第一話 「目覚めと奇妙な自分」
目が覚めて、光が差し込んでくる。
「ここは……どこだ?」
視界がぼやけて周りがよく見えない。
自分は、街の中にいるようだ。
賑やかな民衆の声が自然と耳に入ってくる。
視界がはっきりしてきた。
目をパッと見開いて、衝動的に言葉がでる。
「綺麗……!!」
初めての感動。
中世風の美しい街並み。
まるで異世界の様な…
でも、ふと一つの疑問が浮かんできた。
……この景色を見たのは初めてかな?
それはない。
そっか……記憶が無いんだ、自分。
この優美な景色だけではない。
名前や年齢、その他諸々。
さらに困ったことには、今までどうやって生活していたか、すっかり忘れてしまったのだ。
けど、普通忘れるか?
実は、思い出せないふりして、そもそも見たことがなかったりして。
まぁ、とりあえずは……
「記憶を失ってる……のか?」
そういうことにしておこう。
でも、悲観的には考えてない。
実際に、何もかも新しく感じられて、興奮してる。
こういう時こそ、落ち着いて考えなきゃ。
情報の整理タイムにしよう。
まず、自分は男だ。
なんとなく感覚的に分かる。
一人称は僕にしておこう。
あとは、年齢か。
思い出せないが、体つきを見れば大体推察できるな。
視点が低いし、華奢な体をしている。
(10歳くらいか……)
いや、そんなことはどうだって良いや。
(とりあえず街を探索してみるか……!)
思いがけない新天地にワクワクが止まらない。
街の人とも話してみたい。
「さぁ出発だ……」
(あれ?)
足が動かない。
いや……動かなかったというより、時間がほんの一瞬巻き戻ったような。
前に出したはずの足は幻覚?
とにかく脳の命令に体が従ってくれなかった。
やり直すか。
「さぁ出発だーー!!」
すると、僕の体は意に反して、後ろを向いて歩き出した。
後ろには街の外へ出るための門がある。
このままだと……だけど手も足も抵抗できない。
(まぁ、街の外から探索しても良いか……)
自分に無力な僕は、街の外へ飛び出していった。
そこから続く道なりに、僕は進んでいった。
明るい日差しのもとで、鼻歌を歌いながら。
(うおっと!)
いきなり、道の脇の森へ、ぎゅっと体を引っ張られる。
なぜか僕自身に!
しかも思ったより強いな……
(このままだと道を逸れる!誰か呼ばないと……)
焦りながら、通りすがりの男に助けを求めた。
(そこのお兄さん、ちょっと助けてくれない?……おーい、聞こえてるーー?)
声すら出せないと気づいた時に、もう遅かったのかもしれない。
(まずい!!何か、何か出来ること……)
必死に目を動かして合図を送るも、届いたかは怪しい。
僕はこのまま森の奥へと運ばれていった。
(まったく、どこに向かってるんだ?)
しばらく経っても、獣のように、一直線に突き進んでいた。
僕はもう正直諦めている。
だって、木の枝が体に当たって痛いし。
遥か遠くに木の隙間から何かが見えた。
(あれは……イノシシ?にしてはデカくないか?)
勢いは止まる気配がない。
(まずいまずい、このままだとぶつかる――。)
「うぁぁ――!止まれーー!!」
(願いが届いたのか、意図的かは分かないけど…解放されたな)
いやぁ、いきなり声が出た自分に我ながら驚いた。
切り傷だらけの僕は、息を切らしてその場で地べたに座り込む。
(はぁはぁ……ハハ……これじゃあどっちがイノシシか分んないな)
ドシドシと足音を立てて近づいてくるイノシシ。
サイズは通常の十倍はある。
経験したこともない恐怖が、僕を襲う。
(休憩してる場合じゃない!今すぐ逃げないと……)
間一髪突進を交わした僕は、イノシシと距離を取った。
その時突然、びたっと体の震えが止まった。
再び訪れる、拘束されたような感覚。
僕の体が勝手に、カバンから黒い銃を即座に取り、構える。
(銃!?そんな物騒なものをなんで僕は持ってるんだ?)
直後、一切の躊躇いもなく、引き金を引く。
紫色の一風変わった弾丸が心臓に命中し、貫通する。
崩れ落ち、灰になっていくイノシシ。
体が解放されて、地面に横たわる。
「もうどうなってんのか、訳わかんね……」
「おーーい、君だいじょ……」
遠くから声が聞こえる。
さっきのお兄さんだ……察しが良くて助かった。
言葉を聞き終わる前に恐怖と安堵の落差に疲れ切った僕は、気絶してしまった。
長い眠りから覚めた僕は、温もりのあるベッドにいた。
飛び起き、部屋の扉を開けて外へ出ると、廊下に繋がっている。
(何だか話し声が聞こえる……行ってみよう)
他の部屋より、格段に大きい扉を開けて、入室した。
中にいた、派手な赤い髪の男が言う。
「おはよーーございまーす!!今日から、君は俺の手足になってもらうよ」
……は?
「まだ寝ボケてんのかな、僕は」




