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灰壁の守護者~剣に恵まれなかった遊撃団長は、守護魔法で仲間を生還させる~  作者: ムネディ


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第48話 届かない警告

 夜明け前、ルイセンの屋敷にある小部屋で、シャルンは王都へ送る文面を3度書き直した。

 

 机を挟んだレインは、書き上がった紙を最初から読み返す。

 

 ウェルをアーグと2人きりにしないこと。王都へ到着した時刻と通った経路を記録すること。同行している第六騎士団の護衛から、道中で異変がなかったかをウェルとは別に確認すること。ただし、確かな証拠がない段階で処罰や拘束は行わないこと。

 

 暗号にも、ユキネが見た一瞬の異変にも触れていない。

 

「これでは、父上が理由を求めるでしょう」

 

「求めていただくための文面です。詳細を書けば、途中で読んだ者へこちらの調査内容を知らせることになります。陛下から確実な返信をいただいた後、次の通信で説明します」

 

「ですが、理由のない警告では、ウェルを警戒する必要はないと判断されるかもしれません」

 

「その逃げ道は、殿下の署名で塞げます」

 

 シャルンは最後の一文を指した。

 

 ――王家の一員として、レインがアーグへ直接求める。

 

 内政官からの進言でも、アドラスに集まった者たちの推測でもない。娘であるレインが、警告を送った責任を負う文面になっている。

 

 レインは筆を取った。

 

「分かりました。確証がないことは隠しません。それでも、父上に警戒を求めたのは私だと明確にします。後で誤りだったと分かれば、その責任も私が負います」

 

 署名に続いて王家の印を押す。

 

「この書状を送ってください。ただし、ウェルを敵と断定する命令へは変えないこと。父上にも、その点だけは誤解させたくありません」

 

「承知しました。魔法通信と伝令を同時に使います」

 

 レインの指は印から離れても、しばらく紙の脇に残っていた。

 

 姉として弟を信じたい気持ちを消したのではない。それを抱えたまま、王女として父へ警告を送る決断をしたのだ。

 

 *

 

 通信を担う兵は、屋敷の一室に術式を整えた。

 

 シャルンは送る文言を短く区切り、通信兵へウェルの異変や暗号の存在を知らせなかった。そばではマウクが、術式に流れた魔力を記録している。

 

「始めてください」

 

 光を帯びた術式が床に広がった。通信兵が王城の受信先を定め、最初の文言を送り出す。

 

 光は一度強まった。しかし、王都の方角へ伸びた光だけが途中で途切れ、術式の内側へ崩れ落ちた。

 

 通信兵が息を整え、送り先を定め直して再び魔力を注ぐ。今度は最初の数語まで流れたが、その先は乱れた魔力に呑まれた。

 

「中止してください」

 

 シャルンは3度目を命じなかった。

 

「術式の不備でしょうか」

 

「同じ術式で、谷の入口にある詰所へ短い確認文を送ってください」

 

 通信兵が送り先を変える。確認文は途切れずに届き、ほどなく詰所から受信を示す光が返った。

 

 マウクは、シャルンから報告を受けた2つの内容を確認した。

 

「通信術式そのものは正常だ。谷の入口には届いたのに、王都へ送った文言だけが途中で遮られている」

 

「以前、ウェル殿下の生還を王都へ知らせようとした通信も、同じように途中で途切れました」

 

「あの時は、王都周辺の混乱か、使った術式の不調とも考えられた。でも今回は場所も時刻も術者も違う。それでも王都へ向けた文言だけが同じように途切れた。偶然とは考えにくいね」

  

「まだ人為的な妨害とは断定しません。谷の入口にある詰所からも、王都へ同じ確認文を送ります。同時に伝令を出しますが、書状を持たせる者と、周囲を確認する者は分けます」

 

「シャーウ殿に頼むのかい」

 

「はい。伝令が王都へ進めないなら、何が行く手を阻んだのかを確認していただきます」

 

 *

 

 谷の入口で書状を受け取ったシャーウは、封より先に王都へ続く街道を見た。

 

 王都へ向かう伝令を1人選び、その護衛を付ける。一見すれば、それだけの手配だった。

 

 だが、送り出す前に第一遊撃団の者を別々に呼ぶ。

 

「伝令の前へ2人、後ろへ2人出す。護衛の隊列には加わらないで。前の者は道に残された痕跡を確認する。後ろの者は伝令ではなく、伝令を追う者を探しなさい。見つけても捕らえず、こちらの存在を悟らせないまま戻って」

 

 最後にセンクへ向き直った。

 

「あなたは後ろを担当してください。相手の顔を見ることより、どこから現れ、どの道を使ったかの確認を優先して」

 

「承知しました。伝令が襲われた場合も観察を続けますか?」

 

「命を捨てさせるつもりはありません。危険が迫れば合図を出し、伝令と護衛を引き返させなさい。ただし、相手を追って谷の守りから離れることは許可しません」

 

 命令を受けた者たちは、互いに出発時刻をずらして谷を出た。

 

 シャーウは残る部下へ、王家の書状を持った伝令が出たことを口外しないよう命じた。大勢で護衛すれば、重要な書状を運んでいると敵へ知らせることになる。

 

 日が傾き始める前に、先行した2人が戻った。

 

「街道上に、新しく人が待機した跡があります。火は使わず、馬を木立の奥へ隠しています。谷から王都へ向かう者を、街道へ出る前から監視できる位置です」

 

「人数は?」

 

「断定できません。確認できた馬は4頭です」

 

「見ていない人数まで報告へ加える必要はありません。休んでから、位置と痕跡を記録に残してください」

 

 続いて伝令と護衛が谷へ戻った。最後にセンクたちが木々の影から現れる。

 

 センクは水を求めるより先に報告した。

 

「伝令が通過した後、3人が別々の場所から追跡を始めました。装備に騎士団の印はありません。こちらが引き返す合図を出した直後、追跡者も止まりました。伝令の後ろに斥候がいることまで警戒しています」

 

「顔は?」

 

「確認していません。顔を見られる距離まで近づけば、こちらも発見されます。1人は街道脇の待機場所へ戻り、2人は王都側へ離れました」

 

 シャーウは報告に推測を加えなかった。見張りがいた位置、確認できた馬の数、追跡者が動き始めた時刻、3人が引いた方向だけを地図へ記す。

 

「よく戻りました。後続の伝令は出しません。今夜は谷の入口の見張りを増やし、街道の奥まで追わないよう全員へ伝えなさい」

 

「王都への書状は、どうしますか?」

 

「同じ道へ出せば、次は相手も伝令を生かして帰さないでしょう。届かせる方法を変えるまでは、兵を出しません」

 

 センクは短く頭を下げ、部下への伝達へ向かった。

 

 *

 

 夜、シャーウの報告を聞いたレインは、机上の地図から顔を上げた。谷の入口にある詰所から試した通信も、王都へ向けたところで途切れていた。

 

 シャルンは、確認できた3つの事実を別々の紙へ記した。

 

 場所と術者を変えても、王都へ向けた魔法通信だけが途中で途切れたこと。以前、ウェルの生還を知らせようとした通信も同じように届かなかったこと。王都へ向かう伝令を、街道で待機していた3人が追跡したこと。

 

「すべて同じ者が行ったとは断定できません。ですが、魔法通信と街道のどちらも、アドラスから王都へ情報を送ろうとした時に阻まれています」

 

「私たちがウェルの異変に気づき、父上へ警告しようとしていることまで知られているのでしょうか」

 

 ユキネは窓の外ではなく、部屋の扉へ意識を向けていた。弟を追って王都へ向かいたい気持ちがあっても、姉のそばを離れるとは言わない。

 

 マウクが首を横へ振る。

 

「そこまでは分かりません。以前から王都への報告を止めていた者が、今回の伝令にも反応しただけかもしれない。でも、ウェル様が王都へ向かっている今、警告が届かなければ、アーグ陛下は何も知らないままウェル様と会うことになります」

 

 レインは送れなかった書状を手元へ戻した。

 

「同じ方法は繰り返しません。今度は伝令が殺され、書状を奪われるかもしれません。シャーウ、相手に読まれず、こちらの守りも薄くしない経路を探してください。シャルンとマウクは、王都へ届く別の連絡先を洗い出してください。ユキネは私とともに、ウェルが出発した時刻と同行者の記録をもう一度確認します」

 

「姉上、私も外の警戒へ出られます」

 

「あなたが戦えることは知っています。だからこそ、今は私の隣で報告を受けてください。ウェルを最後に見送った私たちにしか確認できないことがあります」

 

 ユキネは一瞬だけ言葉を止め、それから深くうなずいた。

 

「分かりました。弟を疑うためではなく、真実を見落とさないために確認します」

 

 レインは全員を見回した。

 

「父上への警告を諦めたわけではありません。今の通信と街道が使えないなら、別の方法を見つけます。それまでは、ウェルの異変を知る者を増やさないでください」

 

 1度の通信失敗だけなら、術式の不調と考えることもできた。

 

 街道に見張りがいただけなら、王都へ向かう者を狙う盗賊の可能性も残った。

 

 だが、王都へ向けた通信だけが繰り返し途切れ、アドラスから出た伝令だけが街道で追跡された。

 

 何者かが、アドラスの情報をアーグへ届けさせないよう、魔法通信と王都へ続く街道の両方を監視していた。

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