26 勇気を出して
日が沈み始めた。空に少しずつ星が瞬き出す。
ここからは多くの人が、山や丘などに登り始める時間となる。
毎年この季節になると、星光花という花が咲く。白くフワフワとした綿のような花で、夜になると光るという不思議な性質を持っている。
その光る姿がとても美しく幻想的なので、星夜祭の日に観賞に行く人が多いのだ。
貴族の女性は夜歩きなんて許されないから、こんな時じゃないとなかなか見に行けないのよね。
「そろそろ、丘の上に行きましょうか?」
私が言うと、テルルが残念そうに顔をしかめた。
「そうしたいのはやまやまなのですが……わたくし、慣れない靴で足を痛めてしまったみたいです。申し訳ありませんが、お姉さまとキセノさんで行ってきていただけますか?」
「えっ!? テルル、足痛いの!? ダメよ、そんなの。一緒に帰る!」
「………」
テルルが無言で額を押さえた。ダメだ、通じない……とぼそりと呟く。
「テ、テルル~?」
私がオロオロしていると、テルルがずいっと顔を近づけ、私にだけ聞こえるように囁いた。
「……お姉さま。勇気を出してくださいませ」
「!!」
その言葉で、テルルの真意を悟った。……テルルは私がキセノを好きなこと、知ってたんだ。
これまでのことを思い返してみれば、テルルがずっと私をサポートしてくれていたことに気付いた。
「テルル……」
「タンタル様はわたくしが引き受けます。さあ、お姉さま。行ってらして?」
そう言うとテルルはぐいっとタンタルの腕をつかんだ。
「うおっ!? 何だ、テルル!」
「タンタル様。わたくし少し足を痛めてしまったようです。家まで送っていただけますか?」
「はぁっ!? いやお前、さっきまで走って……ああ……」
タンタルがちらりと私とキセノを見た。
「……分かった。私が送っていこう」
「ありがとうございます、タンタル様」
逃がさないとばかりにタンタルの腕に巻き付くテルル。えっと、今のテルルは男装してるから、怪しげなカップルのように見えてるけど……。
「……いいんですか? サマリウム様」
今度はなぜかキセノが驚いた表情でタンタルに問いかけた。タンタルは少し複雑そうな顔を見せたが、キセノに微笑んだ。
「……いいんだ。セレンを頼む……キセノ」
「!! ああ、分かったよ、タンタル……!」
あれ? いつの間にかこの二人、仲良くなってる?
同じ釜の飯……じゃなくて、屋台フードを食べたからかしら。
ともかく、妹にここまでしてもらって行動しないなんてありえない。私はお腹にぐっと力を入れると、キセノの腕を引っ張った。
「じゃ、じゃあキセノ。ふ、二人で行きましょう」
「あ、ああ……!」
テルルとタンタルに別れを告げると、私たちは丘の上を目指した。




