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精霊物語~姉を消し去った男に死の復讐を~  作者: 月雫


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精霊国と人間国


【グリムドール】

精霊が住む小さい国。人間達の住む国とは比べ物にならない大きさだけど、その豊かな資源は人間達を魅了し幾度となく争いをしてきた。

長く続く争いに両者共に疲弊してきたころ、人間国で一番力を持つと言われた大帝国の王様が、和平交渉に乗り出したのだ。

勝手に侵略してきて何が和平交渉だ、と怒る我が国の精霊達も多かったが、長き戦争に疲弊してきたのも事実。

また、王様は豊かな資源の一部と精霊達の加護を引き換えに精霊国の保護を申し出たのだ。

これ以上の戦争に耐えられない精霊国は、不満を抱えながらも交渉へとサインしたのであった。


「……こうして精霊国は豊かな資源の一部・精霊力と引き換えに国の安全を手に入れたのです。」

歴史の先生であるマーズ先生が黒板を指さしながら言う。私は教科書に落書きをしていた手を止めため息をついた。

「いつ聞いてもおかしいわ。侵略した国が和平交渉だなんて。善人ぶった悪人じゃないの。」

「確かに当時の和平交渉は精霊国の中で荒れに荒れまくったわ。だけど私達の国を狙っていた人間国は大帝国以外にも沢山あったから、どうしようもなかったのです。大帝国と和平を組まなかったら、もしかしたら私達は違う人間国の奴隷になっていたかもしれないのですよ?」

「そうよ、スカーレット。人間達は精霊達にとても良くしてくれてるじゃない。…まぁ人間至上主義である最悪なカルト教もあるけどね。」

マーズ先生の言葉に、優等生のシルフであるリースが口を挟んだ。


人間至上主義……人間こそが一番と暴力と恐怖で訴える恐ろしい集団だ。

今でこそ大人しくなったが、昔は精霊や獣人など他の種族を迫害し奴隷として扱っていたそうだ。

事態を重く見た王様が正義の鉄槌と称し、人間至上主義者を片っ端から捉え処刑していったのだ。

今では大々的に活動するものは居らず、身内での食事の席で人間こそが一番と話してるだけだという。


「俺たちノームが裕福になったのも人間達のおかげでもある。人間達は俺たちの鉱脈を見つける能力を最大限に活かし国を大きくしてくれた。サラマンダーも人間のおかげで裕福になったよな?」

トカゲの姿をしているサラマンダーは肯定の意を表すようにチロチロと舌を出した。

「そうですね、人間達のおかげで我が国の近代化は進みましたね。」

マーズ先生は笑顔で頷いた。

「土の精霊、火の精霊は人間達の大事な仕事のパートナーだからね。私のような風の精霊は仕事のパートナーにはなれないけど人生のパートナーにはなれるわ。ねぇ、水の精霊であるスカーレットもそうでしょ?私達、人間の男と結婚したら魂が手に入るのよ!」

リースが嬉しそうに私の手を握る。香水でもつけているのかフワッと良い香りが鼻を掠めた。

「……そうね。」

「……ねぇずっと思っていたけどスカーレットは人間が嫌いなの?人間社会に出たくない?ならどうしてわざわざ帝国に来てこの学校へと入学したわけ?」

リースの鋭い問に私はドキリとした。

まさか復讐のために人間社会に馴染もうとしているなんて言えないわ。

「人間は確かに好きではないわ。だけど人間社会に出たいのよ!お金持ちになるためよ!」

人間が好き、なんて薄っぺらい嘘はこの賢いシルフ娘にはすぐバレてしまうだろう。

なのでそこは誤魔化さず目的を誤魔化した。

「お金持ち?どうして?精霊は食べる物に困らないし、ウンディーネ達は地味……失礼、お洒落にもそこまで拘らないじゃない?お金なんて何に使うの?」

流石に賢いだけあるわ。

「あら、私達ウンディーネも近代化してお洒落にも興味を持ち始めたのよ?シルフ程お洒落ではないけど、まだ学校に行く事が出来ない幼いウンディーネ達にも何か買ってあげようかと思って。」

「あら!故郷のウンディーネ達に?それは素敵ね!私も故郷のシルフ達に何か買ってあげようかしら。私の故郷は凄い崖があるところなのよ。いつもシルフ達が激しい風を纏いながら……「こら!貴方達いい加減にしなさい!」」

私達の長いおしゃべりについにマーズ先生の雷が落ちたのだった。


*******

「……夕食前には帰ります。」

私は寮母にそう告げるとランタンと花を持ってまた暗い森へと歩いて行った。

「気をつけるんだよ。……あぁ、毎日心配だ。精霊は狼には狙われないけど悪い人間には狙われる。ウンディーネは美しい精霊だ。捉えられて奴隷にでもされたら……。」

「大丈夫ですよ。もう他種族奴隷撤廃法が出来たではありませんか。」

寮母の呟きにマーズ先生は優しく答えた。

「わかってるさ。だけど違法なハンターだっているだろう?それに…あいつら――人間至上主義者共が森に居たらどうする?」

「大丈夫ですよ。あのランタンには加護の力があります。人間達が集団で襲わない限りスカーレットには傷一つ付きませんよ。」

「もし集団で襲ってきたら……!!」

「心配する気持ちはとても良く分かりますが、今や精霊達は人間国の最保護対象ですよ。故意に傷をつけたら即、首が無くなるんです。人間達も簡単には手出が出来ませんよ。」

「あぁ、そうだね。わかっているが特にあの子には肩入れしてしまってね。……今日も姉が消えてしまった湖に行くんだ。可哀想で見てられないよ。」

「そうですね……スカーレットには幸せになって貰いたいですね…。消えてしまったミルアの分も。あぁ、どうして水の精霊は哀しい運命を持っているのでしょう……。」

マーズ先生の哀しい嘆きに寮母は顔を背けたのだった。



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