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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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九十話 残された者

三人称視点です。

 偽四季(しき)との戦いを終えて、葉月(はづき)たちは会談したホテルに戻った。

 重傷者もいるし、精神的なショックを受けている者もいる。休む必要があった。


「お姉さんの様子はどう?」

「ようやく眠った。夏帆(かほ)は強いし、きっと立ち直ってくれる」

「そう……本当に、この子は……」


 持ち帰った春真(はるま)の遺体を眺め、葉月は愚痴をこぼす。

 葉月は、春真が命を捨てたことに対して不満があった。

 戦えなかった自分に文句を言える筋合いはない。春真が偽四季を倒してくれたおかげで、被害は食い止められた。感謝すべきだ。

 理屈では分かっていても納得できない。


「悪い癖よ。結局直らなかったわ。バカなんだから」


 長月(ながつき)が春真の記憶をいじり、おかしくなってしまったことがあった。葉月を襲いそうになり、未遂で終わったものの、春真は気に病んでいた。

 勝手にいじった方が悪いと考えず、あくまでも自分の中にあった欲望が顕在化したのだと。


 己の領分を超えてまで責任を負うものではない。

 葉月は注意したが、直らなかったようだ。


 春真が何を考えて戦ったのか、手に取るように分かる。責任を感じていたのだ。

 前回の戦いでとどめを刺さなかったこと。甘い考えでいたこと。敵とはいえ、人を殺してしまうこともだろう。


 責任を取るために、自分の命を捨てた。

 身勝手な行動だと思う。死んでしまっては注意もできない。

 春真の遺体は汚れをふき取ってある。穏やかな顔で眠る彼を見て、涙がこみ上げてきた。


「なんで死ぬのよ……速峰(はやみね)も、長月も……一人にしないで……」

(よう)さん……」


 十二月(じゅうにつき)のメンバーは、葉月を残して全滅した。

 春真が死んだことで、古い付き合いの人は四季くらいしか残っていない。次が冬将(ふゆまさ)になる。

 四季も冬将も好きだし、新しく覚醒した人たちも嫌いなわけではないが、ずっと一緒にいたメンバーがいなくなったのは辛い。


 総理大臣は、新人類を受け入れてくれようとしている。暴動を止め、落ち着かせようと奮闘中だ。

 争いが終われば万事解決でもない。問題は山積しているし、この先も大変な日々になる。


 葉月も働くことになるが、一緒に歩んでくれる仲間が欲しかった。心を許せる仲間たちが。

 春真や長月には生き残ってもらいたかったのに、二人ともいなくなった。


 春真は、まだ遺体がある分マシとも言える。弔ってあげられるのだから。

 長月は偽四季に殺され、遺体の発見すら困難であろう。

 二人以外にも犠牲者は多い。旧人類、新人類とも、大勢が死んだ。


 大切な人を失い、悲嘆に暮れているのは、葉月だけではない。立ち直らなければならない。

 でも、少しだけは。


「私も休ませてもらうわ」

「誰かに付き添ってもらえばどうだ? 男の俺はまずいが、四季とか」

巨乳(あくま)でも今は労わってあげる」

「一人になりたいの。冬将と四季も休んでいいわよ。怪我しているでしょ」

「葉月葉が大丈夫なら、私は夏帆の様子を見ているけど?」

「一人にさせて」


 大丈夫だ、とは言えなかった。

 仲間を次々と失っても、悲しむべき時じゃない、戦うべきだと自分に言い聞かせて走り続けた。

 一段落した今は、先延ばしにしていた悲しみが一気に襲ってきている。

 一人になりたかった。一人になって、思い切り泣きたかった。





 葉月はホテルの一室を借りて休むことにしたらしい。

 弟の死にショックを受けている夏帆も休んでいるし、四季は様子を見ている。


 大怪我をした睦月(むつき)と彼に付き添う皐月(さつき)、皐月にべったりの秋陽刀(あきひと)もこの場にはいない。

 卯月(うづき)神無月(かんなづき)は、自衛隊員でもあるため動いている。

 残っているのは、冬将、文月(ふみつき)師走(しわす)だ。

 そして、もう一人。


「坊主が死んだんだって?」

「おい、おっさん」

「バカにしようってんじゃない。冥福を祈らせてくれ」


 新人類の町に攻め込んできた隊長の男性は、春真の冥福を祈ると言い出した。

 遺体を前にして両手を合わせ、黙祷する。


「どういう風の吹き回しだ? あんたにとっちゃ、俺たち怪物は敵だろ?」

「新人類が恐ろしい気持ちはあるが、この坊主個人に恨みはないからな。第一、これから仲良くしようって話だろ? 敵視しても仕方ない。ったく、甘い坊主が望むような平和が訪れるのに、死んでどうすんだ」


 口調こそ乱暴だが、一応春真の死を悲しんでくれているようだ。


「考えてみれば、睦月たちよりも、おっさんとの方が長い付き合いになるのか」


 冬将にとっては四季との付き合いが一番長く、次が葉月で、その次はこの人だ。

 その割に、名前すら知らないことに気付く。


「おっさんの名前は?」

桐生(きりゅう)虎鉄(こてつ)だ」

「うわ、おっさんのくせに、無駄にかっけえ」

「名前負けしているとはよく言われるな」


 他愛もない話をしていたが、すぐに会話が止まった。重苦しい空気が漂う。

 居心地が悪いのか、文月と師走もどこかに行ってしまった。


「……春真は、いい奴だった。俺もそこまで長い付き合いじゃねえが、いい奴だ。密かにライバル視してたんだぜ。春真と葉さんは親しそうだし、俺も負けてられねえってな」


 春真と葉月の間に恋愛感情があったかどうかは知らない。友人や戦友といった気持ちかもしれないが、冬将はライバル視していた。

 勝手に逝きやがって、と文句を言いたい気分だ。


「いい奴が先に死ぬって、ひでえ世の中だよな」

「よくある話だ。憎まれっ子世にはばかる、なんて言葉もある」

「マジひでえ」


 春真がもっと無責任な性格であり、自分の命を最優先に考えて戦わなければ、今でも生きていた。

 春に覚醒していなくても、おそらく生きていた。戦いたくても戦えないからだ。

 なまじ力を得てしまったせいで死ぬ羽目になった。

 これを運命と呼ぶのであれば、極めて残酷だ。


「なんで俺は生きてんだろうな。神和(かんな)も春真も死んで、なんで俺が」

「生きる意味を考えても答えは出ない。そういうのは哲学者にでも任せておけ」

「確かに、俺の柄じゃねえか」


 生き延びられてラッキーとは思えない。少なくとも、今は。

 失った悲しみを癒すには時間がいる。これは、他の人たちも同じだろう。


「桐生のおっさんは、これからどうすんだ?」

「田舎に帰ってのんびりと、だな。親孝行でもするさ。戦いはこりごりだ」

「帰れる田舎があるのは羨ましいぜ。こっちは、どっかの誰かさんたちのせいで壊滅したからな」

「謝っても遅いだろうが、悪かった」

「ま、俺たちもそっちの仲間を大勢殺したし、お互い様かもな」


 冬将自身も人を殺している。被害者を気取れる立場ではない。

 多くの犠牲を払い、旧人類と新人類が歩み寄るきっかけを作れた。そう思っておけば、少しはマシだろうか。





「私は……」


 四季は、自分が生き延びたことに罪悪感があった。

 当初の予定では、自分が犠牲になるつもりだった。

 十二月を殺して本当の四季に覚醒する。旧人類に力を見せつけて、新人類に有利な条約でも結ばせて終わらせる。


 結果だけを見れば、新人類を受け入れてもらえそうな現状は、決して悪くない。

 代わりに、またしても弟を失ってしまった。

 お姉ちゃんは、弟を守れなかった。


 仕方ないとも言える。偽四季と春真の戦闘は、最後の方は四季ですら割り込めなかった。人知を超えた化け物同士のぶつかり合いだ。

 春真がいなければ、今頃は四季たちも皆殺しにされていただろう。


「私は間違えた?」


 春真を脳内お花畑と揶揄していたが、四季も中途半端だった気がする。

 四の五の言わず、十二月を殺しておけばよかった。本当の四季に覚醒し、当初の予定通り外と戦っていればよかった。


 十二月のメンバーがいい人だったから。行動を起こす前に外が攻めてきたから。

 理由はいくらでもつけられるが、とどのつまりは殺す覚悟がなかっただけではなかろうか。覚悟を口にしておきながら、それを持たなかった。

 ゆえに、間違えたと考える。


「しょうがない」


 春真の口癖だ。しょうがない。

 後悔しても時間は巻き戻せず、前に進むしかないのだ。

 生き延びた四季は、明日に向かう。

 死んでいった人たちの分まで、明日に向かおう。

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