第二話 「冒険者ギルド本部」
天井にシャンデリア、床には大理石。
華やかな雰囲気が漂い、まさに貴族の住まう部屋のようだ。
さらに、鋼鉄の鎧を着た近衛兵が、赤髪の男に仕えている。廊下でも嫌な視線を周りから浴びた。僕はどうやら、警戒の的のようだ。
(銃を持ってたのが原因だろうな……)
「挨拶が遅れましたね。私はギルドマスターのラズウェインと申します。どうぞよろしく」
「貴族らしい名前ですね。僕は……」
肝心の名前は覚えていないんだった。
こういう所で、会話を繋げられるのが、コミュ強というものなんだが。
あれこれ考えている内に、ラズウェインが話し出す。
「貴方様も名乗ってはいかがですか? 礼儀というものでしょう」
隠しても得はない。拠り所が無いのは、僕にとっても不都合なので、正直に言ってしまおう。
「僕、名前を忘れてしまったんです」
「親の名前とかも覚えていないのかい?」
「……覚えてません」
「もしかしてだけど……まじで何も覚えていなかったりする?」
僕は首を縦にブンブン振る。
「じゃあ――今、名前を付けちゃう?」
ラズウェインが顔をぐっと近づけてくる。
(……名前ってそんな軽く決めるものなのか?)
返答に困ることをしてくる。多分、ラズウェインは変人なので、揶揄うことにした。
「近いです。それにまだお若いのに、加齢臭がひどいですね」
「コーヒーを飲んだんだ、加齢臭が原因じゃあないよ。フフフ、中々度胸があるのは良いことだ」
互いに顔を見合わせていると、ノック音が三回、部屋に響いた。
「失礼いたします。ラズウェイン様、朝食の準備が整いました。それと、敬語忘れてますよ」
「それはすまない。俺は敬語が苦手なんだ」
お淑やかな声の主は、静かに部屋へ入ってくる。
「俺が紹介しよう。彼女はリーネ。この施設の受付嬢だ。冷たい子だけど、街では別嬪だと噂が絶えないんだよ。」
「相変わらずうるさいですね、あなたは」
リーネは冷ややかに言うが、ラズウェインは気にした様子もない。
「まぁ、名前を今すぐ決めるのは難しいだろう。ならこの施設について話そうか。ここ冒険者ギルド本部は、多種多様なクエストが集まる場所だ。食事や武器防具の手入れ、長期の宿泊もできる」
その後も、説明は延々と続いた。
この世界は魔法があること。
魔物がいて、それを魔王が統率していること。
(どれも、既視感のある話だな……)
途中で少し飽きてしまったので、
ボーっとしていたら、突然名前を思い出せた。
忘れたくなくて、話を遮ぎるように宣言する。
「僕の名前はアルマ。アルマ・ルクセリア」
ラズウェインはわずかに眉を上げた。
「随分と唐突だねぇ。俺の話は、はなから聞く気はなかったってことか。舐めたガキだ」
「舐めて無いです。話は聞く気無かったですけど。
それで、結局僕はこれからどうすればいいんですかね?」
「――」
ラズウェインが言いかけたところで、リーネが先に口を開いた。
「私、今手が空いております。魔物討伐の見本を、アルマに見せてさしあげましょう」
その提案を、ラズウェインはあっさりと了承した。
「俺も同行しようか?」
「結構です」
リーネは間髪入れずに言い放った。
「行きますわよ、アルくん」
(ア、アルくん?!)
唖然としている僕を、リーネは強く引っ張る。
僕は流される様に、部屋を退出した。
「相当気に入ったみたいだね、アルマのことが。」
ラズウェインは表情を和らげて、独り言の様に呟いていた。
魔物は街の外の森にいるらしい。本部と外へ出るための門は、結構な距離がある。その道中で、用意を整えるようだ。
因みに、僕はリーネに対しては可愛い子供モードで行こうと決めている。なんかそうすると、良いことが起こる様な気がして。
早速、僕たちは手を繋いで歩き出した。
「さっき僕のこと……」
「聞き間違いじゃないかしら。それより、回復薬を買いに行くわよ」
(明らかに話を逸らしたな……それに、まだ何のことかは話して無いのに)
リーネは頻りに髪を手でとかす。
淡い青の、長くて綺麗な髪の毛をしてるなぁ。
リーネのことは冷淡と聞いたが、少なくとも僕に対しては違うな。タメ語を許してくれたし。ラズウェインが過去に、何かしでかしたに違いない。
「擦り傷や骨折、火傷なんかも治せるんですよ。
あ、毒は治せませんけどね」
上機嫌に説明が続く。
不思議なことに、人間には薬なのに、魔物には毒として作用するらしい。
「薬屋に着きましたね。アルマくんはここに居てください。動いちゃダメですよ」
「りょーかい!」
リーネが購入するのを待っている時、僕は建物の窓の反射で、自分の顔を見た。
黒い髪と瞳、それに整った顔。
ショタとしては一級品レベルの可愛さをしている。
(なるほど。通りで僕のことを……)
と、ちょうどリーネが戻ってきた。
「じゃあ行きましょうか」
ニコニコしながら僕の手を再び掴む。
笑顔もめちゃくちゃ似合うなぁ――
僕たちは森に到着、熊の姿をした魔物がいるのを発見し、対峙した。
「アルマくんは離れて見ていてください」
リーネは髪をポニーテールに結んで、杖を構える。
「フラーレ」
「おぉー!これは……水?」
「そう、ただの水」
水の塊を出す魔法――基礎魔法なんだろうな。
「エルフラーレ」
手元の水が分割、幾つもの球体になった。
「これが、いわゆるアクアボール」
試し撃ちの様に、アクアボールを熊の右手前に何発か撃つ。
(全然、強そうに見えねー)
その時、熊がリーネの方向へ突進を開始する。
アクアボールを一つ、熊めがけて放つ。
左に少しずれ、熊は右に移動して交わそうとする。
そこには、先程の水が残っている。
「フロスト!」
熊の足元の水が凍る。
「はい、お終い」
動けない熊に氷の礫を全弾投入する。
(ただの試し撃ちに見せた、ブラフだったのか。)
「初めての魔法、どうだった?」
「うん、凄いカッコ良かったよ。それに魔法って、単純に狙って撃つだけじゃダメなんだね」
「じつは、今の私の作戦はテンプレートなんだ。熊とか鹿みたいな魔獣は、知能が低いのよ。だから粗末な罠でも引っかかってくれるの」
リーネは誇らしそうに話してくれた。
そうしていると、木の影から女性が現れた。金髪ジト目の優しそうな顔をしている。こんな人が母親だったら良いなー、と反射的に考えてしまった。
「えっと、助けてくださりありがとうございました。熊の魔物に、ずっと狙われていたんです。本当に助かりました。あなたたちがいなければ、一体わたしはどうなっていたか……」
僕たちに近づいてくる。足音を立てず、感謝の言葉をつらつらと述べながら。
いきなり、リーネが僕を押し倒す。
「あぁぁ……」
嫌な予感は的中しがちだ。




