第5話「結成、ぎこちないトライアングル」
週が明けても、雪城さんの蓮くん観察と、葵の蓮くん過保護はエスカレートする一方だった。
俺の体力と精神力は日に日に削られていく。
そんなある日の放課後、俺はついに雪城さんに呼び出された。
場所は、誰もいない屋上。
『嫌な予感しかしない』
「神谷くん、単刀直入に言うわ。あなた、一体何者なの?」
燃えるような夕陽を背にして立つ雪城さんの姿は、逆光の中で輪郭だけが黄金色に縁取られていた。
その透き通るような冷たい瞳に見下ろされ、俺は蛇に睨まれた蛙のように息を呑んだ。
「ただのしがない高校生ですが、何か?」
「とぼけないで。あなたは、普通じゃないわ。あの夜、私を助けたのも、あなたなんでしょう?」
核心を突いてくる質問に、俺の心臓がドクンと跳ねる。
「いやいや、人違いだって。俺があんな化け物を倒せるわけないだろ」
「でも、あなたの周りでは不思議なことが起きる。それに……あなたから、あのときの謎の男と同じ気配を感じるの」
S級探索者の勘、恐るべし。
もうごまかしは効かないか。
俺が観念しかけたとき、雪城さんは意外な言葉を口にした。
「あなたの正体を無理に暴こうとは思わない。その代わり、私に協力してちょうだい」
「協力?」
話によると、彼女はダンジョンイーターという特殊なモンスターの討伐に苦戦しているらしい。
そのモンスターは、あらゆる魔法攻撃を吸収し、無効化してしまうのだという。
氷の魔法を主体とする雪城さんにとっては、天敵中の天敵だった。
「物理攻撃も試したわ。でも、傷口が瞬時にふさがるほどの再生力の前に、決定打を与えられない。そこで、あなたの力が必要なの」
「俺の力って……」
「あなたの何かよ。幸運なのか、それとも未知のスキルなのかは分からない。でも、あなたのその規格外の何かが、現状を打破する鍵になると、私の勘が告げているの」
彼女は俺に、一時的なパーティー結成を申し込んできた。
もちろん、答えはノーだ。
これ以上面倒ごとに首を突っ込むなんて、俺の平穏主義が許さない。
俺が断りの言葉を口にしようとした、そのときだった。
バタン、と屋上のドアが勢いよく開いた。
「私も行く!」
そこに立っていたのは、息を切らした葵だった。
いつから話を聞いていたんだ。
「蓮がダンジョンに行くなら、私も行く! ヒーラーとして、蓮のことは私が守る!」
葵は俺と雪城さんの間に割って入るようにして、高らかに宣言した。
「あなたは……日向さん?」
「そうだよ! 蓮の幼馴染で、専属ヒーラーの日向葵です!」
なぜか得意げに胸を張る葵に、雪城さんは少し考え込むような素振りを見せた。
「……ヒーラー。確かに、長期戦になる可能性を考えれば、回復役は必須ね。分かったわ。あなたもパーティーに加わることを許可する」
「やったー!」
「いや、許可するとかじゃなくてだな……俺、まだ行くなんて一言も……」
俺の抗議の声は、二人の美少女の間に生まれた奇妙な連帯感の前に、かき消された。
こうして、俺の意思とは全く関係ないところで、即席パーティーが結成されてしまった。
正体を隠したい運任せのアタッカー、俺。
俺の正体を探りたいクールなエリート、雪城玲奈。
俺を心配する過保護なヒーラー、日向葵。
何ともぎこちない、アンバランスなトライアングル。
俺の胃は、すでにキリキリと痛み始めていた。




