されるよりは、いまはとにかく生き残る方を選ぶ筈だ。
ここにいる者達に勝てないことぐらいは『憑霊』も分かっているはずなので、圧迫して情報を聞き出そう、という作戦を考えていた。のだが...
「申し訳ございません美麗様。ですが、ここは私にお任せ下さい」
美麗の方を向いて微笑みながらそう言うと、ストレは再び『憑霊』達の方を向いた。
「さて、お前達。そこの木偶が死んだのは見ていたな?お前達はどうする?服従か?それとも死か?」
「服従?お前達は何を望んで...」
消された『憑霊』の隣にいた『憑霊』が質問をする、と同時にストレが指を鳴らした。
そして、先程の『憑霊』と同じように姿が消える。
「疑問に疑問で答えるのは、失礼だと知らないのか?お前達ができるのは、はい服従しますと言うか、殺してくださいということだけだ」
ストレが高圧的な尋問を開始しようとしているさなか、他の面子は若干引いていた。
『憑霊』になってしまったとはいえ、今退治しているのは元人間または妖怪である。
皆、それを躊躇なく消せるストレのやり方にはついていけない。という顔をしている。
「...うわぁ。いつも見てもストレさんってこわい...」
「全くだ。これではどちらが悪かわからんな。いや、そもそもあいつはこれを抜きにしても善なのか?」
「さぁ、どうかしらね。まあ、あのモードに入ったストレは暫く止まらないから...」
はぁ、と皆がため息をつく。
ストレはひた隠しにしているつもりらしいが、ストレが生粋のサディストであることは周知の事実である。
悪霊を見つけては大義名分の元に拷問を繰り返すその姿から、氷人にもかかわらず、赤の貴公子というあだ名までついている。
この世界でも最強に近い実力を持ちながらも、小神に選ばれていないのはその性格ゆえだ。他にも理由はあるが、この理由が一番大きい。
「でも、知ってる?ストレって一部では人気あるらしいんだよね」
美麗の質問に、全員が意味のわからないというような表情を浮かべる。
「ほら、なんて言うのかな。ストレって見た目はカッコイイし、表向きは礼儀正しいし、執事みたいな感じでさ」
「でもでもぉ~、ストレさんがホントは怖いってことくらいみんな知ってますしぃ?それでもなお、人気のだとすればぁ、理由がわからないですぅ~」
「理解...不能...。否、不要...」
「...きっと、よっぽどの物好きの人達なのかしらね」
「いえ、よく考えれば有り得ることです。千人に一人の物好きがいても、一万人いれば、その中には同種の物好きが十人いる計算になりますからね。数のトリックって奴ですよ」
「でもねぇ...」
「まあまあ。みんなもそう言うけど、別に嫌いなわけじゃないでしょ?たぶん」
「まあ、そう言われればそうかもしれんがな。だが、それは選択肢が極端すぎるだろう」
「いや、僕はそれでも割と嫌いかも...」
「皆様、お待たせして申し訳ありません」
半分くらいストレの悪口を言っていたさなかに声をかけられ、少しビクリとしながらストレの方に注目する。
八人いた筈の『憑霊』は一人だけになっており、残る一人も満身創痍だ。
髪は乱れ、衣服は泥だらけ。腕は両方なくなっており、片脚も膝くらいまで消されている。
ストレスの溜まっていたサラリーマンが、無茶苦茶な撃ち方をしたゴルフでストレス発散した後くらいいい顔をしているストレと、我が子を殺されたかのような絶望的な顔をしている『憑霊』との温度差は、なにか得体の知れないものを感じてしまう。
「さて、一応さきほど私は聞いているが、もう一度皆様に詳しく説明しろ」




