第二十八回
数ヶ月の星霜が静かに流れ、臨洮の邸を取り巻く空気は、それぞれの実直なる日々の営みによって、盤石な落ち着きを見せ始めていた。
ある日の夕暮れ前、下級武官としての見回りを終えた仲穎は、郡城の太守邸の奥へと召しだされていた。
対面した隴西太守・王奐は、白髪交じりの髭を蓄えたその穏やかな顔に、深い憂いと慈愛を滲ませて仲穎を見つめていた。王奐にとって、最愛の師や家族を失いながらも、一言の泣き言も漏らさず、治安維持の任務に黙々と命を賭して励むこの若き主の姿は、不憫であり、同時に頼もしくもあった。
「仲穎。お前が日夜、臨洮の境界を護るために泥に塗れて働いていること、この老骨、深く感じ入っている」
王奐は静かに茶を啜り、言葉を続けた。
「先の匈奴の急襲により、この隴西の地では多くの者が家を、家族を失った。我が配下にあった、ある地方豪族の家もまた然りだ。兵を率いて果敢に戦いし主とその妻は討ち死にし、いまや一人娘だけが、身寄りもなく残されている」
仲穎は何も言わず、ただ太守の言葉を深く聞き届けるように佇まいを正していた。
「私はその娘の不憫さを思い、我が養女として太守邸に迎え入れた。気立ての佳い、芯の通った娘だ。……仲穎、お前が良やリアと共に董の家を必死に支えていることは知っている。されど、一族の未来を繋ぐためには、新しき血、新しき家族が必要だ。どうだ、我が養女となったその娘を、董の家に迎え入れる気はないか」
王奐の口から語られたのは、第二の父としての、深い情愛に満ちていながらも、一人の成人した男に対する、厳かなる縁談の申し出であった。
同じ痛みを抱え、同じ血煙の夜を生き延びた地方豪族の娘。彼女の存在こそが、沈滞していた董の一族に、新たなる生の息吹をもたらす前兆に他ならなかった。
郡城からの帰り道、夕闇の官道を往く仲穎の背には、いつもの戦塵とは異なる、一族の未来という目に見えぬ重みが静かに、しかし温長く伸しかかっていた。




