復讐への手立て
「ねぇ見てスカーレット!このピンクのドレス貴方にとても似合いそうよ!あぁ、でもウンディーネらしく水色ってのも良いわね!」
リースは寮に帰ってくるなりカタログを広げた。
「このドレスならアクセサリーはこれが……ねぇスカーレット?聞いてる?」
リースの言葉にハッと我に返る。
「本当にマードレッド商会に興味あるの?あまり興味無さそうに見えるけど……。」
「着ている自分を想像してたのよ!このドレスにこれを合わせようと思って!」
焦った私は適当にカタログを指さした。
「なるほど……随分大きいリボンね。スカーレットは意外と乙女チックな物が好きなのね。」
しまった。私に似合いそうにないレースの付いた大きいリボンを指さしてしまった。
「だ……だけど随分高いわね!ドレスだけでも高いのにアクセサリーなんかも合わせたら大変なことになるわ!」
慌てて話題を変える。
「そうよねぇ、それが悩みなのよ。人間の女の子達は親とか婚約者に買ってもらうんだって。私達も早く婚約者を見つけないと……そうしたらこのネックレスも買ってもらって……。」
リースはカタログとにらめっこしながらブツブツつぶやき始めた。
……あの男が商会の主人と聞いて、なら顧客になれば近付けると思った。甘かったわ。顧客になれる程お金が無いもの。
「困ったわ…どうすれば良いのかしら。今の私にはこのハンカチ一枚買うのもやっとだわ。」
私の呟きに大丈夫よ!とリースは力いっぱい答えた。
「今すぐには買えないけど来年私達はこの学校を卒業でしょ?そしたら人間社会で働くのよ!贅沢は出来ないけどちょっとずつ貯めたお金で買えば良いのよ!」
そうだ。私達は来年卒業する。婚約者が決まらない私達は就職先とやらを探さなくてはいけないのだ。
「リースはもう決まったの?」
「ちゃんとではないけどある程度は。人間と精霊を繋ぐ仲介人になろうかなと。色んな人間達に会えるし、お給料も高いしね。」
なるほど。賢いリースにはピッタリの仕事だ。
「スカーレットもある程度は決まってるんでしょ?」
「えぇ、教会で働こうかなと。仕える神様は違うけど居心地が良いのよ。」
「えっ教会なんてお給料低いじゃない。いや、お給料で決めちゃいけないとは思うけどさ……。」
そこまでお給料に対して考えてはいなかったけどマードレッド商会のカタログを見て悩み始めた。
教会のお給料だとドレス1着買うのに1年はかかりそうだ。
「……もう1回よく考えてみるわ。」
********
翌朝。掃除などやる事を終えた私はいつものように姉が消えた湖に来ていた。
「お姉様見て、美味しそうでしょ?」
寮母からいただいた果物を籠に入れてきたのだ。
私は数個取り出すと湖のほとりに置いた。
…魂の無いウンディーネは死んだら消えてしまう。こうして毎日来てもここには姉は居ないのだ。だけどどうしても私は毎日ここに来てしまう。
「あら、雨?お姉様ごめんね、また来るからね。」
居るはずの無い姉に声をかける。と、その時だった。
「大変!雨よ!早く洗濯物をしまわないと!」
「ダメよ!まだ買い物が終わってないじゃない!家にエリーがいるから大丈夫よ。」
「何言ってるの!エリーは風邪で寝てるじゃない!私達がしまわないと!」
そうだったわとメイド服姿の女性二人が慌てて走って行った。
メイドさんかぁ…大変だなぁ。
リースは貴族の家のメイドに憧れていたが、人間の世話をしなくてはいけないと聞いて即就職先候補から消していたのを思い出した。
……そうだわ!マードレッド伯爵家のメイドになることが出来ればヨハイルに近付くことが出来る!
私は急いで帰りリースに聞いてみることにした。
「え?マードレッド家のメイド?」
お菓子を食べながら本を読んでいたリースに聞いてみる。案の定、リースは良い顔をしなかった。
「確かに貴族のメイドは良い案だと思うけど……なんでよりによってマードレッド家なのよ?」
「ほら、商会の商品の情報がいち早く手に入りそうじゃない?マードレッド家の人達だって、自分達が支払う給料を自分達の商品に使ってもらうのは悪い気がしないだろうし。」
「うんうん、スカーレットが言いたい事はよくわかるわ。だけどねぇ…前にも言ったけど、マードレッド家は評判が悪いからねぇ。」
「……やっぱり主人が原因?」
「あの人、本当に綺麗な人に弱いのよ。特に精霊に対してね。もちろん精霊に優しくしてくれればいいんだけど、昔精霊といろいろあったみたいなのよ。」
――お姉様のことかしら…。
「それってどんなこと?」
「うーん、詳しくは分からないんだけど、一方的に捨てたのかしら。酷い扱いをしたって聞いたわ。ちょうどその時今の伯爵夫人であるマリア夫人と知り合ったから、噂では子爵から伯爵になる為に精霊を捨ててマリア夫人と結婚したって……ちょっとスカーレット大丈夫!?顔が真っ青よ!!」
「えぇ……大丈夫よ、思った以上に精霊の扱いが酷くて……。」
「それに、マリア夫人も精霊に対して良い噂を聞かないのよ。表立ったトラブルは聞かないけど、家の使用人は全て人間だし顧客もほとんどが人間相手よ。……そんな所で本当に働きたい?」
「……少し考えるわ。」
その方がいいわ、とリースは私を部屋まで送ってくれた。
……そうか、そうだったのか。やっぱり姉が消えてしまったのは事故では無かったんだわ。
伯爵家に入るのに邪魔だったからお姉様を…消したのね。
その夜私は怒りと悔しさで涙が止まらなかった――。




