プロローグ
白糸のような雨が降りしきる中、暗い森の中で列になって歩く人間達とすれ違った。
…森の奥にある教会に向かっているのだろう。
黒い洋服を着てすすり泣く集団が葬儀の列という事ぐらいは、人間社会に疎いスカーレットでも流石に理解が出来た。
「…あぁ、雨足が強くなったわ。あの子が泣いているのかしら…。」
黒いベールを被った女性が灰色の空を見上げ言うと泣き出した。
あぁ…人間は良いな。
亡くなってもまだ、悲しいという感情が残っているのか。
…教会に行って神様の元へ帰れるのか。
――私達ウンディーネは消えてしまったら何も残らないのに。
私は顔を上げると集団とは逆の方向へと走り出した。
*********
「ねぇ、お姉様は本当に結婚してしまうの?」
私達ウンディーネの憩いの場である湖のほとりで花冠を作りながら、水浴びをしているミルアへ私は聞いた。
「えぇ、そうよ。」
「相手の人間はどんな人なの?ノームのように鉱脈を掘り当てる能力はあるの?それともサラマンダーのように鍛治が得意なのかしら?シルフのように自由な人はちょっと嫌だわ。」
私が嫌そうに言うと周りにいたウンディーネ達が笑いだした。
「はは、本当にスカーレットは人間に疎いんだね。私達のような精霊の事しか知らないのね。人間はそれ以外の素晴らしい能力を沢山持ってるのよ。」
「例えばどんな?」
「駅のところで美しい吟遊詩人を見かけたよ。彼の奏でる言葉はまるで素晴らしい音楽だわ。」
「あら、音楽なら私達ウンディーネの方が上手だわ。」
私が拗ねた顔でつぶやくとまた周りのウンディーネ達は笑いだした。
「本当にスカーレットは。貴方の大事なミルアが人間の男に取られるのが本当に嫌なのね。」
「だって、結婚なんてしなくても私達は幸せでしょう?人間と違って食べるものにも困らないし、老いることは無いわ。」
「そうね、スカーレット。だけど私達は、魂が無い。」
ミルアの言葉にスカーレットは返答に困ってしまう。
「だけど……。」
「人間の男性と結婚すれば私達ウンディーネは魂を持つの。死んだら神様の元へ行けるのよ。」
「わかってるわ。でも……。」
私達の話を聞いていた周りのウンディーネが呆れたように口を挟んだ。
「全く、魂を望まないなんてスカーレットぐらいよ。私達ウンディーネは人間の男と結婚して魂を得るのが夢なんだから。」
「えぇ、魂の無いウンディーネは死んだら消えてしまうもの……。」
「大丈夫よ、スカーレット。ミルアは別に魂だけを目的に結婚を決めたわけじゃないもの。この間街で見かけたけど、相手の男性、素敵だったわ。」
その言葉を聞いたミルアの赤い顔を見て私は渋々納得した。
*****
それなのに、どうして――?
どうしてお姉様は魂を手に入れられずに無に還ってしまったの?
お姉様が消え去ってしまった湖につくと私はしゃがみ込んだ。もうお姉様は何処にもいない。この世界にも。神様の元にも。
「あの男のせいよ。あの男があの日、お姉様を川の近くで罵倒しなければ!」
力いっぱい唇を噛み締めたせいで、血が滲んでしまった。
「お姉様に会いたい…。もう一度お姉様に会いたい……。」
叶うはずもない願望を力なく呟いていた私は静かに立ち上がった。
あの男に出会わなければお姉様は無にならなかった。
あの男は知っていたはず。水の精霊にとっての禁忌を。
――許さない。私は必ず、あの男に復讐する。
私は復讐を違うと、お姉様が大好きだった花を静かに湖へと流し入れた―。




