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27 タンタルサイド その1

「……ずいぶんあっさりと引き下がりましたのね」


腕に巻き付いたテルルが、じっと私を見上げてきた。


「せっかく最後のチャンスを差し上げたのに、告白すらしないなんて……。後悔しませんの?」


呆れたように言われ、私は苦笑した。


「……自業自得だ。私が想いを告げたとしても、セレンは絶対に信じない。私自身が何年もかけて、そう仕向けてしまったんだ……」


本当は、さっき二人きりになった時に告白したかった。セレンと二人きりで話せる機会はほぼ無いので、私にとってあれはきっと最後のチャンスだった。

けれど……これまでに私が犯した罪が、私自身に返ってきた。


――何年言われ続けてきたと思ってるんですか。さすがに無理がありますよ――


セレンの言葉を聞いて、自分が取り返しのつかないことをしたのだと自覚した。

もっと以前に謝っていれば。素直に可愛いと、お前が好きだと言っていれば……。

……今となっては、考えても仕方ないことが頭をよぎる。


「……不器用な人ですね。せめて告白くらいして、スッキリすればよかったのに」

「罪には罰が必要だろう。セレンは許してくれたが、私がやったことは無かったことにはならないからな。この想いを告げないことが、私にとっての罰だ」

「……本当に、不器用な人」


テルルの声には、呆れだけでなく憐れみが含まれているようだった。


「……どうしてお前は私にチャンスをくれたんだ?」


ずっと不思議だった。私がセレンに対してあれだけの暴言を吐いていたのに、なぜテルルは私の同行を許し、わざわざ二人きりにしてくれたのだろうと。

じっとテルルの言葉を待つと、彼女はふぅと小さくため息をついた。


「……あなたが姉に好意を持っていることは、わたくしだけでなくお互いの家族も、なんなら学園でも大半の人間が知っております」

「……え?」

「え、じゃありませんわ。本当にもう……。見ている方が地団太を踏みたくなるような拗らせ具合で、みんなイライラしていましたのよ? だいたい、姉に悪意を持つ人間は真っ先に兄が排除しますもの。それを逃れている時点で、あなたは多少なりとも応援されていたということです」

「応援……?」


テルルの言葉はにわかには信じがたかった。姉至上主義のくせに、セレンに嫌われている私を応援するなんて矛盾しているだろう。

私が不審な顔をしていたせいか、テルルが言葉を続けた。


「あなたは、姉が参加するお茶会ではチーズを使ったお菓子を増やすよう、料理人に言っていたそうですね」

「な、なぜそれを……」

「さりげなく猫の小物を飾るようも指示したと」

「そ、そこまで知ってたのか!?」


ずっとセレンを気にかけているうち、チーズ料理や猫を好きだということを知った。

言葉で素直になれないぶん、せめて茶会くらいは喜んでもらいたいとこっそり指示を出していたのだが……。


「姉は全く気付いていませんでしたが…あなたの行動を見て、わたくしも兄も静観することにしたのです。あなたが素直になって姉を大切にするなら応援しようと」

「………」


私は、愚かだ。少なくともオキシー家の人々は、私のことを見守ってくれていたというのに。それに気づかず、焦ってセレンに嫌味ばかり言って、どうしようもないな、私は……。


「だからわたくし、せめてあなたが告白くらいはできるようにお膳立てしたんですけどね……。まさかここまでヘタレだとは」


やはり、イチゴあめを買いに行くというのは嘘だったんだな。あの場面を見られていたと思うと恥ずかし過ぎて憤死したくなるが、テルルのおかげでセレンと二人きりになれたのだから文句は言えない。


「……別に、自分への罰というだけで告白しなかったわけじゃない。身に染みて分かったからさ」

「何がです?」

「……セレンが一番笑顔になるのは、あの男といるときだと」


少し前から分かっていたんだ。セレンが誰を想っているかなんて。

とびきり可愛い笑顔の先にいる人物は、いつもセレンのことを可愛いと褒めていた。


「……ねぇタンタル様。植物を使った面白い実験の話を聞いたことがありますの」

「は? 何だいきなり……」

「同じ植物にね、片方は好きだとか綺麗だとか、良い言葉をかけるのです。もう片方には逆に、駄目に見えるとかまだ生きてるのかなんてひどい言葉をかけます。その違いを実験したそうですわ」

「………」

「良い言葉をかけられた方は、青々と良く成長したそうです。ですが悪い言葉をかけられた方は……葉が垂れ下がり枯れかけたのだと」


テルルが言葉を区切り、私をじっと見た。


「……今の私に聞かせるには、なかなか意地の悪い話だな」

「あら、このくらいの報復は許される範囲でしょう? わたくしの意地悪はここまでですわ。姉にも落ち度が無いわけではありませんしね」

「どういうことだ?」

「姉は少し……貴族の女性としては鈍感過ぎるのですわ。わたくしはそんな姉が大好きですけど、タンタル様のお相手が姉でさえなければ、おそらくお気持ちに気付いてはもらえたと思います。あなたと姉は鈍感同士過ぎて、相性が良くなかったのかもしれませんね」

「……あまり慰めになっていないが」


そう言いつつも、私の心はテルルの言葉で少しだけ軽くなっていた。私の罪は無くならないが、私とセレンはきっと、運命や巡りあわせというものに縁が無かったのだろう。


「さて、どうします? 失恋のやけ食いならお付き合いしますわよ?」


テルルがニヤリと挑発するように私を見た。


「……まだ食べるのか。いい加減腹を壊すぞ」

「あら、この程度で壊れてしまうようなヤワなお腹はしていませんわ!」

「………」


それは令嬢としてどうなんだと思う私の腕を、テルルがグイグイ引っ張る。


「あっ! 肉巻きおにぎりがありますわ! わたくしまだ食べたことありませんの!」

「待て! せめて鯛焼きくらいにしとけ!」


テルルに引きずられるまま、私は屋台をはしごする羽目になった。

これでもテルルはきっと、私を慰めようとしてくれているのだろう。

自分の胃袋の心配はあったが――今は何も考えずやけ食いをすることにした。




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