第12話「君のいる日常を守るために」
「玲奈を、そこから解放しろ!」
俺は叫び、ゼノンに殴りかかった。
だが、俺の拳はゼノンに届く前に、見えない壁に阻まれてしまう。
「無駄だ。私を覆うのは、このダンジョンコアそのものの力。貴様ごときの攻撃が届くものか」
ゼノンが手を振るうと、強力な重力が俺と葵にのしかかる。
「ぐっ……!」
「きゃあ!」
身動きが取れない。
『これが、ラスボスの力……』
「雪城玲奈の血は、ダンジョンコアと融合し、やがてこの世界全てを覆う、新たな法則となる。感情という不確かなものに振り回され、愚かな争いを繰り返す人類は、絶対的な管理下でしか救われないのだ」
悲壮感すら漂う異様な熱を帯びた瞳で理想を語るゼノンに、俺はギリッと奥歯を噛みしめた。
「ふざけるな……! そんなの、ただの独裁じゃねえか!」
「それが弱者を無慈悲な死から守る、唯一の手段だ」
『もう打つ手はないのか……』
『いや、まだだ』
『俺には、まだ最後の切り札が残っている』
それは、いつかのガチャで手に入れ、あまりにも強力すぎる効果ゆえに、一度も使うことなく封印していたアイテム。
「葵……! 玲奈を、頼む……!」
俺は最後の力を振り絞り、アイテムボックスを開いた。
【SSSランク:運命を書き換える一撃】
それは、あらゆる因果を捻じ曲げ、望む結果を一度だけ実現させるという、もはや神の御業としか思えない、ガチャアイテムだった。
俺は、それを起動させる。
俺の右腕が、世界そのものを構築するほどの、エネルギーに包まれていく。
「なっ……その力は、なんだ!」
ゼノンが初めて狼狽の色を見せる。
俺は右腕に宿った光を、天に掲げて叫んだ。
「俺が望むのは! 世界の平和なんかじゃねえ! 俺が望むのは、雪城玲奈が、日向葵が、俺の隣で当たり前のように笑ってる、ただの平凡な毎日だ! 俺の日常を! 俺たちの平穏を! 返せぇえええええええ!」
俺が振り下ろした一撃は、光の奔流となってゼノンを飲み込んだ。
だが、その力は、単なる破壊ではなかった。
ゼノンを打ち破ると同時に、光は玲奈を優しく包み込み、彼女を縛り付けていた血族の宿命という名の因果の鎖を断ち切る。
さらに、暴走しかけていたダンジョンコアのエネルギーを完全に鎮め、世界を覆うはずだった法則を、何も起きなかったという現実へと書き換えた。
全てが終わった。
◆ ◆ ◆
ダンジョンコアは力を失い、奈落の口は崩壊を始める。
俺は、コアから解放され、気を失っている玲奈を抱きかかえ、葵と共に脱出路を全力で走った。
やがて、出口の光が見えてくる。
崩壊するダンジョンから飛び出した俺たちを、昇り始めた朝日が優しく照らしていた。
俺は、腕の中で意識を取り戻した玲奈を、そっと地面に降ろした。
「……蓮くん」
「よぉ」
俺は、少し照れくさかったが、彼女に向き直り、手を差し伸べた。
「おかえり、雪城さん」
俺の言葉に、玲奈の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
彼女は、その涙を拭うこともせず、最高の笑顔で、俺の手を取った。
「……ただいま、蓮」
彼女は初めて、俺を呼び捨てにした。
その隣で、葵も泣きながら、優しく微笑んでいた。
俺たちの長い戦いは、こうして終わりを告げた。




