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第六十二回

葬儀が滞りなく執り行われた数日後。董家の邸宅の復旧が進むなか、仲穎はガルの同胞たる羌族の集落へと自ら足を運んでいた。


かつては実直な青年として、彼らの交易の不満に耳を傾けていた仲穎だったが、今の彼は、どこか冷徹な威厳を身に纏っている。


集落の最奥、天幕パオのなかで仲穎を待っていたのは、数々の戦火を生き延び、顔に深い皺を刻んだ羌族の年老いた長老たちであった。


「――此度の葬儀への参列、およびガルの同胞たちの董家への合流、深く感謝いたします」


仲穎が漢族の礼を尽くして頭を下げると、中央に座る最も老いた長老が、濁りのない鋭い眼光で仲穎を見つめ、静かに首を振った。


「礼には及ばぬ、仲穎殿。ガルは己の誇りのために死に、若者たちは、お前の妻(王綏)の気高さと『復讐』という利害のために、自らお前の旗の下に集ったのだ。すべては荒野の契約にすぎん。……だが、仲穎殿。お前のその目、かつての『生真面目な仲穎』の目ではないな」


長老の言葉に、仲穎は小さく目を細めた。


「……義父の裏切りを知り、最愛の者を失いました。実直さや誠実さだけでは、この濁りきった世を正すことなどできぬと、思い知らされたのです」


仲穎の告白を聞いた長老は、ふっと低く笑った。しかし、その笑みには、過酷な涼州の大地を何十年も生き抜いた者だけが持つ、血の匂いが混ざっていた。


「ならば、一つ、我ら異民族に伝わる古き荒野の掟を教えてやろう、仲穎殿。……よいか、群れを率いる際、『弱い者を上に置けば、その部隊(部族)は全滅する』」


仲穎の身体が、かすかに緊張する。長老は続けた。


「漢族の朝廷は、血筋や言葉の巧みさ、都の権力(賄賂)で無能な者を上に据える。だが、この水も食料も足りぬ荒野でそれをやれば、待っているのは部族全員の餓死か、狼の餌食になる未来だけだ。上に立つ者は、誰よりも強く、誰よりも冷徹でなければならん」


長老は、枯れ木のような指を仲穎に突きつけた。


「大を活かすためには、時に小を捨てねばならぬ。一つの部族を生かすために、足手まといとなる一人の身内を切り捨てる。それが、この過酷な荒野を生き残るための、唯一の『大局』だ。お前がもし、これからより大きな群れを率いる長となるならば、漢族の生温かい道徳など捨てろ。大のために小を殺す、非情の獣になれ」


長老の言葉は、まるで熱い鉄を打つかのように、仲穎の胸の奥底へと突き刺さった。


(大を活かすために、小を捨てる……。それが、この世の真理か)


王渙が都の権力(大)のために自分たち(小)を殺しようとした。そして今度は自分が、董家(大)を活かすために、かつての誠実な自分(小)を殺し、義父を討った。


長老の助言は、仲穎が王渙を断罪した際につぶやいた「甘さを捨てる」という個人的な決意に、「組織を、そして天下を率いるための絶対の正当性」という巨大な大義名分を与えた。


「――深く、胸に刻みます」

仲穎は、再び静かに頭を下げた。


のちに彼が洛陽へと上り、天下の覇権を握った際、朝廷の因習を次々と破壊し、血の粛清をもって冷徹な政治判断を下すことになる、その思想の根幹が、この涼州の荒野の天幕のなかで完全に形成された瞬間であった。

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