Cランク依頼に挑め!白き光の正体は誰だ?!
「なんで、なんで、なんで……!どうしていつもあなただけがこんなに優秀で、こんなに眩しいの……!腹立たしい、こんなに強いあなたが……ああ——本来主人公は私のはずなのに、なんでなの……!」
その少年の姿が脳裏に浮かぶだけで、苛立ちと不安が一気に押し寄せ、嫌悪感がどんどん膨らんでいった。
冷たい汗がうっすら浮かび、峙菌は眉をきつくひそめ、無意識に俯いた。
緋蜜に自分の異変を悟られないよう、必死に感情を抑え込んだ。
隣の愛知緋蜜は変わらず掲示板に集中し、優しく依頼を選びながら小声で教えてくれた。
「峙菌、この依頼は簡単で危険も少ないわ。報酬も妥当だし、初心者にぴったりなの」
一枚の紙を指さし、柔らかい瞳でこちらを見つめる。
「これにしてみる?」
峙菌は深く息を吸い込み、胸の渦巻く嫌な感情を無理に押し殺し、顔を上げて普段通りの口調を装った。
「うん、いいよ。見てみる」
緋蜜の指す先を見ると、黒いインクの独特な字体で依頼内容が記載されていた。
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【C級採取依頼:風鳴羊角採集】
場所:郊外風鳴草原
任務:羊角十本収集
報酬:銀貨十七枚
補足:風鳴羊は軽度の攻撃性を持つが、危険度は低く初心者推奨。
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「実は私、治癒薬を作っているの。ちょうど羊角が材料として必要だったの」
緋蜜はにっこり笑って付け加えた。
「この依頼を受ければ、ついでに材料も集められて一石二鳥なのよ」
「ほんとだ!じゃあ今から行こっ!」
「うん、今すぐ行きましょう。遅くなると夕飯に間に合わなくなっちゃうから」
緋蜜は頬を軽くつまみ、少し困ったように首を傾げた。
「お兄ちゃん、私が遅く帰るとまた小言を言うんだもの」
峙菌も確かに、と思って頷いた。
ギルドを出ると、愛知緋蜜に従って街外れへ向かった。風鳴草原は郊外すぐの場所に広がっていた。
「もう少し進むと風鳴草原に着くわ」
歩きながら、緋蜜は真剣に注意点を教えてくれた。
「風鳴羊の角は特殊なの。普段草を食べてリラックスしている時は柔らかく、そっと折るだけで簡単に取れるの。でも危険を察知したり警戒モードに入ると、角が一瞬で石のように硬くなって、攻撃的になるの」
「それに群れで生活しているから、子羊は必ず母羊と行動するの。母親は子供を守るのに必死なのよ。子羊が怯えて鳴くと、草原中の仲間が一気に集まってくる。だから絶対、気づかれないように。草を食べている隙に採らないと、峙菌が大変な目に遭うわ」
「じゃあ、もし危なくなったら緋蜜さん、守ってくれる?」
星が降ったような瞳で緋蜜を見つめると、彼女は柔らかく、迷いなく答えた。
「守るわ」
――心がぶち抜かれるような衝撃。
峙菌の全身に一気にやる気がみなぎった。
半時ほど歩くと、視界が一気に開けた。
少し先の土手の下に暗い洞窟が見え、そこが風鳴羊の巣穴だった。
洞口周辺には数匹の羊がいて、無防備に草を食んでいた。
「あそこよ」
緋蜜が指をさした。
「行こう。峙菌、絶対音を立てないで。洞口周辺だけで採取して、奥には入らないで」
峙菌はこくりと頷き、巣穴の方を見て唾を飲み、足音を殺して緋蜜の後ろからゆっくり近づいた。
草に夢中で角が柔らかくなっている子羊を狙い、手を伸ばした——その瞬間。
洞窟の奥から、低く不気味な羊の遠吠えが響き渡った。
ただ草を食んでいたはずの群れが、まるで指令を受けたかのように一斉に頭を上げた。
穏やかだった瞳は一気に険しくなり、ふにゃふにゃだった角が肉眼で見て分かるほど硬く、鋭く光り始めた。
「おかしい……普通の風鳴羊じゃない!」
愛知緋蜜は即座に振り返り、焦った声で峙菌に警告した。
あの不吉な鳴き声を合図に、羊たちの様子は完全に変わった。
鼻を激しく動かし、空気の匂いを探り、草を噛む動作を完全に止める。
一斉に二人の方を真っ直ぐに睨みつけ、喉から低い唸り声を漏らした。
次の瞬間、最前の数匹が頭を下げ、硬く光った角を突き出し、矢のように突進してきた!
「気をつけて!」
緋蜜は咄嗟に峙菌の腕を引っ張って横に躱した。
だが一歩遅れた。
最速で突っ込んできた羊が、勢いよく峙菌の腰の後ろに激突した。
激痛が貫き、呻き声を上げる間もなく芝生に叩きつけられた。
「峙菌!」
緋蜜の顔が一瞬青ざめた。
駆け寄ろうとした瞬間、別の羊に進路を塞がれ、鋭い角が彼女に向かって突進してきた
峙菌は草むらに倒れ、腰の衝撃箇所が焼けるように痛み、呼吸するたびに体が裂けるような痛みが走った。
痛みを堪えて顔を上げると、凶悪な目つきの羊たちに完全に包囲されていた。
歯を食いしばって体を起こし、緋蜜を庇おうと前に出ようとした。
だが体を浮かべた瞬間、治りきっていない古傷が引き攣れ、顔や胸の傷が激しく疼いた。
手をついて起き上がろうとした次の瞬間、迫ってきた羊に手首を強く踏みつけられた。
骨が軽く鳴る衝撃に眼前が真っ暗になり、再び地面に崩れ落ちた。
治りかけた口元の傷が裂け、血の鉄臭さと草の匂いが口いっぱいに広がった。
視線を上げた先、真っ先に飛び込んできたのは緋蜜の姿だった。
自分が絶望的な状況に追い込まれ、脇腹の傷から絶えず血を流し、顔は紙のように白いのに——彼女はずっと自分の安否ばかり気にかけ、眉をきつくひそめてこちらを見つめていた。
二匹の羊に前後を塞がれ、崖っぷちまで追い詰められて逃げ場もない。
それでも手元の光球が動揺で揺れながら、彼女は震える声で叫んだ。
「来ないで……!」
噛み締めた唇から震えが漏れ、不安定な光球を投げ出した。
威力の定まらないものもあれば、強い光で羊を怯ませるものもある。
だが群れは狂ったように取り囲み、一向に退かなかった。
崖から半分体を乗り出し、気を取られた隙に羊に脇腹を突かれ、踉跄く緋蜜の姿を見た瞬間、峙菌の胸は刃で抉られたように激しく痛んだ。
「俺は一体何をしてるんだ……?」
必死に這い寄ろうとする。
だが洞窟から次々と羊が溢れ出し、無数の角が一斉に自分に向かって突っ込んできた。
一回、二回、十数回……背中、腰、脚、古傷に重なる衝撃。
激痛が脳まで貫き、呼吸さえ鋭く荒くなった。
地面に押しつぶされ、身動き一つ取れなくなった。
絶え間ない攻撃をただ受け続けるしかない。
傷口から血が溢れ、生成りの服を濃く染め、下の芝生をどんどん褐色に変えていく。
骨が鈍く鳴り、意識が砕け散っていく。
耳に残るのは羊の唸り声と、自分の弱まり続ける鼓動だけだった。
なぜ守れない?
なぜ連れてきてしまった?
ただ材料を手伝いたかっただけ、ただ簡単なC級依頼だと思っただけなのに……
白く崩れる緋蜜の顔を見つめ、後悔と絶望だけが頭を埋め尽くした。
自分がいるだけで、いつも周りを不幸に巻き込んでしまう。
「緋蜜っ!!」
最後の力を振り絞って叫んだ。
声が漏れた瞬間、最前の羊が彼の喉元を強く踏みつけた。
骨が鈍く響き、空気が肺から完全に押し出され、声が完全に詰まった。
血と草の臭いが気管に流れ込み、視界が急速に暗転した。
緋蜜の姿さえ歪んでぼやけていく。
崖っぷちに立つ彼女の姿を眺め、激しい罪悪感と自責だけが心を支配した。
――私が連れ込んだ。
――私が危険に晒した。
――全部私のせい、私のせい、私のせい……
無限の後悔に意識が飲み込まれ、再び暗闇に落ちていく。
完全に意識が途切れる寸前、崖際まで追い詰められた緋蜜の掌の光球がついに暴走し、強烈な白光が草原全体を呑み込んだ。
白い光の中、遠くから何者かが二人に向かって駆けてくる、ぼんやりとした人影だけが最後に映った。
そして、視界は完全に闇に閉ざされた。




