第7話「忍び寄る影と、玲奈の過去」
ダンジョンイーター討伐から数日後。
俺たちの周りには、明らかに不穏な空気が漂い始めていた。
下校途中、誰かにつけられているような視線を感じる。
気のせいかと思ったが、それは日に日に強まっていった。
「神谷くん、葵さん。気をつけて。奴らよ」
ある日の帰り道、玲奈が低い声で俺たちに警告した。
彼女が視線を向けた先には、電柱の影に立つ、黒いスーツ姿の男たちが数人。
明らかにカタギじゃない。
「奴らって……」
「私の命、正確には私の血を狙う連中よ」
玲奈が俺たちを人気のない公園に連れ込み、重い口を開いた。
彼女は、自分が古き血族と呼ばれる特別な家系の末裔であることを打ち明けた。
その血筋は、ダンジョンが出現する以前から、異世界の力をその身に宿してきた一族なのだという。
そして、その力を独占し、世界を自分たちの支配下に置こうと企んでいるのが、彼女を狙う敵対組織――アークス・オルドだった。
「奴らは、私の一族の血を使って、ダンジョンそのものをコントロールしようとしている。だから、私を執拗に狙ってくるの」
玲奈がS級探索者として、あれほどまでに強く、そして孤独に戦っていた理由が、ようやく分かった。
自分の運命に、他人を巻き込みたくなかったのだ。
「今まで、ずっと一人で戦ってきた。誰にも頼らず、誰の助けも借りずに……。それが、私の宿命だと思っていたから」
うつむいた玲奈の白い横顔から、いつもの凛とした凄みは消え失せていた。
膝の上で固く握りしめられた両手は、小刻みに震えている。
「でも、あなたたちと出会って……神谷くん、あなたに助けられて、少しだけ、変わったのかもしれない。もう一人じゃない……そう、思ってもいいの?」
玲奈は、俺の目を真っ直ぐに見つめて言った。
その声は、かすかに震えている。
ずっと張り詰めていた糸が、切れそうになっているのが分かった。
俺は、迷わず答えた。
「当たり前だろ。もう俺たち、パーティーなんだから」
俺の言葉に、隣にいた葵も力強く頷く。
「そうだよ、玲奈ちゃん! 私たち三人で、そのアークスなんとかをやっつけちゃおう!」
「……葵さん。それに、蓮くん」
玲奈の瞳に、うっすらと涙が浮かんだ。
彼女が初めて、俺の名前をくん付けで呼んだ。
俺は、公園の鉄棒をギリッと握りしめた。
平穏な日常を守る。
そのために、俺はスキルを手にした。
だけど、今、守りたいものが増えた。
目の前の、孤独に震える少女の笑顔も、俺が守るべき日常の一部なんだ。
俺は、本格的に戦うことを決意した。
俺自身の意思で。
平穏のため、そして、仲間のために。




