番外編1「クールな彼女の内緒のドキドキ」
◇雪城玲奈視点
神谷蓮。
クラスの中でも特に目立たない、平凡な男子生徒。
それが、私の彼に対する最初の印象だった。
あの日、路地裏でS級モンスターに不覚を取り、死を覚悟した私を救った、謎のフードの男。
その力、神話の武器のような剣。
私は、その正体を必死に探していた。
まさか、彼だとは思いもしなかった。
でも、疑念の種は、些細なことから芽生えていく。
体育の授業。
剛速球のドッジボールが、彼の顔面に当たりそうになった瞬間。
ガギン、という金属音と共にボールが弾かれた。
彼のカバンに入っていたという、頑丈すぎる弁当箱。
『……偶然、よね?』
放課後。
私の不注意でこぼしてしまったオレンジジュースのシミが、彼が差し出したハンカチで拭っただけで、跡形もなく消えてしまったとき。
『……ありえない。何か特殊な薬品でも染み込ませていたの?』
私の勘が、警鐘を鳴らす。
彼が、怪しいと。
それから、私は無意識に彼を目で追うようになっていた。
観察すればするほど、彼は普通だった。
授業中はときどきうたた寝をし、休み時間は友人たちとくだらない話で笑っている。
でも、時折見せる、遠くを見るような瞳。
その中に、あの夜の救世主の面影が、一瞬だけ重なる気がした。
「れーん、またぼーっとしてるー!」
日向さんが、親しげに彼の肩を叩く。
彼はうおっと驚きながらも、まんざらでもない顔で彼女と笑い合っている。
その光景を見た瞬間、私の胸の奥が、チリッと痛んだ。
『な、なに、この感情は……』
胸の奥がざわついて、無意識に唇を噛みしめてしまう。
視線を外したくても、どうしても二人の姿を追ってしまう。
なぜ、日向さんが彼の隣にいるだけで、こんなにも心が乱されるの?
分からない。
分からないけど、一つだけ確かなことがある。
私は、神谷蓮のことが、もっと知りたい。
彼の秘密も、彼の日常も、全部だ。
クールな仮面の下で、私の心臓がドクンドクンと音を立てる。
これが、世間で言う恋というものだなんて、このときの私は、まだ認めたくなかった。




