196話 バレンタイン-マキ
続いたのは、マキだった。
新体操部の彼女は、何をするにも重力との付き合い方が軽やかだ。
渡しに来たというより、輪の中心へするりと滑り込んでくる。
立つだけで場の見え方を変えてしまう――そんな入り方だった。
「りゅーさん。はい、チョコですぅ」
語尾までふわふわしているのに、差し出した手元だけは妙に安定している。
包みには、小さなリボンがいくつも踊っていた。
いかにもマキらしい。
「ほらぁ、ちゃんとみんなの前で受け取ってください~。責任が生まれるですぅ」
「責任って何だよ」
「愛の責任ですぅ」
「……地味に重いな。もちろん、マキを蔑ろにするつもりはないけど」
ふわふわした言動なのに、内容だけが妙に重い。
龍之介は神妙な顔で受け取り、マキは「やったぁ」と小さく拳を握った。
その仕草まで、舞台のワンカットみたいに綺麗に決まっている。
「りゅーさん。今日の守備練習、マキちゃんの成長をお見せするですぅ。どんどんノックしてください~」
「いいのか? オフシーズンの今は、勘を鈍らせない練習だけでも十分だが……」
「でも、今のマキちゃんはやる気満々なんですぅ! 一気に成長できそうなんですぅ!!」
「……そうか。それなら、遠慮なくいくぞ!」
龍之介が厳しくやること。
それがこのチームにとっては安心で、信頼で、合図でもある。
マキはそれを分かったうえで、冗談めかして投げてくるのだ。
成長が加速する――。




