33 ルシア失踪
「え……ルシア?」
灯りはなく真っ暗な部屋でもう一度名前を呼んでみるが返答はない。
ベットで寝ているわけではないし、部屋を見渡してみるがルシアの姿はない。部屋はそんなに大きくはないので恐らくこの部屋にルシアがいないことは確実だと思っていいだろう。
この宿には風呂なんて無いし、宿の一階は食事を取れるようになっているがもう日が変わっている。こんな時間に食事をしているやつは居なかったしルシアの姿は無かった。
いや、確か一階にはまだ宿のおばさんがいたな。
そう思い、ルシアがどこにいったか分かるか聞きに行くために部屋を出て一階に降りる。
一階には明日の準備や、皿を洗っている宿のおばさんがいた。
カウンターの椅子に座って作業中のおばさんに質問をする。
「すいません、ちょっと聞きたいんですがいいですか?」
「こんな時間にどうしたんだい?」
「数時間前ここにルシアって言う薄い水色の混ざった銀髪の子来ませんでした?」
俺の質問に心当たりがあるようだった。
「確か、あんたと似たような髪の色をした子だね?
夕方にこの宿に戻ってきた時、そこで酒を飲んでいた冒険者の話を聞いた瞬間青ざめて出てったよ」
ある一つのテーブルをさしながら言ってくる。
それにしても青ざめて宿から出て行くなんて何があったんだ?
なんだか嫌な予感がするな。
仮に何かあったとして普通なら俺を呼びにくると思うんだが……
「その冒険者の人たちってこの宿に泊まってますか?」
「泊まってるけど……こんな時間寝てるだろうし問題起こさないでちょうだいね」
寝ている人の部屋に押しかけるのだから相手が不快にならないはずがない。
しかも押しかけて来た奴は知らない人だとしたら尚更不愉快だろう。
こんな夜に宿で喧嘩とかがあったら迷惑だしな。
まぁ、気をつけるとするか。
おばさんは一応注告をしながらも部屋の場所を教えてくれた。
「夜遅くにすいません、ちょっと聞きたいことがあって」
内側から鍵がかかっているので外からは鍵を使わないと開けられない。
ドアを少し強めにノックする。
正直ノックごときで起きるのかと思ったが、流石冒険者。ここは宿だから安心して眠っているのだろうがノックくらいの音がすれば起きるらしい。
少し間があったが、すぐにドアが開かれた。
出て来たのは三十代にのるか、のらないか微妙なラインで、少し長めの髪のチャラそうな男。
「……なんだ、夜這いか」
んなわけねぇだろ。
誰がお前みたいなチャラチャラした男に寄り付くか!てか、俺は男だぁ!
声を大にして殴ってやりたいが、そうはいかない。
夜遅くに訪問しているのはこちらであって、非はこちらにあるのだから。
「違います、夕方に薄い水色の混ざった銀髪の子があなた方と話していたらしいので少しその事について教えて頂けませんか?」
「はぁ……なんだ違うのか。
ん? その髪の色、姉妹か。」
あからさまにガッカリするなよ。どんだけ欲に忠実なんだよ。
「ル、妹になんの話をしたんですか?」
妹じゃないというのもめんどくさいのでここは妹で通す事にしよう。
「まぁ、廊下で立ち話もなんだし中入れよ」
俺は部屋に入り木製の椅子に腰掛ける。
二つあるうちの一つには仲間であろう男が眠っていた。この男は、物音程度では起きないらしい。
チャラ男はベットに腰をかけて話し始めた。
「えーとな、ここ数日で噂になっていることを話しててな」
ーーー数時間前ーーーーーーー
「そういえば、隣町の話聞いたか?」
ダンジョンから帰ってきたであろう冒険者が多く賑わっている時間帯チャラ男と少しゴツい筋肉質の男がテーブルで酒を飲みながら会話をしていた。
「隣街何かあったのか?」
「あぁ、なんでも街を治める領主様が街にいた召喚者のスキルを持つ女とその身内を連れ去ったらしい」
「なんで?」
「そんなもん召喚者のスキルはごく僅かな魔力で強力な魔物を召喚できる。しかもパワーやスピードが底上げされてるときた」
「なっ、化け物が生まれるぞ」
「あぁ、そうだ。
魔物が身体強化を使ってるようなもんだからな。
だが、召喚者の凄いとことはもう一つ。通常の召喚なら召喚者本人にしか隷属できない。
でも、スキルを使えば召喚した奴とは違う人間、つまりその貴族にも隷属可能ってわけだ」
「でも、魔物なんて隷属してどうするんだ?」
チャラ男が盛大にため息をついて、「この筋肉馬鹿は本当頭が回らねぇな」と小声で言ってから説明を始める。
「冒険者でも召喚した魔物を隷属してる奴いるだろ?相当な魔力と技術がないと出来ないがその隷属した魔物は人を襲わないし、街に入ることもできる。
つまり、隷属した魔物は安全って認識が一般的なんだ。隷属した魔物が安全なら、強力で底上げされた魔物なんていくらでも使い道があるだろう?
街の警備、防衛、付近に強力な魔物が出現した際の対処、戦争で戦果をあげることもできるかもしれないな」
「なんだそれ、夢のような話だな」
「あぁ、夢のような話だ。だが、それが夢のままじゃ終わらねーんだよな。
召喚者のスキルを使って呼び出した魔物は誰にでも隷属できる。
だが、僅かな魔力で強力な魔物を呼び出したからか隷属するには条件があった」
「条件?」
「召喚者のスキルを持った人間が長年一緒に過ごしたり、愛情があったり、大切に思ってたり、まぁ要するに召喚者のスキルを持った人間の目の前で殺した時一番、絶望するだろう人間を特別な魔法陣の中で魔物の召喚と同時に殺すんだ」
「なんだそれ、クソみてぇな条件だな」
「だろ?
だから召喚者のスキルを持っていたとしても使う奴は居ない。
でも、今回は貴族に連れ去られた。金なんて余るほど持ってる連中だ。連れ去る人手も、魔法陣も何にかも準備可能だ。
しかも今回連れ去ったのは孤児院から連れてきた人間だ。普通の人間と比べて揉み消しやすい。
しかも、冒険者ギルドは召喚した魔物が隷属できずに暴走する可能性もあるから止めたいみたいだが相手は貴族だからそうやすやすと手出しができねぇ。
今回は多分孤児が殺されるんじゃねぇかって噂だ」
「す、すいません! 今の話詳しく聞かせてもらえませんか!?」
チャラ男とゴツい男の会話にパニックになっている銀髪の少女が割り込んできた。
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「ってことがあったんだ。
最後の方の話だけ聞いてたみたいでな、説明してやったら顔を真っ青にして宿から飛び出してった。
なんか関係でもあったか?」
うそ、だろ。
召喚者がそんなスキルだったなんて。
クソッ。てことはルシアは十中八九バルカロスに戻ってる。
「それって何時くらいのことですか?」
「えーと、18時くらいだな」
ルシアが帰ってからすぐか。もう六時間は経過してる。ギルドで馬を借りるか。
慌てて椅子から立ち上がり出て行こうとする俺にチャラ男からの質問が飛んで来た。
「なんかその孤児達と関係があるみたいだが、助けに行くのか?」
「あぁ」
「相手は貴族だぞ? 正気か?」
「関係ないね」
あぁ、そうだ関係ない。
相手が家族だろうが何だろうが助け出す。
ルシアが助けてに向かってるんだ。ルシア一人じゃ恐らく貴族の騎士に捕まって終わりだ。
俺がやるしか無いんだ。
絶対に助ける、貴族を殺してでも。




