32 嫌な予感
「んっ〜、やっと着いた……」
ダンジョンから出て外の光を浴びた瞬間ルシアが伸びをする。
そして、ダンジョンから出た事に気が抜けたのか一瞬ふらつきそのまま後ろに倒れそうになる。
「大丈夫か?」
倒れて来たルシアを支えながら声をかける。
ダンジョンの最下層でキメラとの戦闘を終えた後少し休憩してから戻って来たのだが、最下層から上がってくるのは結構時間がかかった。
疲れていて歩くのが遅くなってしまったのかもしれない。
ダンジョンの中ではどれくらい経ったかなんて自分の感覚に従うしかないので本当に遅かったのかは分からないが感覚的に一日半くらいは歩いているだろう。
「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」
「先に宿に帰るか? お金は数日先まで払ってあるから大丈夫だし、この後まだ魔物の買取をしてもらわなくちゃ行けないから時間かかるし」
ルシアは俺から離れて自分の足でしっかりと立てているが、ダンジョンで魔物と戦う生活を数日の間ずっと行っていたこともあってか明らかに披露している。
それに、緊張が抜けたことで一気に疲れが襲っているんだろう。
「……大丈夫、待ってる」
「でも相当疲れてるだろ。ベットで休んだ方が良いんじゃないか?」
「大丈夫、ちょっとくらい待ってられるよ」
そう言いながら目をこすっているので全く説得力がない。
微妙にいつもより目が開いてないように見えるし、待ってる間に寝てしまいそうだ。
「先宿に帰って寝てていいよ。今にも寝そうだし、ベットで寝てて。終わったら俺も行くから」
「……分かった。終わったらすぐに戻って来てよお姉ちゃん」
「あぁ、終わったらすぐ戻るよ」
少しの沈黙の後、眠気には勝てなかったのか宿に先に戻ることにしたみたいだ。
「宿のおばさんに言えば部屋の鍵もらえるはずだから」
俺の言葉を聞いた後宿のある方へと歩いて行くが、眠くてなのか足取りが少しふらふらしている。
宿までは迷うほど距離があるわけでもないし、大丈夫だと思うが歩いている途中で意識を手放したりしないか心配である。
流石にそんなことあるわけないと思うが。
ルシアが宿に向かったのを確認し、ダンジョンの魔物を買い取っている場所に向かう。
「あ!やっとダンジョンから出て来たのね。
えーと、確かステラちゃんだったっけ?」
「はい、合ってますけど。てか、なんでいるんですか?」
「仕事だからだけど」
俺たちがダンジョンに入る時、出る時に必ず声をかけてくる受付のお姉さんが声をかけて来た。
俺の質問に「なんでそんなこと聞くの?」と言いたげな視線を送りながらそう答えてくる。お姉さんは不思議そうに見てくるが不思議なのはこちらの方である。
何故毎回毎回、俺たちがダンジョンに入る日と出る日にお姉さんがいるのだろう?
暇なのかな?
「そうですか。ダンジョンから出てきたので魔物の買取お願いできますか?」
「えぇ、今暇だから私が担当してあげましょう。
それで、何を狩ってきたの?」
今じゃなくても毎日暇そうですね。仕事が彼氏ですか? と思ったがばれないようにそっと心の中にしまい込む。
心の声が顔に出ないようにしてアイテムボックスからキメラをはじめとするここ数日で狩った魔物をどんどん出して行く。
「え? これって……キメラ、よね?」
キメラを見て、だんだんと顔を青くしながら恐る恐る聞いてくる。
え!? もしかしてキメラって殺しちゃダメな魔物だったりする?
あっちでいう天然記念物とかだったりするの?
「キメラ以外の何に見えるんですか? ……もしかして殺しちゃダメなやつでした?」
「全然殺しちゃって問題ないわよ。だってダンジョンなんだからすぐに何処からともなく湧いてくるわけだし。
それでなくても魔物なんて危険なんだからなんの問題も無いわ」
青い顔から一転してキョトンとして、当然でしょ と言いたげに言ってくる。
「じゃあ、なんでそんなに驚いてるの?」
「そりゃ驚きもするでしょ! こんな小さな女の子がダンジョンに入って数日出てこなくなって、帰って来たと思ったら最下層のボスを倒してきたのよ。
ねぇ、 わたしのこの驚き分かる?
しかも、その事実を誇る事もなく言い放つなんて……この辺の冒険者なら自慢できるレベルよ」
「でも、そんなに強くなかったよ?」
身体強化で一気に接近して剣を一振り。
それで上に飛んで逃げられたから着地するであろう場所にタイミングを合わせてライトニングを撃ち込んだ、だけだし。
まさか、あんなに立派な羽がついているのに空を飛ぶことが出来ないなんて思わなかったけど。
飛べる奴と飛ばない奴がいるのかそれともキメラって種はみんな飾りとして羽をつけているのか。
まぁ、どちらにせよそのお陰でめちゃくちゃ簡単だ。火力が高い魔法で一発だったからほぼ時間もかかってない。
「ステラちゃん、キメラはねBランクの魔物なのよ。普通なら何年もかけて強くなったベテランの冒険者が倒せるかどうかの魔物なのに、どうしてまだ13.4歳の、しかも冒険者になってから一ヶ月もたってない子がキメラを倒してくるの?
ねぇ、なんで? こんなこと前代未聞だよ?」
しっかりと俺に目線を合わせて子供に話しかけるように問いかけてくる。
何というか、ちょっと怖い。
「でも実際倒しちゃったから、前代未聞じゃなくなるね」
「うん、ステラちゃん。私が言いたいのはそんなことじゃないの。
今回は20階層までしかなかったから良かったけどダンジョンに潜り始めてから数日で最下層まで降りるなんて自分の実力を過信しすぎよ。他のダンジョンに潜る時は慎重にね。
それと、こんなに小さな女の子がアイテムボックス持ちでBランクのキメラを倒せるとなると、良くも悪くも噂になるんだから気をつけなきゃダメよ?」
「はいはい、気をつけます。
気をつけるので早く買取して下さーい」
心配していってくれるのはありがたいが、危ないと感じたら直ぐに引き返すし、どっかの貴族の勧誘とか他のパーティーへの勧誘も今のところ来ても断るつもりなので大丈夫だし、最悪武力行使で黙らせるつもりである。
「ステラちゃん、本当に気をつけないと危ないのよ? 本当に分かってるの?」
「はーい、分かってます」
圧力のある笑みを浮かべながら聞いてくるので、素直な子供っぽく返事をしてみた。
「本当に貴族とかには気をつけるのよ?」
そう言って魔物の解体する人を呼びにいった。
その後数時間。
もうあたりは真っ暗で家の中の灯りがいくつかついているがその灯りもすぐに消えるだろう。
解体する魔物が多すぎて時間がかかってしまった。
一応宿代に夕食も含まれているのでご飯の心配はないと思うがちゃんと食べられているだろうか?
そんな小学生の低学年にしそうな心配をしながら宿に戻り二階の借りている部屋に向かう。
「久しぶりのベットだなぁ」
たった数日だがダンジョンの中で寝るというのは結構くるものがあってベットで寝れるということに喜びを感じつつ部屋の扉を開ける。
「ルシアー、遅くなってごめん」
俺が遅くなったことにちょっと頬を膨らませてくれたりしたら可愛いなぁなどと考えながら、恐らく疲れて寝ているであろうルシアに声をかけて部屋に入る。
だが部屋に入ると、可愛い寝息が聞こえることも頬を膨らませてくれることもなかった。
あったのは静寂。俺の息を飲む音が聞こえるくらいに部屋は静かだった。
そして、部屋にルシアの姿はなかった。




