第6話「共闘、そして信頼の芽生え」
週末、俺たちはダンジョンイーターが出現するという中層エリア、沈黙の森に足を踏み入れていた。
「いい、神谷くん。あなたは私の後ろから離れないで。絶対に前に出ないこと」
先頭を歩く雪城さんは、戦闘モードの鋭い表情で俺に釘を刺す。
その手には、お馴染みの氷の長剣が握られている。
「分かってるって」
「蓮、無理しちゃダメだよ。ちょっとでも危ないって思ったら、すぐ私のところにきてね!」
俺の後ろからは、純白のローブに身を包んだ葵が、心配そうな顔で声をかけてくる。
『うん、過保護がすごい』
道中、ゴブリンやオークといったモンスターが襲いかかってきたが、それらは全て雪城さんが一瞬で氷漬けにしていく。
『さすがS級』
『俺の出番はまるでない』
「……あなた、本当に探索者なの? 足運びも、索敵も、全部素人じゃない」
「うっせーな。俺は後方支援タイプなんだよ」
「何の支援ができるっていうのよ」
呆れたようにため息をつく雪城さんに、俺はむっとする。
確かに戦闘経験は皆無だが、いざとなれば俺にはガチャがあるのだ。
そんな不穏な空気の中、葵だけが完璧なサポートでパーティーを支えていた。
「雪城さん、前方三十メートルに敵意感知! 罠の可能性もあります! 蓮、足元に気をつけて! そこ、ぬかるんでるよ!」
的確な指示と気配りで、俺たちの進軍は驚くほどスムーズだった。
雪城さんも、次第に葵の実力を認め始めたようだ。
◆ ◆ ◆
そして、森の最も深い場所にある開けた広場で、ついに俺たちは目的のモンスターと遭遇した。
「グルォオオオ……」
それは、巨大なナメクジのような、黒く光る不定形の怪物だった。
体からは絶えず魔力を吸い寄せるようなオーラが立ち上っている。
『あれが、ダンジョンイーター……』
「行くわよ!」
雪城さんが先制攻撃を仕掛ける。
強力な氷の矢を何本も放つが、その全てがダンジョンイーターの体に触れた瞬間、シュン、と音を立てて消滅してしまった。
「やはり、魔法は通じないか……!」
舌打ちする雪城さん。
ならばと、氷の剣で直接斬りかかるが、斬り裂かれたはずの体はすぐにブヨブヨと再生してしまう。
完全に攻めあぐねていた。
「くそっ、こうなったら……!」
俺はガチャを引いた。
頼む、物理攻撃系の何か。
【獲得】SSRランク:物理攻撃を100倍にするグローブ(1回限り)
『キタッ! これだ!』
俺は即座に、右手に現れた無骨な鉄のグローブをはめた。
「雪城さん、葵! ちょっと離れてろ!」
「え、何をする気の――」
俺はグローブの力を確かめるように拳を握りしめると、足元に転がっていた、ただの拳大の石ころを拾い上げた。
そして、ピッチャーが振りかぶるようなフォームで、ダンジョンイーターに向かって、その石を全力で投げつけた。
俺の腕から放たれた石は、ヒュン、という軽い音を置き去りにして、ソニックブームを巻き起こしながら飛翔した。
音速を超えた小石は、一直線にダンジョンイーターへと突き進んだ。
そして、その体の中心でかすかに光る、核のような部分を正確に撃ち抜いた。
ドギュゥン、という衝撃音。
ダンジョンイーターは、断末魔を上げる間もなく、その巨体を大きくのけぞらせ、内側から爆発するように四散した。
後には、静寂だけが残された。
「…………は?」
雪城さんが、信じられないものを見るような目で、俺と、俺がはめていたグローブを交互に見ていた。
グローブは役目を終え、すでに消滅している。
「い、今の……何?」
「言ったろ? 俺は後方支援タイプだって。運が良かっただけだよ」
俺は肩をすくめて笑ってみせた。
「……そう。運が、良かった、だけ……」
雪城さんは呆然とつぶやきながらも、その表情はどこか吹っ切れたように見えた。
「……ありがとう、神谷くん。助かったわ」
素直な感謝の言葉。
それは、俺たちの間に、確かな絆が芽生え始めた証だったのかもしれない。
葵もすごいや蓮と手放しで喜んでいる。
まあ、たまにはこういうのも悪くないか。
俺は少しだけ、そう思った。




