八十二話 復讐者
投稿が遅れてすみません。明日もおそらく夜になります。(次話が書けていないので)
なお、本話は三人称視点です。
どうしてこうなった。どうしてこうなった。
全身を襲う苦痛にさいなまれながら、憎悪の炎を燃やす男がいた。
十二月の如月として覚醒した男だ。
最強の力を手に入れたはずだった。なんでもできるようになったはずだった。
我慢する必要はない。好きなように生きられる。
ムカつく上官にヘコヘコ頭を下げなくていい。元同僚と合わせて殺してやった。
邪魔をする奴は殺す。逆らう奴は殺す。最強の自分に逆らうから悪いのだ。
好みの女がいれば奪い、犯す。弄んでから捨てる。
全てが叶う力を得たのだ。
平時であれば、さすがに好き放題はできない。いかに最強とはいえ、人間の延長線上にある以上、限界が存在する。
仮にも軍人だったのだ。新人類一人を殺すのは造作もないと知っている。
勝手な行動ばかりしていれば殺されてしまう。
今は、旧人類と新人類が争っている最中であり、極限の状況下だ。
緊急時ほど秩序正しくあれ? バカバカしい。緊急時は、自分を最優先に考え、他人はどうなってもいいと考えるのが賢い生き方だ。
力のない奴が悪い。死のうが苦しもうが知ったことではない。勝手に死ね。
これは、腐った人間の考えではない。ごくごく一般的な人間の考えだ。
同じ状況に置かれれば、誰だって同じ考えで行動する。他人を犠牲にしても、自分さえ無事ならいいと思う。
最強の力を手に入れ、状況もおあつらえ向きになっている。最高の条件がそろっている。
自由で楽しい日々が始まるはずだった。
ところが……負けてしまった。確か、覚醒した春と言っていたか。ムカつくガキに負けたのだ。
「許さねえ」
苦痛もあるが、耐え難い屈辱や憎しみの方が圧倒的に上回る。
芋虫のように地面を転がりながら、復讐心に支配されていた。
絶対に復讐してやる。簡単には殺さない。むごたらしい拷問の末に殺す。とどめを刺さなかったことを後悔させてやる。
「許さねえ」
もっと憎悪を。復讐心を。
渇望しろ。黒き炎を燃やし尽くせ。
欲望が強ければ強いほど、力も増強されるのが十二月だ。
復讐したい。むごたらしく拷問し、殺したい。
余計なことは一切考えるな。力を得るための邪魔にしかならない。
この際、女のことも忘れてしまえ。好みの女を奪うのは、あとでいくらでもできる。
復讐を。ただ復讐だけを。
今は望むのはそれだ。他はいらない。
そうすれば。
「許さねえ」
言葉を発するたびに、肉体が修復されているのを感じる。
生きているのが不思議なほどの大怪我だった。春にやられた傷も深いが、戦い後に卯月という男にやられた傷はさらに深い。
骨や内臓がどれだけイカれているか、考えるのも嫌になる。身じろぎ一つすらままならない。
なのに、修復されていく。化け物じみた回復力だ。
「許さねえ」
ゆっくりと体を起こす。かろうじて動けるようになっていた。
足はふらつくし、体は重く、だるい。血が足りていないのが分かる。
時間をかければ完治するが、少しでも早く治したければ血肉となる物が必要だ。
「感じるぞ。ほとんど外に出たみたいだが、残っている奴もいる」
少女が仲間を殺している姿を見た。自分の力にするべく喰らっていたのだ。
同じ真似をすればいい。傷を治すために喰らおう。
いや、同じではなく、本当に喰らうのもありだ。
復讐者となりて、いざ。
「これは……誰だ? 葉月たちの気配ではない。新しく覚醒したという如月か?」
新人類の町に残った長月は、不気味な気配を感じ取っていた。
十二月の気配だが、葉月たちではない。おそらく如月だろうと予想した。
禍々しい気配だ。遠く離れていても感じられるほど強大だ。
十二月最弱の長月では、万に一つも勝ち目がない。逃げなければ。
「敵が襲ってくる! 逃げるぞ!」
生き残りの住人に声をかけ、外に出る決意をする。
長月が治療したため、動けないほどの重傷者はいない。疲労は溜まっているし、知り合いが殺された衝撃から立ち直れていない者も多いが、移動してもらう。
ここにとどまれば殺されるだけだと説得する。
動こうとしない者もいたが、無理でもなんでも逃げなければまずい。
「クソ、俺が一緒では」
十二月同士は、気配を感じ、おおよその居場所を把握できる。長月が行動を共にすれば、長月の気配をたどり如月がやってきてしまう。
かといって、住人だけで逃げるのは無理だ。
「損な役回りだ……すまん、葉月」
途中までは同行し、如月が追いつけば足止めをする。これしかないと判断した。
長月は、生きて外に行けない。葉月たちとの再会も叶わず、殺される。
住人を見捨て、自分だけ全速力で逃げれば、助かる可能性はある。如月が長月を追いかけてくれれば、住人が殺されることもない。
全員で助かる道は、わずかに残されている。
しかし、長月が逃げてから、如月がこちらにきてしまえば?
せっかく生き延びた人たちが全員殺されてしまう。
長月を追いかけてきてくれると考えるのは、あまりにも甘い。
自分一人が助かるか、自分一人が犠牲になるかの二者択一だ。
長月は後者を選択した。葉月に謝罪したのは、彼女一人を残してしまうことに対してだ。
十二月が次々と死んでいき、残ったのは長月と葉月の二人だけ。
長月が死ねば、葉月一人になる。新しく覚醒する十二月はいても、古い知り合いはいなくなる。
死ぬ長月も辛いが、残される葉月も辛いだろう。
一縷の望みを捨てずに生きようとする意志はあるが、うまくいく可能性は低い。
すまないと、もう一度心の中で謝罪する。




