救いの光
「じゃぁあとは野菜の皮むきと、掃除もやっといて。」
いつもの買い物を終えたあと、私はまた仕事を押し付けられていた。
腰が痛い…。最近は目眩もするようになり明らかに体調が悪くなっていた。
「1日でも休みが欲しいわ…。卒業した日から毎日働いているのだから…。」
野菜の皮むきをしながらボヤく。
何とか終えて掃除に取り掛かる。
「やっと掃き掃除を終えたわ。あとは水拭き…あっ!」
ふらっと目眩がして倒れそうになった。
「危ない!!」
カリスが私を支えてくれた。
「あ…ありがとう…。」
「君、大丈夫か?凄く体調が悪そうに見えるんだけど。アルタに言って休みを貰おうか。」
「いえ大丈夫です!体調不良なんて言ったらクビにされるかもしれないし…。」
私は慌てて水拭きを始めた。
「…君さ、なんでそんなにマードレッド家にこだわるの?」
カリスの言葉に私はドキッとした。
「君まだ16歳だよね?君みたいな子は他の貴族の家で簡単に雇って貰えるよ。マードレッド家よりずっと良い待遇でね。…なのに何故精霊嫌いのマードレッド家に?」
「それは…私…マードレッド商会の品物が大好きでして…。」
「マードレッド家のメイドだからって品物を貰えるわけじゃないよ?むしろ君には高く売りつけそうだ。……君さ、あの時…俺が前の奥様の話をした時凄い食いついたよね?」
水拭きしていた手が止まる。
「あの奥様…確か君と同じウンディーネだったと聞いている。もしかして君は、その精霊と知り合いか何かだったんじゃ…。」
「そんな事はありません!!」
しまった。こんなの関係ありますって言ってるようなものじゃないか。
「……、俺、2階のあの隅の部屋なんだ。もし何かあったら訪ねてきてもいいし、紙をドアに挟んだりしてもいいからさ。」
カリスはそう言うと仕事に戻った。
……絶対に復讐をバレてはいけない。主人を殺そうとしてるなんてバレたら私が殺されるわ。
私はぼうっとする頭で一生懸命考え込んでいた。
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「あ!すみません!!」
最近、体調不良のせいか簡単な失敗を繰り返すようになった。そして。
「また!いい加減にしなさいよ!」
それと共に手を出される事も多くなった。
外に出る機会があるため顔は叩かれない。だけど身体には叩かれた痣が何個もできていた。
…いつまで続くんだろう。ヨハイルと夫婦になれる日なんて来るのだろうか。疲れきった頭で考える。
……だけどそんな日も長くは続かなかった。
「また失敗したのね!私がメイド長に怒られるんだから!この!」
叩かれる!そう思って身構えた時だった。
「!?」
メイドの振り上げた手をカリスが無表情で抑えていた。
「ちょっと!何するのよ!」
「それはこちらのセリフですよ。何をしているんですか、教育係でもない貴方が。」
「だから、この子が仕事が出来ないからこうやって躾してるのよ!」
「教育係でもないのに?」
メイドは悔しそうに黙り込む。
「…そもそも貴方、スカーレットに随分優しいのね!?関係があるんじゃない!?この子顔だけは良いからね!」
メイドの挑発にカリスが表情1つ変えず黙っている。
「何事ですか!!」
メイドの怒鳴り声にアルタが気付いて飛んできた。
「メイド長!!私はこの子を躾ようとしたのです。そしたらカリスが邪魔を…。」
「躾はアルタ、貴方の仕事であってこのメイドの仕事では無いですよね?アルタがこのメイドに丸投げしたんですか?貴方の職務怠慢という解釈で良いんですかね?」
カリスの言葉にアルタの顔が真っ赤になった。
「ふざけるな!この馬鹿メイドが!勝手なことをしてるんじゃないよ!!」
アルタの平手打ちを喰らいメイドの頬は赤く腫れ上がった。
アルタの後ろにはマリアが立っていた。
主人の前で職務怠慢と言われ怒りが達したのだろう。
「申し訳ございません…。だけどカリスはスカーレットに優しすぎませんか?何かあるんじゃないでしょうか…?」
メイドは泣きながら訴えた。
「確かにカリスのスカーレットへの対応は気になるわね。」
マリアがカリスの方へ詰め寄る。小柄なカリスがさらに小柄に見えた。
「それについてマリア様、貴方に伝えたい事があります。今ここでお話してよろしいでしょうか?」
「…良いわ。貴方が皆の前でどんな弁明をするか聞いてあげる。」
気付いたら他の使用人達が皆集まってきていた。料理長までキッチンから顔を覗かせている。
「マリア様、最近取引に陰りが出ていますよね。あれ、この件が原因なんです。最近マードレッド家の精霊の扱いが酷いと貴族達の間で話題になっているんです。」
「「「!?」」」
皆の顔がいっせいに青くなる。
「貴族達だけじゃない。平民の間でも言われてます。町での買い物の様子を目撃されてるのでしょう。人間のメイドが楽をして精霊のメイドが馬車馬の如く働かされてると酒場のネタになってるみたいですよ。」
マリアがメイド達を睨むとメイド達は震え上がった。
「このままでは人間至上主義と思われてしまいますよ。人間至上主義なんて王族の耳に入ったら取引停止どころか処刑に…「わかった!わかったわ!」」
マリアがうんざりしたようにカリスの言葉を遮った。
「アルタ!!貴方はスカーレットだけじゃなく他のメイドの教育係でもあるのよ!?しっかり教育しなさい!!」
アルタは慌てて返事をした。…今まで見て見ぬふりをしていたマリアは人間至上主義という言葉に綺麗に手のひらを返した。
「…ちなみにスカーレットは休みなく毎日長時間働いてるようです。見てくださいこの痩せた身体。過労死したらそれこそ大変ですよね?人間至上主義と完全に思われ異端審問官が乗り込んできそうだ。」
カリスの言葉はとても強烈だった。…その後私に休みが出来、仕事がかなり楽になったのは言うまでもない。




