44 これからの予定
「それでレックス達をさらった貴族はどうなったんですか?」
テーブルを俺とユリシア、ルシア達の全員で囲んで夕食をとっている。
孤児院のテーブルには俺が来た時とは見違えるような料理ばかり並んでいる。
レッドボアの塩胡椒焼き、恐らくニワトリのようなものの唐揚げ、味のあるスープ、ふわふわではないが食べられる硬さのパン、マスカット以前では考えられないようなものばかりだ。
流石に塩胡椒をたくさん使ったレッドボアの塩胡椒焼きなんて毎日食べられるものじゃないし孤児院がいくらお金に余裕ができてもそんな高価なもの作らないだろう。
たが、今回の夕食の買い出しは全てユリシアのお財布から出ているので少し豪華なのだ。
マスカットはたまたま目に入ったので買ったが三つ入った籠で金貨一枚だった。日本円なら十万円である。
それでもユリシアからすればそんなものは端金らしい。買い出しは俺とルシアとユリシアで行ったのだが、俺たちと買い物に行けるならこれくらいの買い物なんてお釣りがくると言っていた。
「一応生きてるわよ」
俺と向かい合うように座っているユリシアが俺の質問に答えた。
あれ? おかしいな。
今後この街の貴族がどうなるのかとかが知りたかっただけで生死の確認なんてしてないんだけどなぁ。
「ミノタウロスを殺したあと、ステラを抱っこして孤児院の子達と森を出たの。
森から離れる時丁度あの貴族が目を覚まして後ろからついてきて街まで一緒だったから森の中で死んでるってことは無いわ。
森の中で殺しても良かったんだけど……」
なんか最後にボソッと変なことが聞こえたんですけど?
きっと、見た目が可愛い俺やルシアたちに危害を加えたからだろう。
まぁ、いいか。
この街の領主が生きていてこの街にいるって事はまだこの街の領主なのか。
また何しでかすかわからないしこの問題が解決しないとこの街を離れるわけにはいかないな。
「それで、そのりょーー」
「あ、ちなみにお姫様抱っこで街まで運んだの。それはもう天使のような可愛さだったわ!」
あ、うん。
そんなことどうでも良いから。
お姫様抱っこってところがムカつくけどおいとこう。
「それで、この街の領主ってどうなるんですか?
もし、このまま領主を続けるなら俺も対処しないといけないし」
俺がずっとこの街にあるわけじゃないしこれからも危険であるならそれはどうにかしなければならない。
一番手っ取り早いのはその貴族を暗殺かなんかで殺すことだが疑われたりしたらお終いだ。俺が疑われるならまだしも、ルシアたちが疑われたら目も当てられない。
「あぁ、その事なら大丈夫。
その日のうちに王都に伝令を走らせたから。すぐにこの街の領主は交代になると思うわ。
最悪この街の領主、処刑でもされるんじゃないかしら?」
そこまで大ごとなのか?
貴族からしたら孤児院の子供を殺そうとしたってくらいで処刑されるようなこと無さそうだけど……?
「貴族からしたらちょっと孤児院の子供に手を出しただけなのに処刑なんてあり得るの?」
「まぁ、普通ならもみ消されて終わったりするだけだけど、今回の出来事の伝令は私が出してるしから。
世界でもたった四人しかいないトップレベルの冒険者。もし怒らせでもしたら国にどんな被害が及ぶか分かったものじゃないわ。
最悪滅ぶわ。
魔術師は遠距離からバンバン魔法を放てるし、軍隊が進行してきたところで私の所に来るまでに灰になってるでしょうね。
まぁ、そんな化け物の戦うより一人の貴族の首を跳ねる方が簡単でしょう?」
なにそれ、怖っ
そ、そうか、ユリシア一人で国一つくらいなら潰せてもおかしくないのか。
そりゃ、王様もそんな人間相手にしたくないわな。貴族の首一つはねれば収集がつくならその方がいいか。
でも、それなら俺もこの街を離れられるな。危険は無くなるわけだし。
まだこの世界に来てから全然旅してないからなぁ。やっぱり見たことのない世界って楽しいよなぁ。
そういえば、この街を離れることルシア達に伝えてないな。
今言えば良いか。
「レティシアさん、俺あと数日したらこの街を出ることにします」
隣で静かに話を聞いていたレティシアに話す。
「随分と急……いえ、本来ここにいるのがおかしいですもんね。本当にありがとうございました」
椅子から立ち上がり丁寧に頭を下げてくる。
「いえいえ、俺はただやりたいことをやっただけですよ」
この世界に来てその日にルシア達を助けて流れでここまで来てしまったが、多分この世界に来てからすぐだったから助けたんだろうな。
今回のミノタウロスのような死と隣り合わせの状況を知ってたらそう簡単に助けるなんて軽はずみな行動……多分しなかったと思う。
「ステラさん、本当にありがとうございました。聖魔法のスクロールまで貰えるなんて!」
あぁ、そういやさっき上げたなそんなもの。
20階層のボス、キメラを倒したあと宝箱が出てきてそれが入っていたのだ。
聞いたところによると激レアらしい。
「俺、聖魔法鍛えて聖騎士になれるように頑張ります!」
「がんばれよー」
うん、応援してるけどそんなこと宣言されても困る。
「ルシアも冒険者頑張るのは良いけど無茶するなよ?」
「……」
「ルシア?」
なにも反応しないルシアの方を見ると目尻に涙が溜まった目で見てくる。
あ、これあれだ。
行かないでぇ! てやつだ。
「……ッ」
椅子から降りて自分の部屋に入っていってしまった。
まぁ、少しすれば心の整理もつくだろう。
この世界人と別れるのもそんなに珍しいことじゃないだろう。
「これから何処かに行く予定でもあるの?」
「いや、無いけど。
適当に旅でもしようかなと」
「じゃあ、私と一緒に行かない!? 家とか持ってないし、冒険者だからどこでも活動できるし、大抵どんな危機的状況でも打破できるわ! どう?
私は、ステラの近くに入れるだけで大満足だから!」
「は、はぁ」
こんな変態と一緒に旅をするのはごめんだと言いたいところだが、SSランクの冒険者と旅をできるなんてそうそうある話じゃない。
それに、一緒にいれば俺もユリシアくらい強くなれるかもしれない。
この世界に俺たちを転移させた天使のことも気がかりだし強くなるに越したことはないだろう。
「じゃあ、お願いします」
「え!? 本当にいいの!?」
一緒に旅をするんだったら俺が中身は男だってことも伝えなきゃいけないだろう。流石にこのままってわけにもいかない。
ルシアにも何か声かけないといけないし……
なんて言えばいいんだろう?




