第四十八回
臨洮の街にある喧騒に満ちた酒場では、ガルが戦友たちと酌み交わす杯の音が響いていた。
さきの大死闘を生き延びた男たちの笑い声が飛び交う中、入り口近くの席にいたガルは、ふと開け放たれた扉から夜空を見上げ、杯を止めた。
「……おい、あれを見ろ」
ガルの視線の先、王渙の屋敷がある方角から、不自然な黒い煙が立ち上っていた。夜風に乗ってこちらへと近づいてくるその煙は、ただの火事のそれとは明らかに違っていた。松明の油が大量に燃える匂いが、酒場の酒の香りを切り裂くように漂ってくる。
ガルは席を立ち、酒場の外へと歩み出た。
目を凝らし、月光の届かぬ建物の影を睨みつける。
(なんだ、あいつらは……)
ガルの鋭い野生の目が、夜陰に紛れて音もなく移動する一団の姿を捉えた。
黒い夜着に身を包んだ男たち。一糸乱れぬ統率された足取りと、衣服の隙間から時折のぞく、鈍く光る手慣れた武器。それは地元の小悪党などではなく、都で高度な訓練を積んだ手練れの集団そのものだった。
そして何より、その刺客の一団が目指して突き進んでいる先は――仲穎の邸の方角だった。
「チッ、ただの夜更かしじゃねえな」
ガルはすぐに戦士の顔つきに戻ると、酒場の裏手に繋いでいた愛馬ザルマの元へと激しく駆け寄った。
まだ戦いの疲れは残っていたが、相棒の赤毛の手綱をづなを一気に引き絞る。
「行くぞ、ザルマ! 仲穎のところに不穏な奴らが向かってやがる!」
ガルはザルマの背にひらりと飛び乗ると、鋭く脇腹を蹴った。
蹄の音を夜の街に轟かせながら、ガルは刺客たちの先回りをすべく、疾風のごとく馬を走らせ始めた。




