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20 キセノサイド その2

「セレンを星夜祭に誘おうと思う」

「……最終学年でやっとかよ。去年はどうしてたんだ?」


俺が決意を込めて宣言したのに、ネオジムは呆れたような目で見てきた。


「誘う前に家族と行くって言われたんだよ! ヘタレ扱いするな!」

「家族と? ……ああ、妹ちゃんとかぁ」

「いや、妹と兄と兄の婚約者と一緒だと言ってた」

「え、なに、その特殊なグループ」

「オキシー家は家族仲が良いらしい」

「マジか~。俺なら兄妹の婚約者なんて何話せばいいのか分かんねーけど」


ネオジムの言うように、兄妹仲が良くても兄妹の婚約者とまで仲が良いというのは珍しいだろうな。そう考えると、オキシー家はやや特殊なのかもしれない。


「一昨年はどうだったんだ?」

「一昨年か……。思えば、あの頃に俺はセレンに惚れたんだよなぁ……」

「え、何? ここで惚気が入るの?」

「ちょうど今と同じくらいの時期のことだった。あの日俺は……」

「語り始めた!?」




一昨年の星夜祭前。まだセレンと親しくなり始めた頃で、いい友人として付き合っていた。いつもニコニコしているセレンのことを可愛いとは思っていたが、恋愛感情は持っていなかったのだ。

星夜祭に誘うつもりなんてもちろん無く、俺はネオジムと露店でフードファイトをする予定だったし、セレンも家族と行くと言っていた。


ところが星夜祭前日になって、セレンが侯爵家の巻き毛野郎に絡まれているところを目撃したのだ。


「セレン! お前、今年の星夜祭も家族と行くんだってなぁ?」

「………」

「冴えない女は誰にも誘ってもらえないんだな。気の毒に」

「………」


あまりにひどい言い草に、俺は言葉を失った。これほど侮辱をされても、セレンは黙ったままだった。相手が格上の侯爵家だから、何も言えないのかもしれない。そう思ったが――


「だ、だからな! その……お前が! そう、お前が可哀想だから! 私が、その、一緒に行ってやっても……」

「タンタル様」


巻き毛野郎の言葉を遮り、セレンが顔を上げた。その顔には、明らかに軽蔑の色が浮かんでいた。


「あなたの浮かれた脳みそには、恋愛のことしかないんですか? 星夜祭は家族や友人と楽しむ方も大勢いますけど? その方たち全員を気の毒扱いしますの? 常識を疑われますわよ?」

「なっ、何だと!?」

「幼馴染だからといって、私のことを気にかけていただかなくて結構です。私は家族にも友人にも恵まれておりますし、恋愛など当面するつもりはありませんので」

「……それなら勝手にしろ! 可愛くない女だ。もう誘ってやらないからな!」


捨て台詞を残して、巻き毛野郎は去った。

俺はセレンが傷ついているんじゃないかと思い駆け寄ったのだが、当のセレンはケロッとしていた。


「あれ、キセノ。どうしたの?」

「あ、いや……今、侯爵家のやつに絡まれてただろ? ひどいこと言われてたから、大丈夫かと思って……」

「ああ。あんなの日常茶飯事よ。あの人、ちょっとうちの妹と揉めたことがあって、私のこと敵視してるのよね」

「敵視……?」


俺が見ていた限り、あいつは暴言を吐きつつもセレンを星夜祭に誘おうとしていたようだったが……。


「毎度毎度、冴えない女とか可愛くない女とか言ってくるのよ。私が美人じゃないからって、別に誰にも迷惑かけてないのに、失礼にもほどがあると思わない?」

「いや、俺はセレンは可愛いと思うけど」

「ふぇっ!?」


その瞬間。ぼっとセレンの顔が赤くなった。


「あ、え~と、うん。な、慰めてくれてありがとう! わ、私なら、もう大丈夫!」

「別に慰めたわけじゃねーけど。セレンはいつも笑顔なとこ、可愛いと思うぜ?」

「っっっ!!」


あ、さらに赤くなった。……可愛いな。

もしかしたら、セレンはあまり褒められ慣れてないのかもしれない。こんなに可愛い顔を見せてくれるのなら、俺はいつでも褒めるのにな……あれ?


「キ、キセノ……あの、ありがとう……」

「っっっ!!」


―――その日、俺は恋に落ちた。

だって、顔を赤らめて潤んだ目で上目づかいとかされたらさぁ!

俺以外にそんな顔してほしくないとか、そばでずっと守りたいとか思うだろ!?






「……はいはい。分かった分かった」


ネオジムが俺の肩をポンポン叩く。


「それでな、その後もセレンは俺が可愛いって言うと恥ずかしがるんだよ。もう少し慣れてくれてもいいと思うんだが、恥ずかしがる姿も可愛いから……」

「分かったから惚気をやめろ……。お前はもうとっととセレン嬢を誘ってこい……」


なぜかネオジムがげっそりとした顔で胸やけがする……と呟いていた。

何か悪い物でも食ったんだろうか?


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