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灰壁の守護者~剣に恵まれなかった遊撃団長は、守護魔法で仲間を生還させる~  作者: ムネディ


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第51話 城門の火

 アーグの執務室から最初の伝令が走り出した時、王城の中で国王の死を知る者はまだ多くなかった。

 

 廊下では近衛兵が人を止め、執務室へ続く区画を封鎖している。ウェルは近衛兵に連行され、王城内で拘束されていた。

 

 アーグが亡くなり、その場にいたウェルを捕らえた。その一報が元帥府へ届く。

 

「陛下が、ウェル殿下に……?」

 

 ボリャークは伝えられた内容を最後まで聞いてから、机に置いていた手をゆっくり握った。

 

 予想していた出来事ではない。

 

 ウェルが王都へ戻ったことも、アーグへ直接会ったことも把握していた。だが、彼が関わってきた一連の工作に、王をここで殺す筋書きはなかった。

 

 予定から外れた出来事だった。

 

 だからこそ、使える。

 

「王子は生きているのだな」

 

「はい。近衛が拘束しております」

 

「城外の護衛は」

 

「第六騎士団の数名が、正門外で待機したままです」

 

 ボリャークの目がわずかに細くなった。

 

 アカヤンの提案で王都へ送り出された兵たちだ。第六騎士団がミドルンティア側へ通じていたことを、ボリャークは知っている。すべての兵の顔や役割まで把握しているわけではない。それでも、アカヤンが王子の護衛に選んだ者たちなら、使い道はあった。

 

「正門には、王子を拘束したことを伝えろ。第六騎士団は城内へ入れるな。武装したまま門へ近づくことも許可するな」

 

「承知しました」

 

 兵が下がろうとする。

 

「待て」

 

 ボリャークは呼び止めた。

 

「別の伝令を第六騎士団へ出せ。元帥命令だと伝えろ。ウェル殿下の護衛任務はまだ終わっていない。王子の身柄を確保し、元帥府の保護下へ移せとな」

 

 伝令役の兵が顔を上げた。

 

「ですが、近衛は王子殿下を国王殺害の容疑で拘束しています。正門も閉じるのであれば、身柄を確保せよという命令は……」

 

「お前は近衛か」

 

「いえ」

 

「ならば元帥府の命令だけを伝えろ。第六騎士団がどう判断するかまで、お前が考える必要はない」

 

「……承知しました」

 

 今度こそ兵が去り、扉が閉まった。

 

 ボリャークは椅子へ腰を下ろさなかった。

 

 国王が死んだ。王位継承第1位のレインはアドラスにいる。王都に残る軍は、すでに各方面へ分けられていた。ここで王城まで静まり返れば、各地の者は次の命令を待つだけになる。

 

 それでは足りない。

 

 レインがアドラスに留まれる時間をなくす必要があった。

 

 王が殺され、王子が拘束された。それだけでなく、王都で再びクラスト兵同士が剣を向けたとなれば、王位継承第1位が遠くから事態を見守っているだけでは済まない。

 

 ボリャークは机上の地図へ目を落とした。

 

 火種は、すでに正門の外にいる。

 

 *

 

 第六騎士団の護衛たちは、閉ざされた正門を見上げていた。

 

 ウェルだけが城内へ入ってから、長い時間が過ぎている。

 

 城壁の上では兵が増え、先ほどから城内を走る者の数も明らかに多かった。だが、門の外へ事情を説明に来る者はいない。

 

 護衛を率いる兵は馬から降りたまま、正門から目を離さなかった。ウェルから武器に手をかけないよう命じられた時と同じく、部下たちにも剣を収めさせている。

 

 やがて、人1人が通れるだけ門が開いた。

 

 出てきたのは、ウェルではなかった。

 

「元帥ボリャーク閣下からの命令を伝える」

 

 第六騎士団の兵たちが振り向く。

 

「ウェル殿下は城内で拘束された。護衛任務は継続中とする。殿下の身柄を確保し、元帥府の保護下へ移せ」

 

 護衛を率いる兵の顔が変わった。

 

「拘束? 殿下に何があった」

 

 伝令は一瞬だけ黙った。

 

「アーグ陛下が亡くなられた。執務室にいたのはウェル殿下だけだった」

 

 第六騎士団の間に動揺が走る。

 

「殿下が陛下を殺したと言うのか」

 

「詳しいことは調査中だ。命令は伝えた」

 

 伝令はそれ以上答えず、門の内側へ戻った。

 

 扉が閉じる。

 

 護衛を率いる兵は、しばらく動かなかった。

 

 アドラスを出る時、ルートシンは彼らにウェルの安全を最優先すると誓約させた。王都まで送り届ければ終わるはずだった任務は、元帥命令によって継続を命じられた。その一方で、正門は閉ざされ、ウェルが無事なのか確かめることさえできない。

 

 兵は正門へ歩み寄った。

 

「第六騎士団だ。ウェル殿下の身柄を引き取る。元帥命令を受けている」

 

 門の内側から返答があった。

 

「王子殿下は国王殺害の容疑で拘束中だ。誰にも引き渡せない。第六騎士団はその場で待機しろ」

 

「元帥命令だと言った」

 

「こちらは近衛の命令で王子殿下を拘束している。城内へは入れない」

 

 護衛を率いる兵が振り返った。仲間たちも、すでに馬から降りている。

 

「せめて殿下の御無事を確認させろ。門を開け」

 

「認めない。武器から手を離せ」

 

 城壁の上で弓兵が構えた。第六騎士団の兵たちも、その動きを見上げる。

 

 護衛を率いる兵が、正門へ1歩近づいた。

 

「止まれ!」

 

 さらに1歩進む。

 

「それ以上進めば、敵対行動とみなす!」

 

 兵は止まらなかった。

 

 剣が鞘から抜かれる。その音に続き、後ろの第六騎士団兵も一斉に武器を抜いた。

 

 城壁から警告の声が重なる。

 

「武器を捨てろ!」

 

「ウェル殿下を出せ!」

 

 最初に飛んだ矢は、人ではなく護衛を率いる兵の足元へ刺さった。

 

 それでも第六騎士団は退かなかった。ここで引けば、元帥から命じられた身柄の確保も、ルートシンの前で誓った護衛も果たせない。

 

 護衛を率いる兵が剣を上げる。

 

「殿下を確保する! 門を開けろ!」

 

 正門が再び人1人分ほど開き、盾を持った城兵が数人だけ外へ出た。

 

「最後の警告だ。剣を捨てろ。王子殿下の件は王城で調べる」

 

「我々は殿下を王都へ送り届けるために来た。拘束されたままでは任務を終えられない」

 

「国王陛下が亡くなられた直後だぞ。従え!」

 

 護衛を率いる兵の視線が、わずかに開いた正門へ動いた。ほんの数歩先に城内が見えているが、ウェルの姿はない。

 

 次の瞬間、彼は前へ出た。

 

 盾が道を塞ぐ。

 

 剣と盾がぶつかり、乾いた音が正門前へ響いた。

 

「押し入るぞ!」

 

 第六騎士団の兵が続く。

 

 城兵は門を閉じようとしたが、1人が腕を斬られて後ろへ下がった。別の兵が盾を差し込み、第六騎士団を押し返す。城壁の弓兵も、今度は足元ではなく門へ迫る兵の進路を塞ぐ位置へ矢を放った。

 

「第六騎士団が攻撃した! 門を閉じろ!」

 

 正門が内側から押し戻される。

 

 扉が閉じ切る直前、第六騎士団の剣が木板へ叩きつけられた。

 

 鈍い音が響く。

 

 それはもう、要求でも抗議でもなかった。

 

 正門前で、クラスト兵同士の戦いが始まった。

 

 *

 

 元帥府へ「第六騎士団が正門で抜剣し、城兵1人が負傷した」と伝えられた時、ボリャークは驚かなかった。

 

「王城への攻撃と判断する。正門を閉鎖しろ。近衛には防衛を優先させ、第六騎士団を城内へ入れるな」

 

「はっ」

 

「それから、各方面へ伝令を出せ」

 

 ボリャークは一度だけ言葉を切った。

 

 伝えるべき事実は3つあればいい。

 

 アーグ王が死んだ。

 

 ウェル王子が拘束された。

 

 そして、ウェルを護衛してきた第六騎士団が王城へ剣を向けた。

 

「国王陛下崩御。ウェル殿下を拘束。第六騎士団が王城正門で武装行動を開始した。確認できた事実だけを送れ」

 

 兵が走り出す。

 

 ボリャークはその背を見送った。

 

 嘘は1つも入れていない。だが、第六騎士団へ身柄の確保を命じた者が誰なのかも、なぜ彼らが剣を抜いたのかも書かせなかった。

 

 王都で何が起きているのか分からない。その状態こそが、遠くにいる者を動かす。

 

 ほどなく、正門の方角から再び怒号が響いた。

 

 城門では第六騎士団と守備兵の衝突が続き、元帥府からは伝令が次々と外へ走る。

 

 アーグの死だけでは終わらなかった。

 

 ボリャークは、自ら次の火をつけていた。

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