197話 バレンタイン-アイリ
そのあとに来たアイリは、正反対だった。
合気道部らしく、流れを崩さず、押しも引きも強すぎない。
みんながひと通り渡し終え、空気が少し落ち着いた頃を見計らって、彼女は自然に龍之介の横へ並んだ。
「ねえ、龍之介。これ」
差し出された包みは飾り気が少なかった。
派手なリボンも、目を引く色もない。
けれど、手に取った瞬間に分かる。
角の折り方も紐の結び目も、ひとつひとつがきっちりしていて、雑なところがどこにもない。
見た目で競うのではなく、きちんと相手に渡すことだけを考えて作ったような包みだった。
「アイリもか。ありがとう」
「うん。そんなに大したものじゃないけど」
「いや、こういうのは気持ちが嬉しいだろ」
龍之介がそう言うと、アイリは少しだけ目を細めた。
笑った、というより、安心したような顔だった。
「喜んでくれたのなら、こっちも嬉しいよ。……それでさ、今日、みんな少しだけ前に出てる。分かってるよね?」
アイリはグラウンドの方へ目を向ける。
ミオ、ノゾミ、ユイ、セツナ、マキ。
それぞれ違う方向から、でも確かに一歩前へ出ている。
「サユちゃんも、たぶん」
短い一言。
けれど、その先にあるものを龍之介はすぐに汲み取った。
「分かってる。サユが踏み込めるかどうか……。それ次第で、野球も気持ちも変わる」
「踏み込ませてあげて。あの子、強がってるけど……本当は弱い子だから」
「任せろ」
ほんの数秒の会話だった。
けれどそれだけで、龍之介の中では今日の練習の形がひとつ組み上がる。
バレンタインは、ただ甘いものを渡す日じゃない。
サユがこのチームの中へ、もう半歩深く入るためのきっかけにできる。




