覚悟のサイン
「わぁ、このドレスもとても似合うわね、スカーレット!」
リースが嬉しそうに褒めてくれた。
型落ちなのか安いレンタル料だった淡いパープルのドレスに決めたけど、これにして良かったみたいだ。
「さぁさっそく行くわよ!」
まるで戦場に行く兵士みたいだ。気合いの入ったリースを見て私はそう感じた。
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「やぁ、来てくれてありがとう。お友達も来てくれたんだね。さっそく楽しもう。」
会場に入るなりリースを招待したという人間男性が声をかけてきた。…優しそうな人だなぁ。
私達のようなパーティに不慣れな精霊はダンスを踊らない。というか踊れない。私はシャンパンを飲みながらダンスをする人間達をぼーっと見ていた。
「美しいウンディーネ、良かったら私とダンスを…。」
「すみません、私踊れなくて…。」
「やぁウンディーネ、良かったら向こうでお話しないかい?」
しまった、あっという間に囲まれてしまった。
どうやってこの場を切り抜けよう。そんな事を考えていると後ろから声がかかった。
「失礼。彼女にビジネスの話があってね。」
ヨハイルが不機嫌そうな顔で入ってくる。
ビジネスの話と聞いて引かない訳にはいかない。囲んでいた男性達は渋々身を引いた。
「マードレッド卿…!助かりましたわ…!」
「…君はどこにいても注目の的だな。本当に…妬いてしまうよ。」
「あら?貴方の物でも無いのに何故妬いてしまうのかしら。」
マリアの不機嫌そうな声を聞いてヨハイルは縮こまる。
「いやいや冗談だ!今日は君にビジネスの話をしに来たんだ。その、以前話していたうちでのメイドの件だが…「ヨハイルから聞いたわ。貴方うちのメイドになりたいと彼に言ったみたいね。」」
しどろもどろで話すヨハイルを遮ってマリアが強い口調で話し始めた。
「悪いけどマードレッド家は優秀な人材しか雇わないの。貴方のような低レベルな精霊なんて話にならないわ。」
…そうかしら。街でマードレッド家のメイドを見かけたことあるけどあまり質が良いとは言えない人も居たけど。
「確かに私は働いた事がありません!だけどマードレッド家で働くのが私の夢なんです!あの憧れのマードレッド家に!!一生懸命頑張るので私をメイドにしていただけませんか…?」
「貴方がマードレッド家を高く評価しているのは褒めてあげましょう。だけど貴方、そもそもセンスが無いんじゃない?そんな型落ちのドレスを着てきて。私なら恥ずかしくて来れないわ。」
しまった。値段で決めたのが仇になったわ。
「マードレッド家で働きながら洋服の勉強をします!だから…「ダメだよぉ、レディ。マードレッド家はダメだよぉ。」」
3人一斉に声がした方を向く。酔っているのか少し赤い顔をした老紳士が立っていた。
「あら、スチュアート卿ごきげんよう。今私達は大事なビジネスのお話をしているので…「マードレッド家はね、人間しか雇わないよ!センスが無いとかどうとか言ってるけど、結局君が精霊だからダメなんだ。」」
スチュアート卿と呼ばれた男性はお構い無しに話し続ける。
「ちょっとスチュアート卿?失礼な事言わないで。」
「だって君、精霊嫌いだろ?うちの精霊メイドにも冷たいじゃないか。マードレッド家はまるで人間至上主義者だと噂されてるぞ。」
ヨハイルとマリアは顔を真っ青にした。
「なんてことを!!うちはたまたま人間しか雇ってないだけですわ!」
「だってノームでさえも雇わないじゃないか。こんな素敵なレディだって精霊だから断るんだろう?マードレッド家を絶賛しているのに、君は精霊だからって理由で断るんだろう?」
「失礼ね!彼女は雇いますわ!!」
えっ、と私とヨハイルはマリアの顔を見た。
「そこまで言うなら雇うわ。マードレッド家は人間至上主義ではないからね。」
マリアの言葉にスチュアート卿は笑いだした。
「おお!マードレッド家初の精霊メイドの誕生だ!これは明日、ニュースになるんじゃないか?」
笑いながら歩いていくスチュアート卿を見ながらマリアは呟いた。
「…スチュアート…うちのお得意様じゃなければ引っぱたいていたわ。…貴方、覚えておきなさい。嫌という程こき使ってやるから。」
私にしか聞こえない声で言いながら睨むと当たり散らしながら歩いて行った。
「後ほど君に手紙を送ろう。マリア!マリア待ってくれ!!」
ヨハイルは慌ててマリアの後をついて行った。
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「本当だったのね!貴方がマードレッド家のメイドになったのは!!」
後日。届いた手紙を手にリースが走ってきた。
「ほら、マードレッド家から手紙よ。…ねぇ本当に良いの?」
リースが言いたいことはわかる。私も復讐がなければあんな男に近づかないわ。
「ええ、マードレッド家で働きながらマードレッド商会の商品を買うのよ。素敵じゃない?」
「そうね…だけど…あのマードレッド家よ?寮母達も心配していたわ。」
「大丈夫よ、今は精霊に優しい世界になったって皆言ってたじゃない。精霊保護にも厳しくなったし。いくら夫人が精霊嫌いでも表立った嫌がらせはできないわ。」
リースは渋々納得したがまだ文句を言っていた。大丈夫。あいつさえ殺せれば私はどうなったっていいんだから。
手紙を読んでいたらリースの他に心配した寮母や先生達に囲まれていた。
皆心配してくれたけど、大丈夫、ありがとうと言って手紙に入っていた契約書にサインをした。
お姉様、待っていてね。私が必ず仇を打ってあげるから。
契約書を入れた封筒を蝋で封をしながら私は静かに姉に語りかけた。




