200話 べ、別に本命とかじゃないし!
ホーム、タッチアウト。
チームメイトの歓声が、グラウンドに弾けた。
サユの胸が熱くなる。
今の一投は、怖さが消えたから投げられたんじゃない。
怖さよりも、誇りがほんの一瞬だけ前に出たのだ。
「ナイス送球。今のは試合でも通用する」
龍之介の声が飛ぶ。
サユは肩で息をしながら、ぱっと顔を上げた。
視線が合った瞬間、力強い送球で熱くなっていた頬が、別の熱でじわりと染まっていく。
「……べ、別に。たまたまよ」
「たまたまにしては軌道がきれいだ。弓矢の線だったな」
心臓が跳ねた。
褒められるのは嬉しい。
けれど、好きな相手に言われると、その嬉しさは簡単に制御を失う。
今だ。
――そう、分かってしまった。
熱が冷める前に出さないと、また引っ込んでしまう。
サユは傍らに置いていた包みをつかみ、一歩踏み出した。
「……これ!」
「ん?」
「べ、別に本命とかじゃないし! 練習の……補給用! 糖分! そう、糖分補給!!」
ミオの理屈を借りていたが、平常心までは真似できなかったようだ。
けれど、それが今のサユらしい。
勢いで差し出して、差し出したあとで耳まで真っ赤になる。
龍之介は笑わなかった。
ここで笑えば、サユが崩れると分かっているからだ。
代わりに、いつも通りの声で包みを受け取った。




