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第捌話 円形闘技場3

円形闘技場に設けられた観戦しながらもくつろげる、貴賓客用の部屋には総数8人の男女が円形になって椅子に座っていた。


「さてオーベロン。なんで私たちを集めたのか教えてもらえるかしら?これだけの人数を集めるんだもの。きっと重要なことよね?」


そう切り出したのは緑の生地に金の刺繍が入ったチャイナドレスのような服を着た女性だ。


「あぁ、勿論だともミーム。今日集まってもらったのは他でもない。例の異変について、だ!」


その瞬間、約半数の者の顔色が変わり、残り半数はナンデスカソレー?と言いたげな表情を浮かべていた。


「まあ、例の異変と言っても知っているのは現在は我々神だけだろうな。という訳で、知らない皆の為にも説明しよう!」


そう言ってオーベロンは説明を始める。


「あれは、約三年前の出来事だった。そうだな?クロノス!」


「あぁ、そうだよ。あと、お前の話し方は個性だろうしある程度は仕方がないが、耳元で大声を出すのはやめてくれないか」


嫌そうな顔をしてオーベロンの方を向くクロノス。だが、オーベロンは気にも留めずに話を続ける。


「その三年前の出来事なのだが、何者かが異世界から侵入したという事だ。まあ、それ自体は珍しくないことだな。だがしかし!」


オーベロンに対し、声の大きさを小さくしろ、というジェスチャーをするクロノス。だが、オーベロンの視界には入っていない。または無視されている。


「その存在が何者なのか、そして何処にいるのかが全く掴めていない!つまり!その者は姿を故意に隠しているのだ!そして時を同じくして...」


「うるさい」


クロノスがそう言ったかと思うとオーベロンが消え、競技場から轟音が響いた。


何事かとクロノスを除く全員が席を立って競技場を見下ろすと、オーベロンが反対向きに地面に突き刺さっていた。どうやら、クロノスが能力を使ってオーベロンを競技場に投げつけたようだ。


「おや、オーベロンはどこかへ行ってしまったようだね。大人数の前で話す、というプレッシャーに耐えきれなかったのかな?仕方ない。私があいつの代わりに説明を続けよう」


何事も無かったかのような顔をして話を続けようとするクロノス。


基本的に温厚なクロノスだが、その反面怒ると怖いことで有名であり、それを目の当たりにした皆は静かに従う。


「さて、どこまで話したやら...。そうだ。三年前に何者かが侵入したが、その正体がわからない。ということだったね」


そうだったそうだった、と呟くクロノス。


「そして、その何者かが侵入した三年前を期に、悪霊の出現数が大幅に増加したんだ。その辺は君たちも感じているのではないかな?」


そう言って神以外の面々に尋ねるクロノス。


ここにいる8人とは4人の神と、神が1人につき一人連れてきた最も信頼のおける小神、すなわち現人神4人という組み合わせであり、クロノスはその小神4人に訪ねた、というわけだ。


小神4人は全員首を縦に振る。確かにここの所悪霊が増加している、と。


その4人の中には美麗もおり、先日大量の悪霊に襲われたばかりだったので身に染みて実感している。と言うか、


(それさっさと教えてよ。お陰で危ない目にあったのに)


と思う美麗。だが、自分が悪霊のせいでピンチになったなど、不名誉を自ら拡散するような真似はしたくないので黙っておく。


ちなみに言うまでもないことだが、美麗を推薦したのはクロノスだ。


「まあ、その謎の人物と悪霊の増加に因果関係があるのかはわからない。しかし、それ以外には特に変化が起きている訳では無いので、それが原因と考えても間違いないだろう」


そこでだ!と先程競技場に刺さっていたオーベロンが勢いよくドアを開け入ってきた。恐らくタイミングを見計らっていたのだろう。


クロノスの心底嫌そうな顔を見て一瞬怯えるような動作を見せたオーベロンだったが、そのまま話を続ける。


「君たちにはしてもらいたいことがあるんだ。それはね...」


ーーーーーーーーーー


神が降ってくるという前代未聞の出来事によって競技場が破壊され、1時間ほど第2戦が延期になってしまったが、ようやく開始の目処がたったとレフェリーから観客に告げられた。


「はぁ、やっとかよ...」


そう言いながら果物を齧る馨射。


見た目は青色のりんごのようなもので、正直言って直巳からすると食欲が失せそうな色合いをしている。だが、見た目に反してそれなりに美味しい果物だ。


馨射は何かを飲むことが好きではないので、何時でもこのように果物を持ち歩いて喉が渇いた時に齧っているという訳だ。


「まったく、お前達は大変だな。そんな炎天下の中で一時間も待つなんて。それに対して俺は冷却魔法の効いた部屋で本を読みながら過ごせるわけだからな。やはり魔法は素晴らしい」


そう言いながら手足をばたつかせる銀想人形。


いつもならこの程度の軽口はなんとも思わないのだが、暑さのせいもあってかなり苛立つ。


直巳は自分の席を立って銀想人形の頬を思いっきりつねる。感覚もある程度同調しているはずなので、それなりに痛みを感じるはずだ。


「いててててて!やめろ直巳!」


本当に痛みを感じている者が上げる声を発しながら、直巳に抗議する銀想。どうやらかなり痛かったらしい。


また二人が喧嘩し始めるのかなーと凜音が思った時、馨射がパンパンと手を叩いた。


「ほら、二人とも。選手入場だよ。試合に集中しな」


そう言われて大人しく席に戻った直巳は、競技場の方を見る。


そこには、二人の人物がいた。


一人は身長2m50cmは超えるのではないかという体躯をした、筋骨隆々の上半身裸の人物だ。恐らくあれが羅生なのだろう。


鬼、と聞いていたが見た感じでは角は見当たらない。もしかしたら角がない種類なのかもしれない。


そして対するはサイズのあっていない服を見事に着こなした、女子大生のような人物だ。全ての指に指輪を嵌めており、変わった帽子を被っている。恐らくあれがフランなのだろう。


二人が定位置に着くと試合開始の合図が出された。


ーーーーーーーーーー


試合開始と同時に羅生は驚異的な身体能力を持ってフランに接近し、そのまま勢いを殺すことなく蹴りつけた。


蹴りによって真っ直ぐに吹き飛ばされたフランは、壁とぶつかり轟音を上げる。


壁は半壊し、早くも勝負が着いたかのように見えたが、瓦礫の山からフランが姿を現した。それも無傷で。


よく見るとフランのまわりが薄く発光する球状のもので覆われている。これは、フランが発動している防御魔法だ。


「いきなり荒い挨拶ね。どこの世界の挨拶かしら?」


そう言いながら服をはらうフラン。どこも汚れてはいないが何となくやっているのだろう。


「まだ余裕そうだな。結構結構。これで終わってもつまらんから...な!」


言い終わると同時に再びフランに接近し、右腕による大振りな攻撃を仕掛けようとする羅生。


あとフランまで2m、という所で羅生の眼前で魔法が炸裂した。


「『炎機雷(ファイアーマイン)』」


炎機雷(ファイアーマイン)』。それは、設置型の爆裂魔法だ。


設置型の魔法は相手が接近しないと永遠に発動しないというデメリットがある代わりに、同威力帯の魔法と比べて魔力の消費が少なくて済む。


羅生のような接近戦型には有効な魔法だ。だが、


「笑止笑止。この程度で俺を倒せると思っているのか?」


まるでダメージを受けていないかのような、余裕綽々とした態度で煙の中から姿を現す羅生。


実際、ダメージを受けていないのだろう。


羅生の周囲を覆う発光する靄のようなもの。これは言うならば羅生専用の防御魔法のようなものだ。


羅生の種族『闘鬼』由来の能力で、戦闘の際に魔法ダメージを割合で軽減する効果がある。また、一定ダメージ以下の魔法は打ち消してしまう。


「あなたが乱暴な挨拶をするから、あなたの世界でのやり方で挨拶を返してあげただけよ。」


そう言って再び魔法を発動させるフラン。


「『幾千(サウザンズ)()獄雷(ヘルスパーク)』!」


フランの手から現れた魔法陣から至近距離で無数の雷が放たれる。


先程とは桁違いの威力の魔法を受け、吹き飛ばされる羅生。


「ぐっ...。」


羅生は痛みに顔を顰める。だが、この程度ならまたまだやれる。


「『絶対零度(アブソリュートゼロ)』」


立ち上がろうとした羅生にフランから冷気系魔法としては最強クラスの追撃が入る。


絶対零度(アブソリュートゼロ)』は相手にダメージを与えることよりも、相手の生体機能を奪うことに特化した呪文だ。


全てを凍てつかせながら羅生へと向かう呪文だったが、何とか転がってフランの攻撃を避け、立ち上がる。


フランまでの距離はさほど遠くない。羅生ならば1歩で詰められる程度だ。


しかし、物理的な距離は近くとも精神的な距離は遠い。


(それでも、踏み込むしかないか)


低い姿勢からフランの方へ走り出す羅生。


爆発的な力により蹴りあげた地面は砂埃を上げる。


「『破滅(プロミネンス)(オブ)紅炎(カタストロフィ)』」


先程とは打って変わって炎熱系最大の呪文を発動させるフラン。


だが、正面からの攻撃を読んでいた羅生は迂回して回避する。


しかし


「あら、危ないわよ?」


戦闘中であるのに気楽そうな声で羅生に話しかける。


しまった。そう思っときにはフランの設置魔法が発動した。


重量に押しつぶされそうになる羅生。フランが今回設置したのは『重量檻(グラビティケージ)』と呼ばれる魔法だ。


本来の効果は相手を押し潰して圧死させることだが、羅生のことを死に至らしめることは出来ない。


追撃の魔法を。そう思った時に羅生は檻を破壊した。


「なっ!バカな!」


驚きの声を上げるフラン。


重力檻(グラビティケージ)』に囚えられた者には、およそ50倍の重力がかかる。幾ら肉体が鍛えられていようが、生物の細胞では耐えられないはずだ。


即死しなかった次点で奇跡に近いにもかかわらず、さらにそれを破るものがいるとは想像もしていなかった。


「ぶっ潰れろォォォ!」


羅生は脚を自分の頭の高さまで上げ、全力で振り下ろす。


踵落としと呼ばれる技だ。


なんの技巧もないが、シンプル故に威力が高い。


あまりの力に競技場の地面が(ひび)割れる。


「ウオォォア!」


その時、パリン、という高い音がする。フランの防御魔法がダメージ超過のために破壊された音だ。


今まで引っかかっていたものが無くなり、その勢いのまま足はフランの体を貫き、地面とぶつかる。それにより、地面に一段と罅が入る。


終わった。


高々と拳を上げ、勝利を宣言する羅生。それと同時に闘技場から歓声が湧いた。


それに応え、手を振るのは勝者の特権だ。手を振りながら羅生は登場した方へと戻って行った。

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