45 旅立ち
「ルシアー」
「……」
孤児院の部屋の一つである部屋の中にルシアがこもっているのでノックをして声をかけてみるが、出てきてくれないらしい。
「ルシアさんー?」
「……」
「ルシアさんやーい」
三回目の呼びかけやっと部屋の扉がガチャと開いた。
ゆっくりと開かれた扉の隙間からは如何にも不機嫌ですといった顔のルシアが顔を覗かせる。
「ずっと一緒にいるわけじゃないって分かってただろ?」
「そうだけど……」
「ルシアがいくら不機嫌で部屋にこもって出てこなくても俺は明日にはこの街を出るからな」
「もう少しくらい一緒にいて欲しかった……」
うっ、そんな悲しそうな顔で言われると心が!
いや、しかし俺には他にやることがたくさんあるんだ。
この孤児院には領主が変わればまた補助金が出るだろうし、ルシアが冒険者としてこのまま活動して行くのなら少しくらい贅沢ができるかもしれない。
それくらいの金なら稼げるはずだし、俺の役割はもう終了したんだ。
でも、こんな状態のルシアをほっておいて街を出るのは気がひけるな……
「えーとな、そう言われても明日にはこの街を離れる。
だけど、この先もう二度と会えないわけじゃないと思うぞ?
俺はこの先も冒険者を続けながら旅をするから、ルシアが強い冒険者になって有名になれば俺のところにも噂が来るだろうし、そうしたら俺から会いに行くよ」
この街に戻ってくることはないと思うし、もし戻ってきた時にルシアがこの街にいるかどうかも分からないから約束はできないがこれならいいだろう。
「ほんと? 私が有名な冒険者になったらまた会いにきてくれる?」
「あぁ、もちろん。その時は絶対に会いに行くよ。だから、まぁ、明日この街を出ることについての機嫌なおしてもらえないでしょうか?」
「わかったよお姉ちゃん。じゃあ約束だよ?」
そう言って小指を突き出してくる。
こんな習慣この世界でもあるんだなぁ。
「約束だ」
◇ ◇
さてと、これでルシアの問題は解決だ。
次はあれだな。 中身が男だってこと。流石に一緒に旅をする、仲間になる人に何も言わないのはダメだろうと思う。
旅する奴が男なら考えたかもしれないけど。
「ユリシア、さん?」
孤児院のテーブルで紅茶を飲んでいるユリシアの姿があった。
どこから持ってきたのか綺麗なティーカップで飲んでいらっしゃる。
「なんでさん付けなの? 歳も近いし呼び捨てでいいって前にもいったじゃない」
近いって行っても四歳くらい離れてるだろ。
精神的には変わらんけど。
「真面目な話をしようと思ったんで。
ちょっと外に来てもらってもいいですか?」
「別にいいけど、どうしたの?」
一応他の人に聞かれないように外に連れ出した。
それにしてもどこまで話すか決めてなかったな……
中身が男であることは話すこと決定だが、何故女の子の姿になったのかとかなんていえばいいんだろう?
異世界に転移したって事はまだ黙っておこうと思ってるし、話たからどうこうなるわけではないと思うけど異世界人がどんな扱いか今のところ分からないからな。
「えーと、旅をする前に話しておかないといけない話がありまして」
俺の真剣な雰囲気が伝わったのか、いつものような変態の雰囲気はまるでない。
「どう話せばいいのか分からないんですが、俺はちょっと特殊な出来事に巻き込まれてまして、その時に身体が女の子になってしまったんです。
身体は女の子なんですが中身は男なんで、気持ち悪いとかだったら、その、旅の件は無しにしてもらっていいんで……」
もし俺がカミングアウトされる側だったらなんて思うだろうな?
少なくとも少しくらい気持ち悪いと思うだろうか?
人それぞれなのでもしかするとユリシアは少しじゃなく滅茶滅茶かもしれない。
「へぇ、身体の性別が変わるなんて一体どんな事に巻き込まれたの?」
「へ?」
少しくらいは嫌悪の目を向けられると思っていたので、間抜けな声を出したいまう。
確かに気になるだろうが、目の前にいる女の子の中身が男って言う事の方が重要だと思うんだけど。
「気持ち悪くないんですか?」
「気持ち悪いわけないじゃない。そもそも中身が男でもなんでも外見がすべてよ。
外見が可愛ければ私は何でもいいわ」
え? 冗談?
いや、違う。この人滅茶滅茶真剣な目で言ってる!?
あれ? 人間って外見が全てだったっけ?
おかしいな、地球にいた頃は人間は容姿じゃない中身が重要なんだって言われたような気がしたんだけど?
「ステラが最初に喋った時から自分のことを俺っていうの不思議に思ってたのよね。
女性で自分のことを俺っていう人いなくはないけど、ここまで可愛い容姿で俺なんていう人見るの初めてだったから」
「そうですよね、やっぱり不思議だったり、気になったりしますよねー」
「それで話を戻すけど、なんで女の子になっちゃったの?」
「それは、その、今は言わなくてもいいですか?」
「いいわよ別に。
言いたくないなら、そこまでして聞くことじゃないし。
そういえば、もう旅の準備はできた?」
「はい、荷物の用意はできました。
買ったものをアイテムボックスに放り込んだだけですけど」
あぁ、もしかすると俺が思っていた以上にユリシアっていい人かもしれないな。
話は終わり再び孤児院の中に戻る。
今日はもう昼過ぎ、あとこの街にいるのも半日くらいか。
◆ ◆
「それじゃあ、もう行くよルシア」
「絶対有名な冒険者になるからまた会おうね、お姉ちゃん!」
「また会おうな。レックス達もじゃあな」
「出発するわよ」
ユリシアが手綱を握りパチンと叩くと馬が歩き始める。
ユリシアは一番前の馬を操作するところに座っている。
俺は後ろの何人か人が座れるスペースのある場所でルシアたちと最後の会話をしているところだった。
ゆっくりと孤児院がと遠くなって行く。
ルシア達に手を振る。
この世界にきて初めての街、はじめての出会い。
長かったような、短かったような。
実質この街にいたのは数日間だけだから、短いのか?
どんどんと孤児院が遠ざかりとうとうルシアたちが見えなくなる。
馬車の席に座る。
次の街までくつろぐとしよう。




