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第拾弐話 大罪人と解放者

「は、はい...わかりました」


そして唯一残った『憑人』は話を始めた。


この『憑人』が『憑霊』として生まれたのは、今から一年前程らしい。


生まれた時からある程度の知識、知能、目的を有していた。そして、誰に取り憑こうかと迷っていたある日、ある男に会った。


男は名を名乗らなかったし、今に至るまで一度も名乗ることは無かったという。その代わり、男にはあだ名のようなものがあった。


その名は「人形使い」。世の中に混乱をもたらす理由で、『憑霊』を集めている。そう言って、一緒に来ないかと勧誘されたらしい。


断る理由のなかった『憑霊』としては、言われるがままについて行ったという。


「そして、今回の襲撃の目的は...」


「あぁ、生き物というのは、どうしてこうも余計なことをするのだろうか...。人形のように静かにしていればいいものを...」


襲撃の目的を語ろうとした『憑人』の話を遮った、知らぬ声。声がした方を振り向くと、いつの間にか六人の何者かが観客席の方にいた。


左端にいる編笠を被った侍のような者は、腕を組んで微動だにしない。


その隣の右腕と左腕が逆になっている者は、この暑い中で長袖を着ている。だが、その格好は暑苦しいというよりは、むしろ寒そうな印象を与える。


右端にいる服から露出している部分全てに包帯を巻いた者は、どこかよくわからない方向を見つめている。とは言うものの、目にも包帯が巻かれているのだが。


その隣にいる眼鏡をかけたオールバックの金髪の者は、観客席に腰を下ろしてこちらのことを観察しているように見える。


全身が青白く炎のようにゆらめいている巨大な図体をもつ者は、ただ横一列に並んだ五人の真ん中で立っている。


そしてシルクハットを被り正装をしている、顔の右半分だけを奇妙な仮面で覆った者は、巨大な図体を持つ者の肩に足を組んで座っている。


「な、なんであいつらここに!?」


先程の甘ったるい話し方を止めて、素直に驚きを示すゴスロリ風の衣装を着た少女。


彼女はフォービッド・シル。ミームの信頼する人物であり、美麗と同じく人間である。


シルは能力を複数持つが、特に有名なのが、「対象を半永久的に封印する能力」。


誰かが封印を解かない限りは、決して封印を解くことが出来ないという強力な封印術を使える人物だ。


そして目の前にいるのは、そのシルが昔に封印したはずの大罪人五名と、見知らぬ人物ー恐らく仮面をつけているその人物が「人形使い」ーという状況である。


「その問いに応える前に、君たちに土産をあげたく思う...。この世界では、悪霊は歓迎されていないのだよね...」


そう言うと「人形使い」は小さな箱を取り出し、その中に手で握れば隠せそうな大きさの人形を入れた。


すると目の前にいた『憑人』の全身に無数の穴が空き、そこから血を流して倒れた。


暫く待ってみたが、それ以上何も起こらない。どうやら死んだようだ。


「それで、僕達が何故ここにいるのか、だったか...。さて、それはここにいる理由だろうか...?それとも目的だろうか...?」


「両方、お聞かせ願いたいのですが。よろしいでしょうか?」


「いいとも...。まず、僕達がここにいる理由...。それは、僕が彼らを無間牢獄から脱獄させたからにほかならない...。安心して欲しい、見張りは殺してはいない...」


無間牢獄とは、この世界でも特に重い犯罪を犯した者が収容される監獄だ。


一度入ると出られないという訳では必ずしもない。だが、目の前にいる「人形使い」を除いた五人は、一生のあいだ陽の光を浴びることは無い予定の大罪人であった。


そして、その名前は永遠に出られないことからではなく、罪から決して逃れえないことから名付けられていた。


事実、この監獄から逃げ出せたものは過去に存在しない。


「ふむ。だから円形闘技場に混乱を起こし、看守長であるリヒトを遠ざけた、というわけか」


「あぁ、その通り...。彼の力は攻めとしても強力だが、その真価は守りだ...。異変に僅かにでも気が付かれれば、その時点で小神が全員集合...。それだけは避けねばならなかった...」


嘘か誠かリヒトは時間を操る能力を駆使して、十分に一度程度無間牢獄に異変がないか、立ち寄って調べているという。


今まで異変があった試しはないが、もし仮に異変があったならば、「人形使い」の言う通りに、いや、「人形使い」が言う以上の人員が集合したことは間違いない。


それを避けるために、この騒ぎを囮として起こした、というわけなのだろう。


避難にも最適な能力を持つリヒトとワイズが動くという流れは、ある意味自然な流れだったとも言える。


「しかし、そんなことはどうでもいい...。それよりも、僕達の目的だ...」


そして「人形使い」は一呼吸ついて、間を開けた。ここが重要だぞ、とでも言うように。


「僕達の目的...。それは、彼らの釈放だ...。もう、彼らは充分罪を償ったと言えるだろう...。これ以上自由を奪うのは、酷、というものだ...。そうだろう...?」


あまりに予想外の答えに、一瞬全員の顔が真顔になった。


目の前にいるのは、五百年の歴史最悪と言われる犯罪者五人である。それを釈放しろなど、もはやそれはテロリストの発言だ。


「ねぇ、あなた。彼らが何をしたか知っているの?知っているなら、そんな発言は出来るはずな...」


「知っているとも...一人ずつ言っていこうか...」


そう言うと、「人形使い」は本当に一人ずつ説明を始めた。


まず初めに、編笠を被った人物の方に手を向けた。


「彼、以蔵は人間...。「全てを切断する能力」を持つ...。罪状は、魂すら切断し、消滅させたこと...」


次に、腕が左右逆になっている人物に手を向けた。


「彼、無着は天邪鬼...。「反転させる能力」を持つ...。罪状は、水の流れや気圧、人の性格など様々なものを反転させ、大災害と混乱を引き起こしたこと...」


炎のようにゆらめいている巨大な人物


「彼、クレネスは邪神...。「不浄なる力」と「浄化する力」を種族的な能力として持つ...。罪状は、ここから少し離れた所にある砂漠...。元々街があった所を能力で消滅させ、砂漠とした事...」


全身に包帯でまいた人物。


「彼、アイズは種族不明...。「心を読む能力」、「千里眼」、「幻覚を見せる能力」などを持つ...。罪状は、心を読んでその者が最も恐れる幻覚を作りだし、恐慌をもたらしたこと...」


眼鏡をかけた人物。


「彼、セインは人間...。「他人を狂気に陥れる能力」、「無意識を操る能力」を持つ...。罪状は、狂気によって知能が失われた者を合計三十名以上殺害したこと...」


全員のことを説明し終わった「人形使い」は、改めて美麗達の方を向いた。


「そして、彼らは全員異世界から来た者達だ...。それに罪を犯したのは、この世界に来て一年以内...。なにか、違うところは...?」


「ない...。間違ってるところなんてどこにもない」


でも、知っているならこそ何故釈放を求めるの。そう続けた美麗に対し、「人形使い」は溜息をついた。


「生物というのは人形と違い、僕の思い通りに動かないから嫌いだ...。納得出来ないとしても、意味くらいは理解して欲しい...」


「なにを...」


「すこし静かにしてくれ...。もう面倒だから説明する...。つまり彼らはこの世界に来て、力の制御ができないまま力を暴発させてしまったということだ...。そう考えれば、情状酌量の余地はあるだろう...?」


「なに馬鹿なことを言ってるの!そんなもの、あるわけない!例えあったとしても、彼らの行動は常軌を逸しているじゃない!」


すこし興奮気味にまくし立てるフラン。直接の親族が被害にあった訳では無い。だが親しい知り合いの一人が、五人の中でも特に危険な能力を持つセインに殺害されているフランからすれば当然の反応だ。


「まあ、聞いてくれ...。以蔵は魂を魂と知らず、彼の世界では忌み嫌われてる青い火と勘違いしたというのだ...」


「人形使い」がそう言うと、以蔵は静かに頷いた。


「無着、アイズは手に入れた能力を試してみたくなったのだ...。誰だって、新しい物を貰ったら試したくなるだろう...?しかし、残念なことに無着は想定外のことまで反転させてしまい、アイズはこの世界では負の感情が危険なものだとは知らなかった...」


無着も以蔵同様に頷いた。アイズは未だに全く別の方向を向いているため、何を考えているのかはわからない。


「クレネスは元々能力を所持していた...。しかし、この世界で能力が大幅に強化されていることを知らなかった...。能力が使えるか試してみたところ、想像を超える範囲を巻き込み、街を消滅させてしまった、というわけだ...」


クレネスは自分の事を言われても、何も反応しない。だが、炎の体のゆらめきが強くなった気がする。


「最後に、セイン...。彼が殺したのは妖怪のみ...。彼は、妖怪というものが存在しない世界から来た...。そこで、異形の者達を見れば怯えて当然...。過剰防衛も仕方ない...違うか?」


「し、仕方ないわけないじゃない!いいわ、そっちがそんな風に思うなら、私だって...私だって同じことをしてやる!最近開発した魔法でお前達を...!」


「そこまでだ。お前達もそうだが、異世界から来た彼らも私からすれば可愛い子供たちだ。そんなお前達が争うのを、これ以上見ていたくはない!」

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