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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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八十二話 復讐者

投稿が遅れてすみません。明日もおそらく夜になります。(次話が書けていないので)

なお、本話は三人称視点です。

 どうしてこうなった。どうしてこうなった。

 全身を襲う苦痛にさいなまれながら、憎悪の炎を燃やす男がいた。

 十二月(じゅうにつき)如月(きさらぎ)として覚醒した男だ。


 最強の力を手に入れたはずだった。なんでもできるようになったはずだった。

 我慢する必要はない。好きなように生きられる。

 ムカつく上官にヘコヘコ頭を下げなくていい。元同僚と合わせて殺してやった。

 邪魔をする奴は殺す。逆らう奴は殺す。最強の自分に逆らうから悪いのだ。

 好みの女がいれば奪い、犯す。弄んでから捨てる。


 全てが叶う力を得たのだ。

 平時であれば、さすがに好き放題はできない。いかに最強とはいえ、人間の延長線上にある以上、限界が存在する。

 仮にも軍人だったのだ。新人類一人を殺すのは造作もないと知っている。

 勝手な行動ばかりしていれば殺されてしまう。


 今は、旧人類と新人類が争っている最中であり、極限の状況下だ。

 緊急時ほど秩序正しくあれ? バカバカしい。緊急時は、自分を最優先に考え、他人はどうなってもいいと考えるのが賢い生き方だ。

 力のない奴が悪い。死のうが苦しもうが知ったことではない。勝手に死ね。


 これは、腐った人間の考えではない。ごくごく一般的な人間の考えだ。

 同じ状況に置かれれば、誰だって同じ考えで行動する。他人を犠牲にしても、自分さえ無事ならいいと思う。


 最強の力を手に入れ、状況もおあつらえ向きになっている。最高の条件がそろっている。

 自由で楽しい日々が始まるはずだった。

 ところが……負けてしまった。確か、覚醒した春と言っていたか。ムカつくガキに負けたのだ。


「許さねえ」


 苦痛もあるが、耐え難い屈辱や憎しみの方が圧倒的に上回る。

 芋虫のように地面を転がりながら、復讐心に支配されていた。

 絶対に復讐してやる。簡単には殺さない。むごたらしい拷問の末に殺す。とどめを刺さなかったことを後悔させてやる。


「許さねえ」


 もっと憎悪を。復讐心を。

 渇望しろ。黒き炎を燃やし尽くせ。

 欲望が強ければ強いほど、力も増強されるのが十二月だ。


 復讐したい。むごたらしく拷問し、殺したい。

 余計なことは一切考えるな。力を得るための邪魔にしかならない。

 この際、女のことも忘れてしまえ。好みの女を奪うのは、あとでいくらでもできる。


 復讐を。ただ復讐だけを。

 今は望むのはそれだ。他はいらない。

 そうすれば。


「許さねえ」


 言葉を発するたびに、肉体が修復されているのを感じる。

 生きているのが不思議なほどの大怪我だった。春にやられた傷も深いが、戦い後に卯月(うづき)という男にやられた傷はさらに深い。

 骨や内臓がどれだけイカれているか、考えるのも嫌になる。身じろぎ一つすらままならない。

 なのに、修復されていく。化け物じみた回復力だ。


「許さねえ」


 ゆっくりと体を起こす。かろうじて動けるようになっていた。

 足はふらつくし、体は重く、だるい。血が足りていないのが分かる。

 時間をかければ完治するが、少しでも早く治したければ血肉となる物が必要だ。


「感じるぞ。ほとんど外に出たみたいだが、残っている奴もいる」


 少女が仲間を殺している姿を見た。自分の力にするべく喰らっていたのだ。

 同じ真似をすればいい。傷を治すために喰らおう。

 いや、同じではなく、本当に喰らうのもありだ。

 復讐者となりて、いざ。





「これは……誰だ? 葉月(はづき)たちの気配ではない。新しく覚醒したという如月か?」


 新人類の町に残った長月(ながつき)は、不気味な気配を感じ取っていた。

 十二月の気配だが、葉月たちではない。おそらく如月だろうと予想した。

 禍々しい気配だ。遠く離れていても感じられるほど強大だ。

 十二月最弱の長月では、万に一つも勝ち目がない。逃げなければ。


「敵が襲ってくる! 逃げるぞ!」


 生き残りの住人に声をかけ、外に出る決意をする。

 長月が治療したため、動けないほどの重傷者はいない。疲労は溜まっているし、知り合いが殺された衝撃から立ち直れていない者も多いが、移動してもらう。


 ここにとどまれば殺されるだけだと説得する。

 動こうとしない者もいたが、無理でもなんでも逃げなければまずい。


「クソ、俺が一緒では」


 十二月同士は、気配を感じ、おおよその居場所を把握できる。長月が行動を共にすれば、長月の気配をたどり如月がやってきてしまう。

 かといって、住人だけで逃げるのは無理だ。


「損な役回りだ……すまん、葉月」


 途中までは同行し、如月が追いつけば足止めをする。これしかないと判断した。

 長月は、生きて外に行けない。葉月たちとの再会も叶わず、殺される。

 住人を見捨て、自分だけ全速力で逃げれば、助かる可能性はある。如月が長月を追いかけてくれれば、住人が殺されることもない。


 全員で助かる道は、わずかに残されている。

 しかし、長月が逃げてから、如月がこちらにきてしまえば?

 せっかく生き延びた人たちが全員殺されてしまう。

 長月を追いかけてきてくれると考えるのは、あまりにも甘い。


 自分一人が助かるか、自分一人が犠牲になるかの二者択一だ。

 長月は後者を選択した。葉月に謝罪したのは、彼女一人を残してしまうことに対してだ。

 十二月が次々と死んでいき、残ったのは長月と葉月の二人だけ。

 長月が死ねば、葉月一人になる。新しく覚醒する十二月はいても、古い知り合いはいなくなる。


 死ぬ長月も辛いが、残される葉月も辛いだろう。

 一縷の望みを捨てずに生きようとする意志はあるが、うまくいく可能性は低い。

 すまないと、もう一度心の中で謝罪する。

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