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灰壁の守護者~剣に恵まれなかった遊撃団長は、守護魔法で仲間を生還させる~  作者: ムネディ


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第24話 分けられる軍勢

 マウクが消された決裁をつなぎ直していた頃、クラスト王城では新たな軍令が作られようとしていた。

 

 謁見の間に呼ばれたアーグの前へ、ボリャークが各地の軍勢を記した地図を広げる。第一騎士団を示す駒はすでに王都を離れ、アドラスへ続く街道上に置かれていた。

 

 その周囲には、第五騎士団、第七騎士団、3つの遊撃団を示す駒が集められている。王城へ届いた報告だけを並べれば、王女を名乗る者たちのもとへ軍勢が集結しているように見えた。なぜ同じ国の騎士団が戦わずに退いたのか、その理由を記したものは置かれていない。

 

「第一騎士団は、予定どおりアドラスへ進軍しております。第二騎士団は反乱勢力との衝突を避け、現在はアドラスから離れた街道上で待機中です」

 

「なぜ止まっている。第五騎士団と第七騎士団まで反乱に加わったのであれば、兵を増やして押さえ込めばよいだろう」

 

 第二騎士団が剣を交えずに距離を取った経緯より、命じた追討が進んでいないことの方が、アーグには重大だった。声を荒らげる王へ、クマークが静かに頭を下げる。

 

「おっしゃるとおりでございます。ただ、第一騎士団だけでアドラスへ踏み込ませれば、数で囲まれるおそれがあります」

 

「ならば増援を出せ」

 

「第四騎士団と第六騎士団が適任かと存じます。南北の守備を担う両騎士団ならば、領地を守りながら行軍する術にも長けております」

 

 クマークは南北の駐屯地からアドラスへ指を滑らせた。第一騎士団の後を追う2本の進路が、地図上で重なる。

 

 アーグは南と北を見比べ、眉を寄せた。

 

「両方を動かせば、その間の守りが薄くなるのではないか?」

 

「一時的なものです。反乱を鎮圧した後、元の担当域へ戻せば済みます。それよりも問題は、国境へ接近した獅子騎士団です」

 

 今度は、クマークの指がストログとの国境へ移る。

 

「講和条件を拒んだ以上、いつ越境しても不思議ではありません。第二騎士団を国境へ転進させ、王都側の第三騎士団と合流させるべきでしょう」

 

「第三騎士団まで王都から離すのか」

 

「反乱側には第一、第四、第六騎士団。ストログ側には第二、第三騎士団を当てます。どちらも短期間で終わらせれば、王都へ敵を近づけずに済みます」

 

 国内の軍勢を2つの戦場へ分ける提案だった。王都の近くに置く兵を減らし、南北の守りにも空白を生む。だがクマークは、その危うさを反乱鎮圧と国境防衛という言葉で覆い隠していた。

 

 アーグには、自分へ向かう脅威を遠ざける策に見えた。

 

「よい。すぐに動かせ」

 

 承認を受けたボリャークが一礼する。

 

「第四、第六騎士団には、第一騎士団を追ってアドラスへ向かわせます。第二騎士団は国境へ転進。第三騎士団には、3日以内に第二騎士団との合流地点へ入るよう命じます」

 

「獅子騎士団を国境の外へ追い払え。レインとユキネを名乗る者たちも、必ず捕らえるのだ」

 

「承知いたしました」

 

 アーグの承認印が押された命令書は元帥府へ運ばれた。そこで行軍先と期限を記した正式な軍令となり、ボリャークの名で各騎士団へ発せられる。

 

 クマーク自身が騎士団へ命じた形は、どこにも残らなかった。

 

*

 

 南側の担当域にある第四騎士団の駐屯地へ、軍令が届いたのはその日の夕刻だった。

 

 団長シキシは、明日の夜までに出発し、5日後に第一騎士団の後続へ入れと記された命令書を最後まで読み、南側の集落を示す地図へ目を向けた。街道沿いには物資庫と小さな守備拠点が点在している。全軍を引き抜けば、軍令に従う前に守るべき民を危険へさらす。

 

「全軍を動かせば、街道沿いの守りが空くな」

 

「しかし、元帥命令です」

 

 副団長の言葉に、シキシは命令書を丁寧に畳んだ。

 

「従わないとは言っていない。夜明けに出る。それまでに各地の守備隊を組み直せ。負傷者と補充直後の兵は残し、物資庫と集落の警備に回す。出発後も連絡が途切れないよう、伝令の経路を決めておけ」

 

「行軍用の物資は、周辺から集めますか?」

 

「駐屯地の備蓄を使え。荷の量に合わせて進軍速度を定める。急な出陣の負担を領民へ押しつけるな」

 

 王命に従うことと、領民を置き去りにすることは同じではない。命令を拒まず、空いた守りも放置しないために何を残すか。シキシの判断は、まずそこへ向いた。

 

 副団長は新しい配置を書き留め、各地へ走らせる伝令の人数を確かめる。シキシはその間にも地図を見直し、南側で異変が起きた場合に残留部隊だけで持ちこたえられる道筋を選んだ。

 

 兵の再配置と物資の積み出しが夜通し進められ、第四騎士団は夜明けとともに南側の駐屯地を発つことになった。

 

*

 

 アドラスから距離を取っていた第二騎士団にも、同じ夜に伝令が到着した。

 

 チカライは新たな軍令へ目を走らせ、眉を寄せる。

 

「反乱軍の追討を中止し、ストログ国境へ向かえだと?」

 

「第一騎士団が追討を引き継ぎます。第二騎士団は現在地から転進し、3日後までに国境側の補給拠点へ入るよう命じられています」

 

「第五騎士団も第七騎士団も、まだ王命に従っていない。それを残していくのか」

 

「獅子騎士団への対処を優先するとのことです」

 

 チカライは命令書から顔を上げ、アドラス方面を振り返った。

 

 ジルバたちは剣を抜かず、チョーカも鬨の声だけで第二騎士団を退かせた。本当に国を奪うつもりなら、あの場で追撃しなかった理由が分からない。力で押し切る覚悟をしていたからこそ、戦おうとしなかった相手の動きが胸に残っていた。

 

 だが、獅子騎士団が国境にいる以上、軍令を拒むことはできない。疑念だけで国外の軍勢を放置すれば、今度こそ国を危険へさらすことになる。

 

「全隊へ転進を伝えろ。街道上で補給を整え、日没までに国境へ向かう。遅れた部隊を置き去りにするな」

 

 命令を下した声に迷いはなかった。それでもチカライは、折り畳んだ軍令からすぐには手を離さなかった。

 

*

 

 王都側の駐屯地では、第三騎士団長ミカが命令書を受け取っていた。

 

「ルートシンをアドラスへ送った直後に、今度は私たちを国境へ動かすのね」

 

「第二騎士団と合流し、獅子騎士団へ対処せよとの命令です」

 

 副団長の報告を聞きながら、ミカは第一騎士団が去った方角へ目を向けた。ルートシンの進軍を支えるのではなく、第三騎士団は反対の国境へ送られる。

 

「第四と第六も、アドラスへ向かうそうです」

 

「王都の守りまで薄くなります。出陣を見合わせますか?」

 

「それはできないわ。獅子騎士団が本当に越境した時、第三騎士団が動かなかったでは済まされない。でも、急ぐことと考えずに走ることは別よ」

 

 ミカは命令書を閉じ、待機していた部下へ顔を向けた。

 

「魔法兵の触媒を属性ごとに確認して。治療物資は行軍中に取り出せる位置へ。明日の朝に出る。3日以内の合流は守るけれど、国境へ着く前に兵を消耗させるつもりはないわ」

 

 命令には従う。獅子騎士団への備えも怠らない。その一方で、国内の主力が同時に持ち場から引き離される不自然さまで見落としたわけではなかった。

 

 反乱鎮圧と国境防衛が同時に必要だとしても、なぜこの時期に、ほぼすべての騎士団を動かすのか。答えは出ない。だからこそミカは、命令書を鵜呑みにせず、移動後も王都からの報告を受け取れるようにした。

 

 ミカは王都に残る守備と伝令経路を確認させてから、行軍準備へ移った。

 

*

 

 北側の担当域では、第六騎士団長アカヤンが軍令を読み終えていた。

 

「本隊は明日の夜明けに出る。4日後に北側から第一騎士団へ合流する」

 

「北側の守備はいかがいたしますか?」

 

「最低限でいい。反乱鎮圧を優先しろ。行軍を遅らせる配置換えは必要ない」

 

 同じく守備地を離れるシキシが、残す兵と領民の安全を先に考えたのとは異なる返答だった。副団長は短く承知し、準備のために退出する。

 

 扉が閉じた後、アカヤンはあらかじめ選んでいた別の部下だけを残した。

 

「先に分けた者たちを山脈へ入れろ。表向きは斥候と補給路の確認だ」

 

「本隊の行軍記録には残しますか?」

 

「必要ない。物資の搬出も別の帳簿へ記せ。本隊との関わりが分かるものは持たせるな」

 

 部下は理由を問わず、一礼して部屋を出た。

 

 翌朝、第四騎士団は南側から、第六騎士団は北側からアドラスを目指して進み始めた。

 

 第二騎士団はアドラスへ背を向け、第三騎士団も王都側の駐屯地を離れる。先発した第一騎士団を含め、各騎士団は同じ王の名を掲げながら、互いに異なる方角へ進んでいった。

 

 命令書に記された目的は、反乱の鎮圧と国境の防衛だった。

 

 だがその結果、クラストの軍勢は互いに離れ、王都と南北の守りを薄くしながら、アドラスとストログ国境、そして誰にも知らされていない北側山脈へ分けられていった。

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