復讐は計画的に
――トン、トン。
カリスが言った通り他の使用人が皆居なくなった頃、私の部屋のドアが叩かれた。
「どうぞ入って。」
「やっぱり君の部屋は衝立が悪いから寒いね。身体が温まるからホットミルクを用意したよ。」
カリスはそう言って部屋にある小さいテーブルにホットミルクを置いてくれた。…本当に、ヨハイルがカリスを手離したくない理由がわかるわ。
「ありがとう。いただきます。」
蜂蜜が入ってるらしく、ほのかな甘みが嬉しい。
「じゃぁさっそく聞きたいんだけど、ウンディーネのルールでヨハイルを殺すには夫婦関係にならなくちゃいけないんだよね?……どうやって夫婦関係になるつもり?」
「それはもちろん、こうよ!」
私は精一杯胸を寄せて谷間を作る。…つまり誘惑をするという事だ。
「あー…なるほど、確かに君はとても綺麗でヨハイルの好みだ。だけどハッキリ言うよ。そんなんじゃ夫婦関係にはなれない、愛人止まりだね。」
ピシャリと言われて私は恥ずかしくなる。
「そんな!!ヨハイルの愛人なんて絶対嫌だわ!!」
「だろうね。いい?マリアと離婚するという事はマードレッド伯爵からヌーティスト子爵に戻るという事。そのデメリットを背負ってまで君と一緒になりたいと思わせなくてはいけないんだ。」
「でも私……爵位も無いしお金も無い……。」
「だからよく考えるんだ。……ヨハイルはプライドが高い男だ。いくら伯爵になれたとはいえ、マリアに頭が上がらない事には不満を持ってるだろう。」
「そうね、マリアがいるから女性関係も派手に出来ないしね。」
「そうだ!!それだ!!」
「えっどれ?!」
「君と一緒になればヨハイルは女遊びが出来ると釣るんだ。ヨハイルは女遊びが何より好きだ。自由にしていいと言われたら喜んで浮気するだろう。そして浮気したヨハイルを殺すと。」
「だけど浮気をしていけないルールをヨハイルは知ってる筈よ。」
「ヨハイルは精霊嫌いのマリアのおかげで最近精霊と関わっていない。つまり、最近ウンディーネのルールが変わって性に奔放になったのよと言っても信じそうだ。現にパーティにパートナー無しで出入りしてる君を見てウンディーネも変わったなぁと言っていたし。」
確かにパートナー無しでパーティに来るウンディーネって私ぐらいじゃないかしら。
「もちろん女遊びが出来るというのはかなりヨハイルの気持ちを揺るがすとは思うが、決定打とは言えない。よし、ヨハイルのプライドが高いという点を利用しよう。時間はかかるが悪くないと思う。」
カリスは一人で考え込んでブツブツ言っている。
「ちょっとカリス……大丈夫?」
「時間はかかるが良い作戦だと思う。いい?スカーレット、この作戦はバレたら大変だから紙に残すことは出来ない。しっかり頭に入れといて。まぁそこまで大変じゃないから大丈夫だよ。」
私は緊張しながらカリスの顔をジッと見ていた。
*******
「おかえりなさいませ。」
使用人全員でヨハイル達を出迎える。
「遠出したから疲れたわ。これはお土産よ。精霊用は無いけどね。」
マリアが帰ってくるなりこちらを睨みつけながら言った。お土産なんて要らないわ。
「…すまないスカーレット。次は何か買ってやるぞ。」
ヨハイルがマリアに聞こえない声で言う。
私もヨハイルにしか聞こえない声で言った。
「私はお土産なんて要りませんわ。ヨハイル様、貴方のお顔を見るだけで満たされるのですから。」
ヨハイルが感激したような顔でこちらを見た。
「ちょっとヨハイル!何してるの!早く来なさいよ!」
マリアに言われ慌てて走っていく。
‘’いい?スカーレット、ヨハイルはマリアに逆らえなくて自尊心が酷く傷付いている。その自尊心を取り戻してあげるんだ。彼を王様のように扱い、慈愛で満たしてあげるんだ。‘’
カリスから言われた言葉。殴りたくなる衝動を抑えて笑顔を向けるのはかなりキツイけど大丈夫。
私なら出来る、と毎回言い聞かせる。
復讐の為なら、私は天使のように振る舞うわ。
「ヨハイル様、今回のマードレッド商会の新作はどなたが仕入れましたの?」
復讐の為なら、王様のようにも敬う。
「やぁ、スカーレット。私だが何かあったか?」
「まぁ、やっぱりヨハイル様だったのですね!大胆ながら繊細な雰囲気のドレス!とても素敵でしたわ。やっぱりヨハイル様は凄いわ!!」
「そ…そうか?」
ヨハイルは嬉しそうに髭を触る。
「そうですとも!ここだけの話……マリア様はヨハイル様に怒ってばかり。ヨハイル様はこんなに素敵な方なのに…!私だったらヨハイル様にあんな態度を取らないわ。」
「スカーレット……。」
‘’自分と一緒になればどんなに良いかをアピールするんだ。私だったらこうしてあげるのに、爵位やお金では手に入らない物をアピールするんだ。‘’
カリスの作戦を頭に浮かべる。
「マリア様には言わないでくださいね。でもヨハイル様の才能が隠れてしまってるようで見てられなくて…。ヨハイル様はマリア様と結婚してマードレッド商会になりましたが、ヌーティスト商会でも充分素晴らしい商会になりそうでしたね。」
私の言葉にヨハイルは目を丸くした。
‘’最後に、これが1番大事だ。ヨハイル自身に力があると思わせてくれ。ヨハイルはマードレッド商会になるためにしょうがなく婿養子になったんだ。自分自身に力があれば婿養子にならなくても良かったんじゃないか…?そう思わせるんだ。‘’
「スカーレット……君は本当に…よく見えているな。」
「ヨハイル!またそんな精霊と一緒に居たのね!そんな暇があるなら私のドレスを一緒に選んで頂戴!……ヨハイル?」
「あ…あぁ、今行くよ。」
ヨハイルの態度にマリアは不審に思いながらも手を引っ張って行った。
――ヨハイルは単純な男だ。マリアが唆したように、私も唆して操ってみせる。
「本当に…カリスに話してよかった。」
恥ずかしながら私ではこんな作戦浮かばない。カリスの言う通り愛人止まりで失敗していただろう。
――カリス様様だわ。
私は笑うと自分の仕事へと戻って行った。




