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34 夜の街道

  激流のように景色が後方へと流れる中俺は馬を全力でバルカロスへと走らせる。

  右左の木々がものすごい速度で流れいく。

  もしかしたらルシアが走ってバルカロスに戻ろうとしていたのなら追いつけるかと思ったがルシアの姿はない。


  もう既に馬を走らせて三時間。

  ルシアが自分の足で向かっているならとっくに追い越していてもおかしくない。

  それに、バルカロスまで向かう道は何本もあるわけじゃない。ルシアが知っている道なら来るときに通った道のはずだからその道で走っているものの見つかる気配はない。

  一応確認しておいたが冒険者ギルドでルシアが馬を借りた痕跡は残っていなかった。

  可能性があるとすれば残るは乗り合いの馬車に乗った可能性。護衛が付いているしっかりとしたものなので金はかかるが、何かあった時のためとルシアには金貨を数枚持たせてある。それだけの大金があれば乗ることは難しくない。

 

  ユーゼルに来る時は馬車で来て十二時間。約半日かかった。

  だが、今は馬車ではなく俺一人しか乗っていない馬を走らせているのであと四時間もすれば着くはずだ。


  もっとも、本当ならばもっと早い動物や乗り物があればいいのだが……

 

  頼むッ! 間に合ってくれ!

  そう心の中で叫びながらバルカロスまでの道のりを駆け抜ける。



 ◇




  「ギィィィィィィィイ!!」


  「クソがぁぁあ!」


  魔力を流して斬れ味を上げ盾を振り上げで襲いかかってくるゴブリンに剣で応戦するがゴブリンを倒せない。

  盾が金属製ということもあって盾ごと引き裂くことは出来ず仕留め損なってしまう。


  馬を走らせている途中にゴブリンに囲まれてしまい、やむ終えず馬から降りて戦っているわけだが、あたりは灯りひとつない暗闇。

  唯一の光といえば月明かりだけだがそれも大きくたくさん立ち並んだ両脇の木々に遮られほとんど届かない。


  そのおかげで俺は僅か一、二メートル前しか見えていない。

  これがダンジョンの中や明るい時間帯ならばたかがゴブリンだがこんな暗闇だとそうはいかないらしい。

  しかも運が悪いことに俺を群れで襲ってきたのはただのゴブリンではなく、ゴブリンの上位種ホブゴブリン、中にはホブゴブリンシールドやホブゴブリンランスなどその武器の扱いに慣れたゴブリンまでいるのだ。


  「ギィィイ!」


  声がしてから少し間があった後、一瞬で俺の目の前に現れた。

  いや、暗すぎでホブゴブリンを認識できる距離が近すぎるのでそう思うだけか。


  身体強化を全力で発動し一歩後ろに下がってから持っている武器で塞がれないように側面に回り込みながら両断する。


  だが、両断した直後に背後から気配がした。

  否、殺気である。先ほどまでは一匹も殺せていなかったからか俺を敵ではなく獲物として見ていたようだったがやっと敵として認識してくれたみたいだ。


  振り返ると同時に咄嗟に剣をかざす。

  次の瞬間にはホブゴブリンの持った剣が俺の剣に阻まれて火花を散らす。

  今までのゴブリンならこのまま襲ってきていたが、このホブゴブリンは俺に攻撃が通らないと分かるとバックステップのように後ろに消えて行く。


  このホブゴブリンどもは暗闇の使い方がよく分かっているらしい。

  魔物が全て夜目が効くかどうかは知らないが少なくともホブゴブリンが俺の位置を正確に捉えていることから考えるとこの暗闇でも見えているのだろう。


  本当にずるい。

 

  俺はほとんど目の前が見えないと言うのに。


  「逃すかッ!」


  このまま暗闇に隠れられても面倒なので咄嗟にライトニングを放つ。

  放たれたライトニングは逃げたホブゴブリンの腹をえぐり取るとあたりを一瞬だけ昼にする。


  「あと、五匹」


  いったい何匹に囲まれているのか分からなかったが一瞬照らされたお陰で知ることができた。

  俺の身体強化された目はたった一瞬でも十分なのだ。

 

  「「「ギィィィィイ!」」」


  さっき俺に攻撃を仕掛けて逃げようとしたホブゴブリンの末路を見たからか、それとも位置がバレた事を単純に不味いと考えたのか分からないが三匹のホブゴブリンが俺を仕留めようと一斉に三方向から襲いかかる。


  俺は三匹のうち一匹に狙いをつけ数は前に移動して剣を横薙ぎに振るい両断しようとするが案の定受け止めようとしてくるのでそのまま全力で振り抜いてやった。


  俺の横薙ぎはまるでバットをフルスイングした時のように綺麗だった。

  ホブゴブリンは例えるなら……そう、ボールである。

  両断こそされなかったものの、魔物でありながら哀れになるような勢いで吹き飛んでいった。その後グチャという音が何度も聞こえたので恐らく原形をとどめていない。


  そして、残りのホブゴブリン二匹もすぐに片付いた。


  「出てこねぇのか?」


  残り二匹。

  まだホブゴブリンシールド、ホブゴブリンランスを倒した覚えはない。

 

  まだこの暗闇に隠れているはずだ。


  俺は何処にいるのかを確認するためスパークを使い周囲を照らす。

  これは自分の魔力がきれないなら長時間使用可能なので一瞬ということはない。


  周囲が照らされると木の裏に隠れるようにして二匹のホブゴブリンが居るのが分かった。


  そしてーー


  動いた。


  最初に槍を持ったホブゴブリンランスがものすごい勢いで走ってくる。

  俺に近づくと槍がギリギリ届く距離で立ち止まり、見事な槍さばきで攻撃を仕掛けてくる。

  流石は名前に武器の名前が付くだけのことはある。


  右、左、左。

 

  何度も突きを仕掛けてくるので全てを打ちかえす。

  リーチが長いので懐に潜り込めば勝ちだ。

  そう思い、大きく槍を跳ね上げて懐に入る。そして、剣を突き刺そうとするがギリギリのところで金属製の盾が割って入る。


  横から突き出された手に持たれていたのだホブゴブリンシールドが持っていた盾。

  魔物に仲間を助けるなんて考えがあるんだな、と感心しつつ一旦後ろに飛び下がる。


  すると、槍を持って逃しはしないと追ってくる。そこには盾を持ったホブゴブリンが控えておりいつでも防ぐ準備は万全らしい。


  俺はもう一度槍を跳ね上げ懐に潜り込む。

  そこで雷魔法、スパークを発動する。

  前に使った時は魔物とゼロ距離だったし、そもそもほとんど距離がない状態で使わないと意味がない。

  なので丁度二匹ともにいい感じの距離になるように手を突き出す。

 

  スパークが生み出す電流は割と大きい。

  バチバチバチッと音を立てて生み出された電流がゴブリンの体をめぐる。

  一瞬、ビクッとなって動かなくなった。

  体に何の傷もないが心臓が止まったので死んでいるはずだ。



  ボブゴブリンを倒し終え俺は慌てて馬に飛び乗る。


  「急げ! バルカロスはすぐそこだ!」


  馬の手綱を握りバチンと馬を背に叩きつける。

  まだ日が出ていない暗闇の中バルカロスへ向け馬が走り出した。

 

 

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