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精霊物語~姉を消し去った男に死の復讐を~  作者: 月雫


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ウンディーネの宿命


「さぁ!起きてスカーレット!朝ごはんの前に掃除があるんだから!」

リースの大きな声で起きる。

寮では自分の事は自分でしなくてはならない。

掃除・洗濯・食事。精霊である私達には特に必要のないことだけど、人間社会に出ると決めた精霊達にとっては必要不可欠な事なのだ。

「掃除はわかるけど、洗濯や食事なんて面倒なだけだわ。人間って面倒くさいのね。」

「人間は私達と違って裸でいる訳にはいかないからね。もちろん人間社会に出た私達もだけど。そうなるとサラマンダーは良いわね。いつも裸だわ。」

釜戸の精霊でもあるサラマンダーは人間社会に出ると主に鍛冶場の釜戸で生活する。洗濯どころか掃除もしなくて良いのだ。

「あぁ、この一瞬だけでもサラマンダーになりたいわ。」

私はボヤきながら廊下をホウキで掃き続けた。


********

「ふふ、今日は新しい洋服を買いに行くわよ。知ってるスカーレット?今の人間達の流行は淡いラベンダー色なんですって。」

リースに手を引かれ街を歩く。街は人間達で賑わっていた。

精霊である私達はとても目を引く容姿だ。

男性も女性も人間の平均身長より高いだけでなく、老いを知らない身体はいつまでも美しさを保っているのだ。

私達を見て鼻の下を伸ばした人間男性に、同じく人間の彼女が平手打ちをした。リースはその光景を見て優越感に浸っていた。

人間達は精霊達をとても魅了的に感じるらしい。


人間社会に出てもう1つわかった事がある。

精霊達と人間達の関係性だ。

鍛冶場の主人であった人間の男性が、死んでしまったサラマンダーを泣きながら庭に埋めていたのだ。

主人の家族であろう子供達も皆、サラマンダーの亡骸に涙していた。

火の精霊であるサラマンダーは他に沢山いる。だけどこの人間達は、この死んでしまったサラマンダーの死を悲しみ、涙していたのだ。

奴隷制度が撤廃されたとはいえ、精霊達は肩身の狭い暮らしをしていると思い込んでいた私はかなりの衝撃を受けた。


「ねぇ、あのネックレス素敵じゃない?あ!高いわ!」

リースがショーウィンドウ越しに騒いでるのを尻目に、ふと道の脇に止まった馬車が目に付いた。

馬車から初老の人間の男性が出てくると、彼の手を引きながら女性も出てきた。

白く透き通る肌に背の高い美しい女性。すぐにわかる。私と同じウンディーネだ。

きっと彼女も人間の男性と同じ年月を過ごしたのだろう。だけど彼は老い、彼女は老いない。

だけど彼も彼女もとても幸せそうに手を繋ぎながら街へと消えていった。


……同じ精霊でもこんなに大切にされてる者達もいるんだ。どうしてお姉様は。……お姉様が消えた時、あの男は涙を流したのだろうか。

「スカーレット?大丈夫?」

黙り込んだ私を心配してリースが覗き込んできた。

「慣れない人混みは疲れちゃうよね。少しお茶しようか?」

私が人酔いしたと思ったのだろう。リースは私の手を引くと近くにあったオシャレなカフェへと入っていった。


「この苺?でしたっけ?の乗ったケーキと紅茶をいただくわ。スカーレットはどうする?」

「私は紅茶だけいただくわ。」

特に飲みたくも無かったけれど店に入った手前頼まない訳には行かず紅茶を頼んだ。

「スカーレットは本当に食事に興味が無いのね。」

「リースだって特に食欲が無いはずよ?なのにどうしてケーキを頼むの?」

「決まってるじゃない、ケーキを食べる私が素敵だからよ。」

良く分からない事を言っているけど、自由奔放なシルフらしい返答に私は頷いた。

「紅茶にはお砂糖とミルクを入れるのよね?音を出して飲んではダメなのよね。」

リースは紅茶に向かってブツブツ言いながら飲み始めた。


「人間のルールって、結構大変よね。」

「そうね、でも私は立派な人間の男と結婚するのよ!そのために妥協はしないわ!」

リースは運ばれたケーキをうっとりしながら食べている。うっとりしているのはケーキの味ではない。ティーカップに写った自分にだ。

「……水の精霊のルールも大変なの。」

私が話し始めるとリースはフォークを置いて聴き始めた。

「水の精霊はね、風の精霊と同じく人間の男と結婚したら魂が手に入る。だけどね、水の精霊は……水辺で人間の男に罵倒されると水に帰らなくちゃいけないの。水に帰る……無に還るのよ。罵倒されたぐらいでどうして……!愛が無くなったと判断されるのよ!」

「ねぇ、スカーレット、もしかして貴方は、人間の男からの愛を失って無に還るのが怖いの?」

「怖い!?そんな事無いわ!私はただ……!!」

お姉様の復讐を、と口走りそうになり急いで口を噤んだ。

「そうよね、無に還るって怖いわよね。私もそれが怖くて人間の男と結婚するんだから。」

私のだんまりを肯定だと思ったのだろう。

「大丈夫よ、スカーレット、貴方は悔しいけど流石水の精霊だけあって私より美しいんだから人間の男性を一生虜にできるわ。もちろん私も美しいけどね。」

……ミルアお姉様もとても美しかった。だけど何故あの男は罵倒したの?事故だったの?

「あのね、私このパーティの招待状を貰ったの。このパーティは上流の人間達……そう、貴族とかいう人達が集まるのよ。もちろん精霊達も上流ばっかりだけど、私達も負けてられないわ!ねぇ、スカーレットも行きましょう?」

貴族?聞いた事がある。

そうだ、お姉様を消し去ったあの男も確か…貴族だった。周りのウンディーネ達が羨ましいと騒いでいたから覚えてる。

「ありがとうリース。行きたいわ。私ね、会いたい人間の男が居るのよ。」

「えっ!そうなの!?嫌だわスカーレットってば。人間嫌いかと思えば気になる男性が居たなんて!」

「…うん、1日たりとも忘れた事はなかったわ…。貴族の男なんだけど会えるかしら。」

「貴族の人間、お金持ちになりたい貴方にピッタリね!会えるといいわね!会えるように精霊王にお願いしてこよう。」

名前と顔しか分からない……。世間知らずの私では調べる術が無かったのだ。

姉が消えてから一切関わりの無くなった男……。

私は絶対に許さない。私の命に変えても姉の仇を絶対にうつ。



アンゼルセンの人魚姫の”失恋したら泡になる”というストーリーは、ウンディーネの悲しい運命から作られたと言われています(*^^*)

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