第十二回
渓谷での凄まじき戦いから帰宅したその夜、董家の邸の中庭は、昼間の熱気を残したまま静まり返っていた。
14歳の仲穎と、その背中にぴったりと従う12歳の董旻の兄弟は、夜風が吹き抜ける中庭の石床に、揃って端座していた。二人の視線の先には、愛用の曲刀を傍らに置き、楡の木の幹に背を預けて静かに佇むアランの姿がある。その隣では、16歳となったリアが、姉の片言の言葉を補うように、美しい亜麻色の髪を揺らして静かに控えていた。
アランは、月光に照らされた兄弟の引き締まった背中を、静かに見つめていた。
彼女の口元に、普段の厳しい武人のものとは違う、どこか不器用で温かい微かな笑みが浮かぶ。アランはたどたどしい片言の漢語で、しかし確かな慈愛を込めて二人を促した。
「頭、アゲテ。オマエタチ、あの日から、ワタシの、家族。……弓、刀、全部、教える。ダケド、稽古、とても、痛いよ?」
すかさずリアが、いつもの瑞々しいお姉さんの口調で、姉の真意を滑らかに通訳して二人に伝えた。
「姉様ね、『董家の客将として、主の息子たちに我が西域のすべての技を伝授することは、何よりの誉れである。明日から中庭での鍛錬だけでなく、いざ野盗が出れば、私が何度も自警団の活動に同行し、実戦の風の中でその身に神技を叩き込んであげる』って言っているよ。阿卓、旻、覚悟しておきなさいね」
仲穎は顔を上げ、リアの通訳を介して、目の前のアランの瞳を真っ直ぐに見つめ返した。少年は鈴の音のように澄んだ声で、生真面目に、しかし魂の底からの覚悟を込めて師へと深く一礼を捧げた。
「はい。たとえどれほどの痛みが伴おうとも、決して挫けぬことを天に誓います。師匠、どうぞよろしくお願いいたします」
アランを「師匠」と仰いだ少年の引き締まった声に、異国の女戦士は満足そうに深く一度だけ頷いた。
言葉の壁を越え、漢の少年の至誠と、西域の誇り高き女戦士の武勇が、ここに真の師弟の契りとして結ばれた。
中庭を吹き抜ける涼やかな夜風は、やがて始まる過酷な鍛錬の日々と、戦場を幾度も共に駆け抜けることになる二人の、熱き野生の目覚めを静かに祝福しているかのようであった。




