19 私たち姉妹に不穏な噂が流れています
テルルが入学してから、3か月が経った。
超絶美少女のテルルなので、男性たちがしきりにアプローチを繰り返す。
そして姉である私にも紹介してくれと男性たちが群がり始めた。
「セレン嬢、妹さんを紹介してもらえないか?」
「セレン嬢、この手紙を妹さんへ渡してくれないか?」
「セレン嬢、妹さんはどのようなタイプの男が好みだろうか?」
あ~セレン嬢、セレン嬢とうるさい。正直ものすごく鬱陶しいのだが、テルルに好意を持ってくれることはありがたいので、邪険にもしにくい。
……こうなることは想定内だったけど、正直ウンザリしている。
そして、これも想定内だが、私たち姉妹に関する噂が流れ始めた。
“オキシー家の妹はものすごい美少女なのに、姉は可哀想なくらい普通”
事実だし、私自身はもう気になりもしないけど、この噂を聞いてテルルが傷ついたらどうしよう……。
私は注意深くテルルの様子を観察することにした。
幸い、テルルは母の忠告通り女の子には愛想よくしているので、友達もたくさんできたみたいだ。友人たちに囲まれて楽しくランチをしているところをよく見かける。
男の子にチヤホヤされると、女子の敵を作りやすくなるものだが、テルルは一貫して男性とは距離を取るので、イジメなどにもあっていないようだ。
ここで、私はちょっとしたミスを犯した。
テルルの動向を気にするあまり、つい妹と一緒に過ごす時間を増やしてしまったこと。
これにより、想定外の噂を引き起こすことになってしまった。
“オキシー家の妹は極度の男性嫌いで、女の子とばかりいる。特に姉にはべったりだ。もしかしたらオキシー家の姉妹は、禁断の愛の扉を開けてしまったのでは?”
き、禁断の……愛……!!
どうしてそうなるかな!? 微笑ましい姉妹愛だよ!!
フェルミィからその噂を聞かされた時、気絶してしまった私は悪くないと思う。
意識を取り戻して号泣する私を、フェルミィは一生懸命慰めてくれた。
「だ、大丈夫よ、セレン。みんな、本気でそう思ってるわけじゃないわ。ほら、テルルちゃんが誰にもなびかないから、それならいっそ他の男の物にならないでほしいっていう願望からできた噂みたい」
「だったら私じゃなくて、テルルと仲のいい女の子でもいいじゃない! 同性なだけじゃなく姉妹でなんて、ダブルに禁断過ぎるでしょうが!」
私が叫ぶと、うぅ~んと言いにくそうにフェルミィが答えた。
「だって……テルルちゃんて、セレンと一緒にいる時が一番可愛い笑顔なんだもの……。それにね、セレン。自覚が無いのかもしれないけど、セレンもテルルちゃんにすっごくデレデレしてるわよ?」
「嘘おおおぉぉぉ!? そうなの!?」
無言でコクンと頷くフェルミィ。
何てことなの! 半分は自業自得!? 私たち、傍から見てそんな感じだったの!?
「うわぁぁぁん! お兄さまに叱られる~!」
「落ち着いて、セレン! 噂を無くす方法ならあるわ!」
「えっ? 本当?」
フェルミィが不敵な笑みを浮かべた。なんて頼りになる親友なんだろう!
「ずばり――キセノと付き合っちゃえばいいのよ!」
「……は?」
「セレンが恋人を作れば解決するわけよ。結局、お兄さんの言うことは正しかったってことじゃない?」
「ちょ、ちょっと待って! だからってそれは、その、ハードルが高すぎるっていうか……!」
「セレンはこのままでいいの?」
「良くない!」
「だったらそろそろ覚悟を決めなさいな。告白するのよ」
「うわぁぁぁ! 予定では五年後くらいにするつもりだったのに~!」
「おっそ!?」
フェルミィに呆れた目で見られたけど、私の予定では魔術研究所に就職して、数年働いた後に告白するつもりだったのだ。
その頃にはさすがにテルルに婚約者がいるだろうと思って。
まさかこんなに予定が前倒しになるなんて……!
「……セレン。慎重なのは悪いことじゃないけどさ。キセノは女の子に人気あるんだよ? グズグズしてたら、他に恋人ができるかもしれない。そうなった時に後悔しないの?」
「!!」
ザっと頭から冷水を浴びせられたような衝撃が私を襲った。
……そうだ。キセノは有能で財産もあるから、女子人気が高い。キセノはいつも研究ばかりしているから想像もしていなかったけど、いつ彼に恋人ができてもおかしくなかったのだ。
「わ、私……告白する前に失恋するなんて嫌だわ……!」
「そうでしょ? だったら告白よ! ちょうど来月は星夜祭があるじゃない! そこで告白するのよ!」
フェルミィにギュッと手を握られる。なぜかフェルミィの方が興奮している気がするけど、きっとそれだけ私のことを考えてくれているんだろう。
星夜祭とは毎年夏に開催されるお祭りで、夜の女神に感謝を捧げる日とされている。
星々に祈るという建前だけど、実際のところは夜に露店が出て、お酒を飲みながらワイワイ騒ぐといった感じだ。この日は子供たちも夜更かしを許されている。
そして何より、カップルだ。堂々と夜に二人で出歩ける数少ないチャンスなので、非常に盛り上がる。告白するのに絶好の機会でもあるため、恋人のいない人たちはこの時期に皆、ソワソワしている。
一緒に星夜祭に行こうと誘われたら、それはつまり……というわけ。
「私、やるわ! 星夜祭に、キセノを誘ってみせるわ!」
「その意気よ、セレン!」
何だかフェルミィに上手く乗せられたような気もするけど、私、頑張ります!




