209話 ラグビー勝負-2
「……いいじゃん」
周囲の女子たちが距離を取る。
誰かが慌ててボールかごを退かし、誰かがラインの近くに落ちていたタオルを拾い上げる。
さっきまでの軽い騒ぎは、いつの間にか小さな観客席の熱に変わっていた。
即席の勝負が始まった。
チハルは十メートルほど離れた場所で腰を落とし、楕円球を抱える。
龍之介はその正面に立った。
風が抜ける。
土の匂いが濃くなる。
踏み荒らされた芝の青臭さと、湿った泥。
それらの匂いが混じり、息を吸うたびに肺の奥まで入り込んでくる。
「チハル、やっちゃえ!」
「唯一の男子を吹っ飛ばせ!」
「いや、怪我させたら駄目だからね!?」
「龍之介くん、頑張って!」
「男子なんだから根性見せろー!」
「でもチハル相手は普通に可哀想!」
声援なのか野次なのか分からない声が飛ぶ。
チハルは楽しそうに笑った。
その笑いは軽い。
けれど、目だけは真剣だった。
「行くぜ!」
次の瞬間、チハルが地面を蹴った。
土が弾けた。
彼女の身体が、低い姿勢のまま一直線に伸びる。
ただ速いだけではない。
重い。
低い弾丸が、真正面から突っ込んでくる。
だが、逃げるわけにはいかない。
逃げた瞬間、この勝負はもちろん、勧誘そのものも終わる。
龍之介は逃げずに受けた。
肩と胸に衝撃が走る。




