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第九話 種明かし

 目を疑った。

 一見、ただのぼんやりとした白い光にしか見えないそのカーテンはどんな壁よりも強固なバリアーとなり、親分の身体を弾いてしまうのだ。「クソがっ!!」と親分が叩きつけた拳も音なく跳ね返されてしまった。


「やっぱり。それでラルバ君の能力を封じていたのね」


 イデアは静かに言った。


「それは光の結界。闇の魔法使いはこの結界内には入ることはできないの。闇の魔法も弾くこともできるわ────ということは貴方のそれは闇の魔法ということになるけど、本来あれはただの人間が使えるはずがないの。では何故持っているか? 考えられる事は一つ」


 一呼吸置くと、はっきりと見開かれた緑の眼が親分を射抜く。


「貴方が魔女と契約したからよ! だから貴方達は神の生まれ変わりの存在を知り、一度も会ったことがないにも関わらずそれが誰であるかも大体わかっていた! 魔女は闇の魔法を使えるし、きっと貴方に自分の魔力を分け与えたのね。

 魔女は緑目狩りの存在を知っていて、親分である貴方の前に姿を現して願いという名目の契約を持ちかけたの。この部屋の大量の金貨と緑目狩りなんてむごい事を平気でするとこから見る限り、相当お金好きなんでしょ? だから魔女にまでお金頂戴なんて言ったんじゃない? だから魔女はその大量の金貨と《ゲムマ族》を狩るのに便利なその力を分け与える代わりに、神の生まれ変わりを連れてこいと命じたのよ!」


 イデアを見た彼らは一目で神の生まれ変わりと判断した。知っているのが髪の色などの大雑把な特徴だけならば姉と妹を間違えることもあり得るかもしれない。または、彼女が本当の神の生まれ変わりであるとするなら……一応筋は通っているのではないか?


 親分は額にじんわり脂汗を浮かべていた。それで図星と確信したのかイデアはフッと笑う。


「哀れな人。金が欲しいがために罪のない人にこんなことをして、最終的にその欲望のせいで呆気なく魔女に操られることになるなんて……魔女はそんな都合の良い存在じゃないって証明してあげる。ラルバ君もよく見てなさい」


 二人が息を呑む中、イデアがパチンと指を鳴らすと部屋の金貨袋の中から一瞬にして黄金の輝きが消え失せる。


「……!?」

「中をご覧なさい」


 びっくりしたように親分が駆け寄り、袋を逆さまにする。最初、たしかに金貨だったそれはただの土くれに変わり果てていた。慌てて他の袋にも手を出すが、砂山が高くなっていくばかり。

 嘘だろ、とラルバも絶句したままズボンのポケットに手を突っ込む。硬くてひんやりした物があると思ったのに程よく湿った粉っぽい物に変わっていた。


 ……せっかく逃げてる間に盗んだのに。


「テメェ……一体俺様の金に何をした!!」

「何って、魔女がかけた呪いを解いただけよ。土と金の区別さえつかなくなるように魔女が細工をしていたみたい。魔女は呪いとかすごく詳しいし、実際力も凄まじいからなんだってできるのよ。残念だったわね」


 先程まで怯えていたイデアとは何かが違う。ラルバはそれを感じ取っていた。内側から光り輝くような何かを。


 イデアさんは何者なんだ? まさか……


「めっ……女神だからって調子に乗るなよオオォォォッ!!!!」


 怒り狂った親分が白目まで真っ赤に血走らせて怪物のような形相で襲い掛かってきた。

 そんなことをしたって無駄だ。このバリアーには敵わない……そうたかをくくっていたが。


「……ああっ、もう駄目! 今の私じゃ維持できない!」

「えっ」


 薄いガラスが砕け散ったような不吉な音。彼らを覆っていた白い光は一瞬にして消え、イデアは膝から崩れ落ちていく。彼女から放たれた神々しい光は暗黒に永遠に呑み込まれてしまったように見えた。


「え!? ちょ、しっかりしてくださいよ、イデアさん!」


 疲れきったように俯いて動かないイデアを揺さぶった。と、更に次の瞬間。


「うわあああぁぁっ!?」


 追い打ちをかけるように響いた廊下からの叫び声に、三人は一斉にそちらを見やった。


「……ルーク!」


 まさかルークまでやられた? 嘘だろ? 密かに助けを待ってたのに! もうどーしよーもねーじゃん!!


 燭台ももう使い物にならないし、力も封じられてしまった。頼みの綱だったルークもやられたかもしれない。フォルテが助けに来る気配もない。どうしよう、本当にどうしよう!?


「ルークってあの正義の味方気取りのガキのことかぁ? 残念だったなぁ。オメエらももう諦めろ!!」


 背後にナイフを握った親分が迫る。


「……鍵が」


 イデアがラルバの耳元で囁いた。

 鍵? と聞き返すとイデアがこくりと頷く。


「首輪の鍵……親分が持ってる。逃げて、早くルーク君も助けないと……」


 ラルバは素早く振り返り、親分の腰に鍵の束がぶら下がっているのをたしかめた。

 直後振り下ろされた刃をかわすと、彼はポケットに手を突っ込む。


「もういらないからくれてやる!」


 先程まで金貨だった土の塊を力と恨みを込めて顔面に投げつけてやった。驚いて一瞬親分のナイフの手が止まる。すかさず金的蹴り、鍵束をかすめ取った。


「……ってイデアさん。これ、どれがどの鍵がわかんないんスけど!」

「ごめんなさい。私も、わからない……」


 どれもこれも同じような形。しかもそれが十個以上。

 急いで端からイデアの首輪の鍵穴に差し込んでみる。が、焦っているせいか手が震えて上手く入らない。


「だぁーっ、うぜえええ!!」

「落ち着いて……焦らずやりましょ」


 ガチャガチャやっているうちにどうにか首輪が外れ、イデアの腕を掴むと、親分が悶絶している間に廊下の方へ向かうが……何か様子がおかしい。阿鼻叫喚という言葉をそのまま表したような聞くに堪えない野郎共の悲鳴、忙しない足音、それからバタバタ人が倒れる音。そして最後に。


「ウガアアアアァァァアアアアアァァ!!!!!」

「誰かあいつを止めろ────────っ!!」


 悲鳴とも怒号ともつかぬ誰かの奇声と、切羽詰まったルークの声に思わず二人は立ち止まった。


「ちょ……多分お前の部下とんでもないことになってるぜ。行って来たら?」

「ぐ…………俺様の金目当てで媚びてついて来た奴ら、なんぞ…知ったこっちゃねえ」

「チッ、役立たずの豚が」


 こちらが優勢に立ったとわかると、ラルバは倒れ込んだままの親分の頭を片足で踏みつけて嘲るように見下ろす。それを忌々しげに見上げる親分はとても無様で滑稽だ。


 ルークの気持ち思い知ったか。ざまあみやがれ。

 

「しょうがねーなぁ。イデアさんに行かせたら可哀想だしお前は豚だから、このオレが見に行ってやるよ。感謝しろ」


 わざとプライドを傷つけるような単語を連発させながら、そしてその心の片隅でルークの身を少し案じながら廊下へ向かう。

 こちらからは薄暗くてさすがのラルバもよくは見えないが、単数の足音と巨大な羽音のような何かと奇声が大きくなって、それからぼやけた輪郭が────


「ラルバ君、後ろっ……!」

「うおお!?」


 反射的に攻撃を受け流し、勢い余った親分が前に倒れ込んだ。


「その手にはもう乗らねーよ!」

「女神め、小癪こしゃくな真似を……!!」


 よろよろ起き上がる親分。

 ラルバが「あ」と声をあげた。


「あ?」

「怖イヨオオォァァァァアアアアア────────────ッ!!!」


 衝突。


 影も親分も天井まで飛んでいって、そして勢いよく床に叩きつけられた。


「ラルバッ! 無事かってなんだ、こいつか……ハァ、ハァ」


 息を整えながらルークがやって来る。先程親分から受けたリンチ以外の傷はない。よかった。でも。


 ラルバは足元に倒れた二人に視線を落とす。


「……ルーク。なんでここにジルエットがいるんだよ」

「わかんない。僕が緑目狩りと戦ってたら突然乱入してきて、最初はまだ大人しかったんだけど……なんかパニックになってきたと思ったらいきなり暴れだして見境なく人を切り裂き始めたんだよ……」


 親分と向かい合わせになって目を回しているのは、返り血にまみれたジルエットだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

実のところ、今回の話は流れ的に自信がありません。

指摘などをくださると幸いです。

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