八十九話 僕も眠りにつく
命を燃やして偽四季と戦い続ける。
僕が壊れる方が先か、偽四季を倒す方が先かだ。
短い時間が、何倍にも延ばされたように錯覚する。かすかに届いていたみんなの声も、今はまるで聞こえない。
聞こえるのは戦闘音と、偽四季の憎悪の声だ。
「殺す最強の俺の邪魔をする奴は殺すむごたらしく拷問して殺す。殺す殺す殺す」
言葉にすることで、復讐心を燃やしているんだ。心を欲望で見たし、力を増幅させようとしている。
こいつはそれができる人間だ。だから十二月としては破格の力を持っていたし、今も偽四季として復活できている。
同じようにしようってわけだ。
復讐。この二文字を渇望し、力を求めている。
強くなりたいって望んだのは僕もだけど、こんなやり方で力を得たくない。
こいつに言っても意味ないかな。絶対に届かない。
そこまで僕を殺したいなら、いいよ。命が欲しければいくらでもあげる。
命を惜しんで勝てる相手じゃない。死んでも構わない。
というか、僕は死んで当然の人間だって思うしね。
かつて、四季に言った。殺さない覚悟を決めたと。
殺す方が簡単で、最善の方法だとしても、殺さない。殺さないで解決できる道を模索する。
我ながら、偉そうな発言だった。
四季は殺す覚悟、僕は殺さない覚悟。冬将も認めてくれたっけ。
あれを、今、撤回させてもらう。
僕は殺す覚悟を決めた。偽四季を倒すんじゃなくて、殺す。
撤回するなら、もっと早くに撤回しておくべきだった。そうすれば被害も少なくなった。
あるいは、最後まで自分の決意を貫き通すかだ。
優柔不断で中途半端。自分が嫌になる。
迷惑をかけて、被害を増やしてしまったんだし、だったら僕も死のう。命を賭して偽四季を殺そう。
「ごめんね」
この謝罪は、紺屋さんに対してのものだ。
死の間際、紺屋さんは言っていた。「春真さんはこないでください」と。
如月と紺屋さんが逝ってしまい、でも僕にはこないで欲しいと望んでいた。
約束を果たせないことへの謝罪だ。
あの世で二人と再会して、怒られそうだね。
でも、なんだかんだ許してくれるんじゃないかな。自分で言うのもあれだけど、二人とも僕が好きだからさ。
もちろん、僕も二人が大好きだよ。一番の親友と恋人だ。
姉を残してしまうのは心苦しいけど、両親がいる。新人類が受け入れられる世界になれば、家族で暮らせるようになるはずだ。親友の四季もいるし大丈夫。
葉月さんたちは、これから面倒な仕事がある。旧人類と新人類の橋渡しをできるのは、彼女たちだけだ。
手伝えなくてごめんって謝っておく。
「殺す殺す殺す」
「殺すは僕のセリフだよ。お前を殺す」
臆さないために、決意を口に出す。
偽四季の首を掻き斬ろうと手刀を繰り出した。
けれど、偽四季の方が先に、僕の心臓を貫く。
どうでもいいよ。僕はまだ生きているんだ。数瞬後には死ぬとしても、その前に偽四季にとどめを刺せばいい。
僕の右手が偽四季の首にめり込む。
「がああああああああぁぁぁっ!」
獣じみた咆哮を上げつつ力を込め、引きちぎる。
首と胴体が離れれば、いくら偽四季でも生きていられない。
憎しみに濁った瞳のままで、首が地面に落ちた。
雨で水たまりができているそこに、どす黒い赤が染み、広がってゆく。
念には念を入れて、踏み潰しておいた。
これで完全に死んだ。新人類も永遠の命もくそもない。ここまでやって死なない生物はいない。
偽四季の胴体は、いまだに僕と密着し、胸を貫いた状態のままだ。こっちも乱暴に引き抜き、地面に打ち捨てる。
終わった……ね。やっと終わった。
安堵の気持ちとともに、僕も倒れ込む。
今でも痛みを感じないのは不思議だ。苦痛に喘いで死ぬよりは楽かな。
痛みだけじゃなくて、地面の硬さも雨の冷たさも感じない。何も感じない。自分が仰向けに倒れているのかうつ伏せなのかも分からない。
みんなが駆け寄ってきているみたいだけど、視界がかすんで碌に見えないし、声も聞こえない。
別れの挨拶くらいしたいな。
声を絞り出そうとして、口から出てきたのは血の塊だった。
声も出せないか。しょうがないね。
うん、しょうがない。しょうがない。いつもの僕だ。
しょうがないから許して。これでも頑張った方だよ。今までありがとう。
頭の中で、とりとめのない言葉が巡る。
両目を閉じる。元々見えなくなっていたけど、目を閉じれば完全な暗闇だ。
なんか、四季に出会った夜を思い出す。
不思議なほど、不気味なほど静かだった。世界に僕しかいないと錯覚するほど、ただただ静かだった。
あの時は怖かったね。変死事件の話題も聞いていたし、早く家に帰ろうとしたものだ。
で、四季を見つけた。変死体を見つけちゃったって思って戸惑った。
実際は生きていたわけだけど。
あれが始まりだった。行き倒れの少女を見つけ、事件に巻き込まれつつ右往左往してきた。多くの人と出会い、別れた。
色々あったけど、僕の戦いは終わったんだ。
先に逝かせてもらうよ。
僕は明日に向かえなくなった。あの世で如月や紺屋さんと楽しく暮らすから、みんなは明日に向かって。
如月たちと何をしようかな。やりたいことも話したいこともいっぱいある。
僕はスケベだから、恋人の紺屋さんとエッチなこともしたい。以前は、紺屋さんが鼻血ブーで、結局できなかったしね。生殺しもいいところだよ。
ああ、夢が広がる。楽しみだ。
ざっくりと予定を決めて、僕も眠りにつく。
ざっくりと予定を決めて、僕も眠りにつく。
これは一話目の最後にあった文章です。ここで使うつもりでいました。




