第10話「学園、襲撃」
決戦の場所は、敵の本拠地である最深層ダンジョン。
そう、俺たちは信じて疑わなかった。
だが、敵の狙いは、もっと狡猾で、悪辣だった。
翌日、いつも通りに始まった授業。
その平穏は、突如として破られた。
ガシャン、という轟音と共に、校舎の窓ガラスが一斉に砕け散る。
そして、校庭を黒いローブをまとったアークス・オルドの戦闘員たちが埋め尽くしていく。
「な、なんだ!?」
生徒の一人が叫ぶと、別の生徒が悲鳴を上げる。
「モンスターじゃない……人間!?」
生徒たちがパニックに陥る中、校舎全体が禍々しい紫色の光に包まれた。
「結界……! 学校が丸ごと、隔離されたわ!」
玲奈が叫ぶ。
外部との通信も、転移も、すべて遮断されている。
全校生徒が、人質に取られたのだ。
「雪城玲奈を出せ! さもなくば、ここの生徒から一人ずつ殺していく!」
スピーカーを通した、非情な声が響き渡る。
「くっ……!」
玲奈は唇を噛みしめ、前に出ようとする。
だが、俺は彼女の肩を掴んで押しとどめた。
「待て、玲奈。お前が行ったら、奴らの思う壺だ」
「でも、このままじゃみんなが!」
「俺たちで、やるんだよ!」
俺は葵と玲奈に目配せすると、廊下へ飛び出した。
そこにはすでに、教室へ向かおうとする敵の戦闘員が何体もいた。
「氷槍! 私が援護する!」
玲奈の魔法と、俺がガチャで手に入れたRのそこそこ切れる短剣で応戦するが、敵の数はあまりにも多い。
次から次へと湧いて出てくる。
「このままじゃ、ジリ貧だ……!」
迫り来る凶刃を短剣で弾き返すたび、腕の感覚が麻痺していく。
背後から葵が絶え間なくかけてくれる治癒の温かい光がなければ、俺はとっくに切り伏せられていただろう。
もう、迷っている時間はない。
正体を隠している場合じゃない。
俺はポケットから、ストックしていた一つのアイテム――赤い宝玉を取り出した。
「蓮、それ……」
「玲奈、葵、生徒たちを頼む! 皆、伏せろぉっ!」
俺はそう叫ぶと、宝玉を廊下の窓から校庭に向かって全力で投げつけた。
アイテムの名は、SSR:小規模メテオストライク。
宝玉は空高く舞い上がると、灼熱の炎をまとった巨大な隕石へと姿を変えた。
そして、アイテムの恩恵によって敵対者にのみ攻撃判定が絞り込まれ、校庭に陣取る敵兵のど真ん中に降り注いだ。
ズゥウウウウンッ!
学校全体が揺れるほどの、爆発。
砂埃が晴れた後、そこに立っていた敵の下級兵たちは、跡形もなく消し去られていた。
校舎中が、水を打ったように静まり返る。
廊下も、教室も、すべての生徒が、窓の外の光景と、その中心にいる俺を見て、呆然としていた。
「か、神谷が……? 嘘だろ……?」
神谷蓮が、あの平凡で目立たなかった神谷蓮が、規格外の力を持つ探索者であるという事実が、全校生徒の目の前で明かされた瞬間だった。
だが、俺たちが安堵するのも束の間だった。
「……素晴らしい力だ。だが、ここまでだ」
校庭の中央に、いつの間にかあの幹部の男と、そのさらに後ろに、ローブを深く被った、ボスと思わしき人物が立っていた。
そして、ボスが手をかざした瞬間、玲奈の体が金縛りにあったように動かなくなり、宙に浮いた。
「玲奈ッ!」
「さらばだ、若き英雄よ。彼女は、我々の大いなる目的のために使わせてもらう」
玲奈を捕らえたボスたちは、空間の歪みの中へと姿を消していく。
その行き先は、間違いなく敵の本拠地――最深層ダンジョンだ。
俺は、ただ唇を噛みしめることしかできなかった。




