第漆話 円形闘技場2
オーベロンがセリフを言い終わると共に、競技場に選手が姿を現した。
一人は軍服を着た人物で、もう一人は道化師姿の青年であった。
「あ、リヒトさんだ!」
知り合いが出ていると知り、思わす声を上げる直巳。
「ん、直巳はリヒトと知り合いだったのか?」
不思議そうな声を上げたのは、隣に座っている馨射だ。
直巳は円形闘技場初観戦ということもあり、円形闘技場に詳しい馨射が凜音と場所を変わっていた。
「ええ、美麗さんがクロノスさんに遭いにこないというのを伝えてくださったりで」
「あぁ、なるほどねぇ。じゃ、その相手のワイズのことは知ってるかい?」
「あの道化師ですか?いえ、知らないです」
「あいつはステイ・ワイズといって、見た目の通り道化師さ。よく手品をしているが、あいつの能力は...まあ、見てのお楽しみだな」
「えぇー。勿体ぶらずに教えてくださいよー」
「まあまあそう言うな。見てわからなかったら教えてやるから。っておいおいもう始まってるよ。いきなりリヒトが攻めに行ったみたいだな」
ーーーーーーーーーー
試合開始が告げられると同時にワイズに時間停止能力を駆使して接近、そのまま胴体を愛刀『鉄十字』で横薙ぎで一閃するリヒト。
だが、その剣は空を切った。
先程までワイズのいた場所にワイズは居なかった。いや、正しくはこの競技場からワイズは姿を消した。
「奴の方が早かったか...。」
そう言って時間を加速させ距離をとるリヒト。
すると手を叩きながらワイズが虚空から現れた。
「惜しいねぇ。あと少しで僕の事を斬れたってのに。亜空間に引きずり込まれるのを恐れて少し動きが鈍ったんじゃないのかい?」
そう言いながら、挑発するように肩を竦めるワイズ。
「ふっ。そんな安い挑発にはのらんぞ。隙を見つけたければ自分から来ることだな」
ワイズからの挑発を難なく受け流すリヒト。それがどう影響したのか、ワイズの笑みがいっそう強くなった。
「それくらい、言われなくってもねぇ」
そう言って手を横に横に振るワイズ。
意味の無い動作に見えるが、リヒトは後ろに飛び退く。
それと同時にリヒトのいた辺りに黒い裂け目ができた。
『次元の裂け目』。
『空間を操る能力』をもつワイズは手を振るだけで空間を切断することが出来る。
その時に切断された場所にできるのが『次元の裂け目』とよばれるものだ。
この『次元の裂け目』に触れたものはワイズを除き、脱出不可能な亜空間に閉じこめられることになる。
ちなみに亜空間とは異世界ではなく、何も無いただの広い空間である。そのため、どことも繋がっていない。
ワイズの初撃を避けたリヒトだったが、ワイズは次々と空間を切断する。
その攻撃を避けること自体はリヒトにとっては容易だ。
しかし、切断された空間はそのままにされているため、逃げ場を失い徐々に追い詰められている。
一旦能力を使い、追い詰められていた方向と逆側に移動するリヒト。
出来れば時を加速させ一気にケリをつけたい所だが、ワイズに対し接近戦は危険が大きい。
ワイズは恐らく自分の近くに『次元の落とし穴』を潜ませているはずだ。
それは、如何なる方法を持っても知覚不能な『次元の裂け目』である。強力な能力故に1m×1mという範囲制限があるものの、誤ってその中に飛び込めばその瞬間勝負は決することとなる。
ならば、とリヒトは銀製のファイティングナイフを5本とりだす。
そしてナイフを時を止めた状態でワイズに投げつける。
このナイフは対悪霊専用の魔法道具だ。
5本投げた内の2本くらいは亜空間に吸い込まれるだろうし、殺傷能力を持ってはいるが普通のナイフと比べれば刃こぼれしやすい。恐らく、再使用は不可能だろう。というか、人に投げたものを再使用したいとは思わない。
つまり、当たるにせよ当たらないにせよ使い捨てになるわけである。
このようなことに使うのは勿体ないが仕方ない。
できるだけまばらにナイフを投げ終わったリヒトは時間停止能力を解除し、さらにナイフのまわりの時間を加速させた。
頭と胸を狙って投げた2本が消滅し、肩、脇腹、足を狙った三本が突き刺さった。
投げた方向はワイズから見てそれぞれ、正面、右斜め前、背後、横、左斜め後ろだった。
「くっ...!」
ナイフが突き刺さった激痛で膝をつくワイズ。
(今こそ好機!)
そう考えたリヒトは、ワイズの背後から断首せんと愛刀『鉄十字』を横一文字に凪いだ。
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「決着だな」
馨射が、そう言ったのとほぼ同時に会場が歓声に湧いた。
その歓声に答えるかのように競技場で手を振っているのは、リヒトではなくワイズだった。
そのリヒトはワイズの足元で気絶している。
「どうして...?」
確かに最後の瞬間、リヒトの剣がワイズを捉えたはずだった。それなのに何故、気絶して倒れているのがリヒトなのだろうか。
「ワイズは『空間を操る能力』を持っているんだ。」
と、説明を始める馨射。
「その中でも特に厄介なのが、『次元の落とし穴』という知覚不能な『次元の裂け目だ』。だが、その技は範囲制限があるから、飛び道具などでその場所を把握するのが基本だ」
「まあ、アタシは飛び道具を持っていないからな。アタシなら地面を蹴りあげて砂を撒き散らすとかして『次元の落とし穴』の場所を探るだろうよ。実際、そうしてきた奴もいる」
「しかし、把握しても『次元の落とし穴』位置を変えられてしまったから仕方がない。つまり、分かり次第突っ込む必要があるんだ」
「その時、ついつい最も危険な『次元の落とし穴』を回避したことで油断してしまうんだが、ワイズはそこを狙ったんだ」
「ワイズは基本的に空間を切断するか、『次元の落とし穴』でしか亜空間と現実空間を結びつけることができない」
「ただし、自分が亜空間に入り込む際は別だ。その時は亜空間へのゲートを自分のいる場所に出現させることが出来る」
「あの時、『次元の落とし穴』を回避して突っ込んだリヒトに対し、ワイズはゲートを出現させた」
「そして自分だけ『空間を操る能力』で空間転移を行い、その場から離脱。結果としてリヒトの攻撃は空振りになり、亜空間へと引きずり込まれたってわけだ」
「亜空間に入ってしまえばもうワイズの勝ちは決まりだ。どうやって殺害しているかは知らないが、噂によると亜空間を圧縮して押し潰しているらしい」
説明を終えた馨射は、ふぅ、と息を吐いた。
普段涼しい顔をしている馨射だが、こう言った観戦の時も涼しい顔をしている。
だが、内心は別だ。
手に汗握るような本戦の観戦をしている時は人知れず緊張しており、見ているだけで疲れてしまう。
「ふっ。まあ、悪くない試合だったな。とはいえ魔法を使うのを見ることが出来なかった。それが非常に残念だよ」
試合の感想を述べる銀想人形。確かに魔法技術を盗もうとしていた銀想からすれば、目的を果たせない試合だったのかもしれない。
「そ、そんなに落ち込むことありませんよ銀想様!次の対戦カードは羅生さんとフランさんの戦いですから!」
「ほう。まるで正反対の二人の対戦か。面白い。魔法使いとしてどのような戦闘を行うか見せてもらうとしよう」
そう言って大人しくなる銀想。
「馨射さん、次の試合に出場する選手はどんな方々なのですか?」
闘技場で分からないことはとりあえず馨射に聞くスタイルの直巳。
「あぁ、そうだな。まず、フランは数いる魔法使いの中でも最強と言われる実力を持つ魔法使いだ。種族が幻想種ということもあり、普通の魔法使いと比べて扱える魔法の数、威力が桁違いらしい。」
「へぇ、すごい人なんですね」
すごい人、というよりすごい妖怪なのかもしれないが、そこは置いておく。
「そうだ。そして羅生はその逆で肉体能力が極めて高い妖怪だ。種族はアタシと同じ鬼だが、単純な肉体能力なら比較にすらならないだろうね。そして、二人とも好んで使用はしないが、固有の能力も持っている。まあ、滅多に使わんないし、今回も見れないとは思うけどね」
そう言ってため息をつく馨射。あのように言うものの、どうやら内心では二人の能力を見たいらしい。
「へぇ...。ち、ちなみにお二人の能力は?」
「まあ、見てればわかるさ」
「そうですね。...って、さっき滅多に使わないって言ったじゃないですかー!」
怒る直巳を見て、笑う馨射。
そんなやり取りをしながらも、直巳は美麗は貴賓席に行くと言っていたが、それは何処なんだろうということを考えていた。




