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第十回

14歳となった仲穎ちゅうえいの初陣は、臨洮りんとうの西外れに位置する、切り立った岩肌の続く街道であった。


「野盗が出たぞ!」との急報を受け、地元の有力者が募る自警団の一員として、仲穎は愛馬を駆って現場へと急行した。その手には、かつて客将アランから託され、日々の過酷な鍛錬によって自らの肉体へと馴染ませた、あの名弓『骨喰』が握られている。彼の背後には、大柄な肉体に、この本格的な実戦の場にのみ携える重厚な大盾を背負った14歳のりょうが、影の如く従っていた。


「逃がすな! 包囲を縮めよ!」

団長たちの鋭い怒号が飛び交う。街道の先からは、民から略奪した米俵を馬に積んで逃走する、数人の野盗たちの姿が砂塵の向こうに見えた。


(今こそ、父上の教えである正義を果たす時だ)


仲穎の武芸のセンスは、この初陣の混沌においても遺憾なく発揮された。激しく上下に揺れる馬上でありながら、彼は驚くべき均衡感覚で標的の動線を完璧に捉え、西域の強弓の強固な弦を一気に引き絞った。


――ヒュンッ!

放たれた最初の一矢は、凄まじい風切り音を立てて絶妙な軌道を描き、逃走する野盗の一人の肩を正確に深く射抜いた。並の若者であれば放つことすらできぬ強弓を、初陣の馬上で命中させたその才覚は、周囲の自警団の面々を瞠目させるに十分であった。


しかし、実戦の泥臭き現場は、一筋縄ではいかなかった。


「ひるむな! 矢を放ち返せ! 散らばって逃げろ!」

負傷した身内を見捨て、残る野盗どもが左右の岩陰へと不規則に散らばり、激しい速度で馬の腹を蹴る。


仲穎はすぐさま次の一矢をつがえようとした。しかし、ここで漢の弓術が持つ伝統的な射法の壁が、天性のセンスを持つ彼を阻んだ。漢の弓術は、正確無比な一撃を重んじるがゆえに、矢をつがえてから放つまでの一連の動作が、馬上の混戦においてどうしても一手遅れる。左右に激しく散る複数の敵に対し、二の矢、三の矢を間髪入れずに叩き込む連射の手数が足りないのだ。


仲穎の鋭い才覚は、次なる標的の動きを完全に予測していた。しかし、その弓術の限界ゆえに、僅かに射出す一瞬の隙が生じ、悪党どもは涼州の複雑な岩陰の彼方へと、完全に姿を消してしまった。


自警団としての初陣は、あまりにも手痛い任務の失敗に終わった。


邸に戻った仲穎は、中庭の片隅で、自らの強弓を握りしめたまま、静かに俯いていた。己の肉体には並の大人を凌ぐほどの強固な器があり、武芸の感覚も確かに掴んでいた。だからこそ、一矢を放った後の「射法の壁」によって治安の敵を取り逃がし、職務を全うできなかった己の未熟さが、生真面目な少年の胸を深く抉っていた。


「……阿卓」

背後から、心配そうに声をかけるリアの足音のが響く。


その隣には、12歳になった董旻とうびんが、兄の背中に滲む悔しさをその瑞々しい感受性で敏感に察し、静かに佇んでいた。良もまた、大盾を傍らに置き、主の無念を分かち合うように無言で頭を垂れている。


漢の正しき射法だけでは、国境の荒ぶる野生の群れをすべて射落とし、民を護る任務を完遂することはできない。

この苦い壁に激突した経験から、仲穎は自らの内に眠る武人の本能を頼りに、馬上での圧倒的な速射と連射を可能にする、まだ見ぬ未知なる射法の必要性を、ただ漠然と渇望し始めていた。

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