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再びリスタート――愛知緋蜜を救え!

体のあちこちに残る疼きはなかなか消えず、羊角に突かれ喉を踏みつけられた苦痛が意識の奥深くに焼き付いていた。命が尽きたはずなのに、その痛みだけが鮮明に残り続けていた。


意識が再び戻った時、見慣れた魔女の空間にいた。

東山峙菌は女性の体に戻っているものの、全身の骨がだるく疼き、先ほどの危険な出来事で精神まで擦り切れ、ひどく消耗していた。


風鳴草原の光景が次から次へと脳裏にリプレイされる。狂った羊の群れが押し寄せ、自分は無力に為す術もなく、緋蜜が崖際まで追い詰められる背中を眺めるしかなかった。彼女が心配そうにこちらを振り返る瞳、暴走して炸裂した白光、喉を踏まれ彼女の名前すら満足に叫べなかった無力と絶望……。


後悔の波が一気に彼を飲み込んだ。


依頼を受けたのは自分だ。彼女を守る力がなかったのも自分だ。簡単なC級採取依頼すら失敗させ、異世界で唯一優しくしてくれた人を死の淵へ引きずり込んでしまった。


死んだはずなのに、苦しい記憶を抱えたままこの空間に引き戻され、死すら自分の悲惨な運命から逃れる手段にはならなかった。


劣等感が心の底から濃く膨れ上がる。ただの簡単な採取任務なのに、仲間を守れずみじめに命を落とす結果になった。無力感が心身を包み、肉体の傷と心の鬱屈が二重に彼を苛んだ。


静かな闇の中、細やかな足音がゆっくり近づいてくる。


峙菌はうつむいたまま気分が荒れ果て、周囲の気配に反応する気力も湧かず、渦巻く苦しみを胸に溜め込んだ。


冷たい気配がすぐ傍まで届く。


誰だか顔を上げなくても分かっていた。崩れ落ちそうな感情を噛み締めて飲み込み、指先を白くなるまで握り締める。


「あ~、峙菌ちゃん、また会ったね~」


魔女・霞が柔らかい口調で笑みを浮かべ、彼を見下ろした。


しゃがみ込んで指先でそっと髪を撫でる。相変わらず柔らかな感触だった。


峙菌は黙ったまま、顔を上げる力さえ残っていなかった。


体の怪我の痛みなのか、劣等感と後悔に抉られる心の痛みなのか、もう区別もつかない。全身が冷え、骨の隙間まで無力感が染み渡る。


「具合はどう?」


霞は首を傾げ、指を髪の上に置いたまま問うた。

峙菌はやっと身を動かし、顔を上げるのではなく横に体をずらして彼女の手を避けた。

掠れ震える細い声が漏れる。


「……触らないで」


霞の指先が一瞬止まり、軽く笑って手を引っ込めた。


「わかった」


優しい口調だったが、峙菌には背筋が凍るように響いた。


「これから時間はたっぷりあるもの」

峙菌は目を閉じ、膝に顔を埋めた。緋蜜を危機に落とした後悔が神経を刺し、息も詰まりそうになる。

人を守る力すらない自分が、またこの体に戻され、同じ運命を辿らなければならないのだ。


「そうだ……私、死んだはずじゃ?」


唐突に思い出したように顔を上げ、困惑して問うた。

霞はくすりと笑い、隣に腰を下ろした。相変わらず浮ついた口調だ。


「死んだよ、峙菌ちゃん。羊たちに体を踏み潰されて、芝生一面血で染まっちゃった光景、私でも痛そうだったわ」


言葉が冷水のように背中から流れ落ち、峙菌は体を硬直させ、焦りから手首を爪で掻きむしった。


「なら、どうしてここにいるの?」


「あらあら、これは私がこっそり付与したスキルなの。今まで黙ってただけだよ」


「死んだらどんな気分になるのか好奇心があったから試してみたの~。でも様子を見終わったから説明するわ、峙菌ちゃん」


「嬉しい?再挑戦できるようになったの!」

悪戯っぽい笑みを浮かべ、何気ない雑談のように続ける。


「ゲームのセーブリロードみたいな能力よ。死んでもやり直せるの」


峙菌の呼吸が詰まり、慌てて真正面から霞を見つめた。茫然と不安が渦巻き、彼女の悪趣味に愕然とする。


「だけど無限には使えないわ」


霞は一本指を立てて軽く揺らし、補足した。


「それにリロードしても元の世界には戻れないの。壊れたセーブデータから新しい別の存档へ飛ぶイメージ、全く新しい時間軸に放り込まれるのよ」

首を傾げ悪戯めいた口調で続ける。



「君が命を落とした元の世界はそのまま進行する。風鳴草原の出来事も、緋蜜ちゃんの結末も本来の流れ通りに進む。君だけが世界から切り離され、二度と戻れなくなるの」



「それに一週間に三回までしか使用制限があるわ。使い過ぎると魂が傷つき、最悪砕け散っちゃう……分かった?」


優しい声色なのに、一字一句が氷の釘のように脳に突き刺さった。


死んだのではなく無理やりリロードさせられただけ、後悔と苦痛を抱えたまま新天地へ送り出され、緋蜜に謝る機会すら永久に奪われたのだ。


口を開こうとしても声が出ず、再び膝に顔を埋めた。熱い涙が頬を伝い、トレーナーに染みて小さなシミを作った。


死すら自分で選べない、償うチャンスさえ消し去られた。


霞はその様子を見て穏やかに笑い、拗ねた子供をあやすような柔らかな口調で言った。


「気にしないで、ゲームのリスタートだと思えばいいでしょ。昔よく遊んだじゃない?」


冷たい指先でそっと彼の頬を撫でる。綿のように柔らかな動作だった。


「リロードして、もう一回挑戦すれば大丈夫」


峙菌は顔を上げないまま肩が微かに震えた。胸が詰まり、また風鳴草原の光景がよぎる。


自分が消えた後の世界で、崖際の緋蜜は無事に羊の襲撃を逃れられたのだろうか?考えるたびに胸が締め付けられた。


長い逡巡の末、掠れた声が漏れた。


「……今回リスタートしたら、出来事は前回と同じ流れになるの?」


「そうよ」

霞は軽やかに答えた。「世界の流れは変わらない、君だけが新しい時間軸へ飛び込むだけ」

峙菌は黙り込んで思索に耽った。過去の世界はもう取り返しがつかない、自分には何も干渉できない。だが新世界では危機が再び訪れる。前回の惨劇を知った今なら、緋蜜を守れるかもしれない。白光の中の人影も、死ぬ間際まで確認できなかった謎を今度こそ探り出せる。

葛藤の末、まだ涙の跡の残る瞳を上げ、次第に決意を宿した。

「リスタートを選ぶ」

「今度こそ緋蜜を守る。その人影の正体も突き止める」

霞は彼を眺めて目尻を緩め、そっと頭を撫でた。

「うん」

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