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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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八十九話 僕も眠りにつく

 命を燃やして偽四季(しき)と戦い続ける。

 僕が壊れる方が先か、偽四季を倒す方が先かだ。

 短い時間が、何倍にも延ばされたように錯覚する。かすかに届いていたみんなの声も、今はまるで聞こえない。

 聞こえるのは戦闘音と、偽四季の憎悪の声だ。


「殺す最強の俺の邪魔をする奴は殺すむごたらしく拷問して殺す。殺す殺す殺す」


 言葉にすることで、復讐心を燃やしているんだ。心を欲望で見たし、力を増幅させようとしている。

 こいつはそれができる人間だ。だから十二月(じゅうにつき)としては破格の力を持っていたし、今も偽四季として復活できている。


 同じようにしようってわけだ。

 復讐。この二文字を渇望し、力を求めている。

 強くなりたいって望んだのは僕もだけど、こんなやり方で力を得たくない。

 こいつに言っても意味ないかな。絶対に届かない。


 そこまで僕を殺したいなら、いいよ。命が欲しければいくらでもあげる。

 命を惜しんで勝てる相手じゃない。死んでも構わない。

 というか、僕は死んで当然の人間だって思うしね。


 かつて、四季に言った。殺さない覚悟を決めたと。

 殺す方が簡単で、最善の方法だとしても、殺さない。殺さないで解決できる道を模索する。

 我ながら、偉そうな発言だった。

 四季は殺す覚悟、僕は殺さない覚悟。冬将(ふゆまさ)も認めてくれたっけ。


 あれを、今、撤回させてもらう。

 僕は殺す覚悟を決めた。偽四季を倒すんじゃなくて、殺す。

 撤回するなら、もっと早くに撤回しておくべきだった。そうすれば被害も少なくなった。

 あるいは、最後まで自分の決意を貫き通すかだ。


 優柔不断で中途半端。自分が嫌になる。

 迷惑をかけて、被害を増やしてしまったんだし、だったら僕も死のう。命を賭して偽四季を殺そう。


「ごめんね」


 この謝罪は、紺屋(こうや)さんに対してのものだ。

 死の間際、紺屋さんは言っていた。「春真さんはこないでください」と。

 如月(きさらぎ)と紺屋さんが逝ってしまい、でも僕にはこないで欲しいと望んでいた。

 約束を果たせないことへの謝罪だ。


 あの世で二人と再会して、怒られそうだね。

 でも、なんだかんだ許してくれるんじゃないかな。自分で言うのもあれだけど、二人とも僕が好きだからさ。

 もちろん、僕も二人が大好きだよ。一番の親友と恋人だ。


 姉を残してしまうのは心苦しいけど、両親がいる。新人類が受け入れられる世界になれば、家族で暮らせるようになるはずだ。親友の四季もいるし大丈夫。

 葉月(はづき)さんたちは、これから面倒な仕事がある。旧人類と新人類の橋渡しをできるのは、彼女たちだけだ。

 手伝えなくてごめんって謝っておく。


「殺す殺す殺す」

「殺すは僕のセリフだよ。お前を殺す」


 臆さないために、決意を口に出す。

 偽四季の首を掻き斬ろうと手刀を繰り出した。

 けれど、偽四季の方が先に、僕の心臓を貫く。


 どうでもいいよ。僕はまだ生きているんだ。数瞬後には死ぬとしても、その前に偽四季にとどめを刺せばいい。

 僕の右手が偽四季の首にめり込む。


「がああああああああぁぁぁっ!」


 獣じみた咆哮を上げつつ力を込め、引きちぎる。

 首と胴体が離れれば、いくら偽四季でも生きていられない。

 憎しみに濁った瞳のままで、首が地面に落ちた。

 雨で水たまりができているそこに、どす黒い赤が染み、広がってゆく。

 念には念を入れて、踏み潰しておいた。


 これで完全に死んだ。新人類も永遠の命もくそもない。ここまでやって死なない生物はいない。

 偽四季の胴体は、いまだに僕と密着し、胸を貫いた状態のままだ。こっちも乱暴に引き抜き、地面に打ち捨てる。


 終わった……ね。やっと終わった。

 安堵の気持ちとともに、僕も倒れ込む。

 今でも痛みを感じないのは不思議だ。苦痛に喘いで死ぬよりは楽かな。


 痛みだけじゃなくて、地面の硬さも雨の冷たさも感じない。何も感じない。自分が仰向けに倒れているのかうつ伏せなのかも分からない。

 みんなが駆け寄ってきているみたいだけど、視界がかすんで碌に見えないし、声も聞こえない。


 別れの挨拶くらいしたいな。

 声を絞り出そうとして、口から出てきたのは血の塊だった。

 声も出せないか。しょうがないね。

 うん、しょうがない。しょうがない。いつもの僕だ。

 しょうがないから許して。これでも頑張った方だよ。今までありがとう。


 頭の中で、とりとめのない言葉が巡る。

 両目を閉じる。元々見えなくなっていたけど、目を閉じれば完全な暗闇だ。


 なんか、四季に出会った夜を思い出す。

 不思議なほど、不気味なほど静かだった。世界に僕しかいないと錯覚するほど、ただただ静かだった。

 あの時は怖かったね。変死事件の話題も聞いていたし、早く家に帰ろうとしたものだ。


 で、四季を見つけた。変死体を見つけちゃったって思って戸惑った。

 実際は生きていたわけだけど。

 あれが始まりだった。行き倒れの少女を見つけ、事件に巻き込まれつつ右往左往してきた。多くの人と出会い、別れた。


 色々あったけど、僕の戦いは終わったんだ。

 先に逝かせてもらうよ。

 僕は明日に向かえなくなった。あの世で如月や紺屋さんと楽しく暮らすから、みんなは明日に向かって。


 如月たちと何をしようかな。やりたいことも話したいこともいっぱいある。

 僕はスケベだから、恋人の紺屋さんとエッチなこともしたい。以前は、紺屋さんが鼻血ブーで、結局できなかったしね。生殺しもいいところだよ。


 ああ、夢が広がる。楽しみだ。

 ざっくりと予定を決めて、僕も眠りにつく。

 ざっくりと予定を決めて、僕も眠りにつく。

 これは一話目の最後にあった文章です。ここで使うつもりでいました。

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