王女様の舞
私達は夜に執り行われる王女様の舞を見にきていた。
私たちがついた頃には、ステージの近くには着々と人が集まって来ていた。
なんだかみんな大人っぽい格好をしている。
やはり夜だから、夜っぽい格好をするもんなんだろうか。
みなさんお綺麗である。
「あれは?」
舞台の前に、20センチほどの球体がぷかぷか浮かんでいるのが見えた。
それはガラス玉の様に透明で、内側から薄らと白い光が輝いていた。
「あれは映像を記録するためのオーブです。本日の王女様の舞はあの媒体によって記録され、明日から市民広場でその映像が流れます」
「カメラみたいなものか」
「カメラとは?」
不思議そうな顔をして、むきむきメイド長は私に尋ねた。
そうか、私たちが当たり前のように使っている言葉は通じないんだ。
確かに、カメラなんてこっちにはないもんね。
「私たちの地元にはそういうのがあったんだよ」
私がそういうと、むきむきメイド長は首をひねった。
「このオーブに類似する物が存在するとは、相当な技術力ですね...ぜひ一度見てみたいものです」
私たちが元いた世界ではカメラは珍しいものではないのだが...
まああまり余計なことは言わないでおこう、と思い私は口をつぐんだ。
「ってか立ち見なんだ?」
「王女様のご希望で小さいステージにしておりますので。招待する人数も限られております」
「ああ、王女様、恥ずかしがり屋さんだもんね...」
「なのに、映像は国民に晒されるのか...」
「王女様もたいへんね〜」
すると、部屋の明かりがゆっくりと消え、それと同時にステージが照明で照らされた。
「わあ...」
ゆっくりと王女様がステージの真ん中へと歩いてくる。
その一歩一歩が美しく、辺りは一瞬で透明な空気に包まれた。
とん、とん、とん
王女様の身体は何度も軽く跳ね上がり、ステージの木の床を何度も鳴らした。
腕が舞い、指先までもが彼女の思うままに動いているように見えた。
「きれい...」
私はもっと良く見えるように、人と人の間を進み、家族から離れて前の方へと進んだ。
ステージに近づいたことで視界がより明るくなって、王女様がより輝いて見えた。
とん、とん、とん
恥ずかしがっていたのが嘘のように、王女様は華麗に舞っていた。
私が暫く王女様を見つめていると、私の肩を誰かが叩き、耳元で話しかけた。
「カエデ、前を向いてて。決して振り返っちゃいけないよ」
........!?
この声は.......。
急に聞き覚えのある声が聞こえて、私は肩をびくんっと動かした。
「かみ、さま.....?」
なぜここに神様が?
いつから?どうやってここに?
私は振り返りたい気持ちを必死で堪えた。
「行って欲しい所がある。サカナン王国。この国の隣の国だよ」
「どうして?何かがあるの?」
「行けばわかるよ、大丈夫」
急に現れた神様は急に私たちの目的地を告げた。
「良く頑張ってるね、カエデ。もうちょっと、がんばれる?」
「はっ、はい....」
「良い子だ」
神さまは私の頭をぽんぽん、と撫でて、それっきり何も言葉を発さなかった。
沈黙を貫く神様の方を振り向きたくてしょうがなかったけれど、私はずっと前を向き続けた。
もう、王女様の舞どころではない。
視界には入っているのだけれど、何も入ってこなくなってしまった。
サカナン王国?
そこに行けと、神様は告げた。
わざわざそれを伝えにくるくらい、大事な物があるのだろうか。
私はぼーっとステージを見つめているうちに、王女様は舞を終え、動きを止めた。
軽く一礼すると、パチパチと拍手が鳴り響く。
王女様はそれに応えて、何度かお辞儀をした後、またゆっくりとステージの奥へと戻っていった。
私はその様子を、ただ呆然と見つめていた。
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