第三話 「不気味な女」
「リーネ……?」
僕を庇ったリーネが、その場で膝から崩れ落ちるのが見えた。流血はしてない、安心は到底できないが。
「アルマく〜ん、今日は貴方に用があって来たのよ。私の名前はリベリア。覚えておいてちょうだ〜い」
「リーネに、リーネに、何を……?」
恐怖と怒りが、激しく渦巻く。僕は立ち上がり、震えた右手を鞄に入れて、銃を隠し持つ。
「麻痺毒を塗った針で刺しただけよ。ほら、もう気絶してるじゃない。本当に、人間は脆いのね」
「だけって何だよ……」
リベリアは顔色一つ変えない。僕のことを達観したかのような目つきで見つめる。
喉がひゅっと閉まり空気の通りが悪くなる。次に狙われるのは、間違いなく僕だ。
「それより、本題に入らせてもらうわ。貴方は自分のこと、この世界で記憶を無くした少年だと思ってな〜い?」
「……何が言いたい」
リベリアは不敵に口角を吊り上げる。
「全然違うわよ、ぜ〜んぜん違う。」
一拍置いて、リベリアは低く僕に告げた。
「異世界転移者ーーそれも、魂だけの」
「なんでそんな事をアンタが知ってる?」
「だって〜異世界転移させた張本人なんだから」
「……はぁ?」
好き勝手言う女に、僕は思いがけず、右手に力が入る。そして、鋭い眼光をリベリアに向けた。
「そんなに怒った顔しないで〜。可愛いお顔が台無しよ。」
「嘘だ! 異世界転移? そんな事を人にさせて何が楽しい?」
「貴方の尺度で私を測らないで。私の美学は絶対的に正しいの」
「それに、名前なら思い出せた。それは説明つかないんじゃないのか?」
「貴方が思い出したのは、体の名前よ。それに、怒ると可愛いお顔が台無しだわ」
否定したいが、出来ない。確かに、そんな気がして、胸の奥にざわつきを感じたからだ。
「お話は終わり。さぁ、貴方にも眠ってもらうわ〜」
漂う強者のオーラ。まともに戦うのは、分が悪そうだ。
こんな可愛い少年が、流石に銃を持ってるとは思わんだろ。猫騙しを先にぶち込む、それしかない。
(今だ!!)
僕は鞄から銃を取り出して、直ぐに引き金を引く。
カチッ。
乾いた音が虚しく響く。
「……弾切れかよ」
リベリアの口元に白い光が収束。
次の瞬間、一直線に閃光が飛んでくる。
僕はそれを紙一重で躱して、そのまま横に走りながら逃れる。
リベリアは体を徐々に回転させて、レーザー状の攻撃を、僕を追いかけるように放ち続ける。
「まずい、まずい、まずい、このままじゃ追いつかれる――」
その時、木の焼け焦げた匂いが鼻をつく。
(何か障害物があれば防げるのか!)
頭上を斬撃のように薙ぐ光線をしゃがんで避けて、すぐさま大木の後ろに滑り込む。
このまま逃げ続けてもジリ貧。荒くなった息を整えながら、作戦を練る。追い詰められるほど、頭が冴える感覚があった。
きっと僕なら――出来る。
僕はリーネから持たされていた回復薬を取り出す。 そして、即座に唱える。
「エルフラーレ!」
回復薬がアクアボールの様に、丸く固形になる。
「やっぱりだ……!!」
「木の後ろに隠れても無駄よ」
長い溜めを要した光線が、太い幹を焼いて、裂く。僕は轟音と共に倒れる大木を避ける。
煙と木片が周辺に舞い上がった。
僕の姿が煙に隠れて、視認できないリベリアに対して、正面から構える。
二度と巡ってこないであろう、奇襲の好機。
リベリアはリーネを持ち上げて、盾の様に掲げた。
「撃てるのかしら。私には可愛い人質がいるのよ」
余裕の笑みを浮かべる悪女に、迷わず狙いを定める。
「小癪なことをするな!!魔物め!!」
引き金を引く。
装填された回復薬がリーネの胸元に命中する。砕け散り、飛沫となって広がり、背後のリベリアにもかかる。
「うぁぁぁーーん!!苦しい、苦し……」
ゲラゲラ笑っていたリベリアの顔が、苦痛に歪む。
「どうしたの? 回復薬を与えてやっただけ、なんだけどなぁ? 」
「人間ごときが…調子に乗るな……」
「声が小さくて聞こえないなぁ」
リベリアの顔面へ渾身の蹴りを叩き込む。
「人間のことを侮るな……!!跪いてろ、クソ女!!」




