22 可哀想なウサギ
投げ飛ばされたウサギからはブチッと嫌な音を立てて飛んで行く。
ウサギの象徴とも言える耳が二つ俺の手の中に残っている。それを見た他のウサギたちはギョッとして顔を真っ青に染めて行き、我先にと逃走を開始した。
全力で走るウサギたちはテイマーウサギという自分の親分を残して逃げる。振り返るウサギはいない。耳が無くなるのがよほど怖かったのだろう。
「おっと、お前は逃さないよ?」
テイマーウサギも逃走を開始しようとしたが時既に遅しだ。俺は片手でしっかりと胴体を掴み持ち上げる。
ギギギッと油をさし忘れた機械のようにゆっくりと首をこちらに向けてくる。そして、目で「ねぇ、マジ?」と訴えかけてくる。
うん、マジ。
俺は持っていたウサギを少し上に投げて、流れるような動作で剣を振る。剣が宙に一閃を描くと地面には頭と胴体がお別れしたウサギが落ちていた。
「テイマーウサギだけど、ウサギであることには変わらないよね」
そう思い、アイテムボックスに収納する。
そして、後ろを振り返るとうずくまっているルシアがいた。
「どうした?」
「み、みみ……みみ……」
指をさしている方向を見ると先程俺が投げ飛ばしたウサギの耳が地面に落ちている。
ちょっとショッキングかもしれない。これだけ見たらウサギバラバラ殺人ならぬ、殺動事件だ。
「ごめん、本当にごめん。だからこれは見なかったことにしよう」
固まっているルシアをお姫様抱っこで馬まで運びそのまま馬にまたがる。
流石にウサギだけの依頼では孤児院の食費はどうにもならないので森に行くことにする。前のように運良くレッドボアとかがいればいいのだが。
◇
「あぁ、本当ゴブリンしかいねぇなぁ」
俺は飛びかかってくるゴブリンを薙ぎ払いながら呟いた。
俺の隣にはルシアが同じくゴブリンと戦っていた。
驚いたことにゴブリンを狩らせてみると、身体強化を使い二、三十秒で倒してしまったのだ。
それからゴブリンを倒しながら森の中を歩いているが本当にゴブリンしか見当たらない。
もう二十匹は倒したと思う。結局その後ゴブリン以外と出会うことはなく街に帰ることになった。
◇
「アドルフー、依頼の確認を頼む〜」
ギルドの受付でアドルフを呼ぶ。
「おう、今日の成果はどうだった?」
「全然だ。マジでゴブリンしかいねぇ。何か魔物がたくさんいる場所とかねぇのか?」
アドルフは俺の質問に、何言ってんだ?という顔で俺のを見てから答えてくれた。
「あるに決まってんだろ。ダンジョンなんて魔物の倉庫みたいなもんじゃねぇか」
「ダンジョンって何?お姉ちゃん?」
「ダンジョンって何?アドルフ?」
俺はルシアの疑問に答えることは出来ないのでアドルフにそのまま丸投げしておいた。
きっとルシアにも分かるように説明してくれるはずだ。
「えーとな、ダンジョンって言うのはな、魔物がたくさんいて、階層を降りるごとにどんどん強さが増していくところだ。
当然だが、ボス部屋に入ってボスを倒すと宝箱が出現する。その宝箱には、武器からアイテムまで幅広い種類のものが入っているんだ」
「ほう、つまりダンジョン魔物いっぱい=金いっぱいだということか」
「どう考えても違うだろ……そんな甘い考えだといつか魔物に食われて死ぬぞ?」
アホかと俺にジト目を向けてきつつ、脅してくる。でもまぁ、流石に食われそうだったら逃げるよ。
「え!?私、死んじゃうの……」
「おい、アドルフ。ルシアが怯えちゃったじゃないか、どうしてくれるんだ?」
慌てながら何と言えばいいのか言葉を探しているアドルフ。顎に手を当て唸っている。そして、閃いたとばかりに手を叩いて。
「大丈夫だ。どんなことがあってもこのステラが守ってくれるさ。例え、竜が相手だって守ってくれるぞ?」
「本当?お姉ちゃん?」
あ、そんな純粋な目で見ないで!
てか、何言ってんだよ?竜とか絶対無理だろ。そんなの眼の前に現れたら我先にと逃げ出しますよ。当然じゃないですか。
と思ったがルシアにそんなことを言えるわけはなく。
「あぁ、当然だ。竜だろうと何だろうとルシアを守ってみせるさ」
いや、逃げ切ってみせるの間違いだな。
あ、そういえば竜って鱗とか高そうだなぁ。
「それで、嬢ちゃんはダンジョンに行きたいのか?」
そりゃ金が稼げるんなら何処へだって行きますよ。近場なら。
「うん、行きたい。で、どこにあるの?森の奥とか? 洞窟の中とか?」
「いや、ここから一番近いダンジョンは隣町のユーゼルにある所だな。もともとダンジョンがあったからその上に街を作ったんだ。
まぁ、ダンジョンはその街の売りみたいなもんだな」
そっか、ダンジョンからでたらすぐに宿で休めたら、物を買い取ったりしてもらえたら楽だもんなぁ。
隣町かぁ。遠いんだろうなぁ。でもお金は稼げるんだよなぁ。
魔法のスクロール高いしな、多分後数ヶ月じゃ無理だし、誕生日に間に合わないよなぁ。
仕方ない、数日留守にするくらいなら大丈夫だろう。
「じゃあ、明日か、明後日にでも行ってみるよ」
「行くのはいいが、あまり下の階層に降りるなよ。下に行くほど強くなる。嬢ちゃんが強いのは知ってるが、ルシアを守りながら行くのは相当気をつけないといけないからな」
アドルフの心配が言葉からでも伝わってくる。なんとなく声にそんな感情が含まれている。
まぁ、そんなに下の階層に降りるつもりはない。いざとなれば俺一人でダンジョンに行くし。その方が安全で早く、多くの金を稼ぐことができる。
「分かった。気をつける。絶対に帰ってくるから安心しろ」
「そうか、そこで提案なんだが、ダンジョン必須のアイテムをここで売ってやろう」
さっきまでの心配は何処へやら。一瞬で目が商売人の目に変わり俺たちの前に木箱を持ってくる。
「何だよこれ?」
「見たらすぐ分かる。冒険者なら流石に知ってるだろ?回復ポーションだ。当然最下級から最上級まで揃ってる。何本かどうだ?」
そう言って、木箱の蓋を取る。中にはガラス瓶がいくつか入っていた。




