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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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八十三話 実利的な話

 みんなで食事休憩をして、以降も腰を落ち着けてのんびりと待つ。

 いまだに暴動は起きているし、抑えられていない。死傷者も出ている。

 のんびりしていることへの罪悪感はあるけど、そこは開き直る。

 僕たちが首を突っ込んでも、解決するどころかこじれるだけだ。これから行われる交渉に集中する方がいい。


 時間がくるまではリラックスして体を休める。

 四季(しき)なんか、葉月(はづき)さんの膝枕で居眠りをし始めたよ。

 みんなの膝に頭を乗せて、わざわざ寝心地を確かめていた。葉月さんが一番いいと言って、彼女の膝で居眠りしているわけだ。

 その際に、こんな会話もあった。


「私の足が太いって言いたいの?」

巨乳(あくま)は足も肉付きがいい。ざまあみろ」

「膝を貸してあげないわよ」

「今の私は、葉月(よう)よりも強い。拒否されても無理矢理体を使う」

「怪しい言い方はしないで。しょうがないし貸してあげるわ。ただし、よだれを垂らさないでよ。あなたは意外と下品だから」

「失敬な」


 四季は、汚いげっぷをしたり、うなり声みたいなお腹の音を鳴らしたりと、年頃の女性にあるまじきことをやらかす。お腹の音は生理現象だし仕方ないけどさ。

 とにかく、前科がたっぷりあるので、葉月さんはよだれを垂らさないように忠告したんだ。

 あれこれ言いつつも膝を貸してあげるのは優しいね。

 自分の膝で眠る四季の顔を見て、慈しむように頭を撫でている。


「黙っていたら可愛いんだけどね」

「分かる分かる。可愛いよね」


 姉も同意し、四季の髪の毛をいじっていた。

 女性三人が戯れる姿を見て、なぜか隊長さんがうずうずしている。


「四季を撫でたいんですか?」

「俺はロリコンじゃねえ!」

「誰もロリコンとは言ってませんって。小動物や子供を可愛がるといいますか、そんな気持ちなのかなって思っただけです」

「子供は好きだが、それを言うと性犯罪者扱いされるのが今の世の中なんだ。子供を可愛いと思うのがダメとか世知辛い」

「子供なら、秋陽刀(あきひと)皐月(さつき)はどうです?」

「ふざけんな。俺はおっさんに甘える趣味はないし、皐月も俺のもんだ」

「私は秋陽刀のものではありません」


 ワイワイ騒いでいれば、僕たちを囲んでいる兵士の一人が近寄ってきた。

 なんでも、もうじき偉い人が到着するとの話だ。

 いよいよ交渉の場か。僕が交渉するわけでもないのに緊張してきた。


春真(はるま)、分かってると思うが」

「葉月さんを守る、だよね?」


 僕の返答は、冬将(ふゆまさ)のお気に召したらしい。笑顔で背中をバンバン叩かれた。


「冬将はともかく、速峰(はやみね)に守ってもらう日がくるとは思わなかったわ。お願いね」

「任せて」


 僕の知識じゃ偉い人と話はできない。フォローは睦月(むつき)たちに任せる。

 代わりに、危険があれば葉月さんを守ろう。

 兵士たちが、こちらを攻撃しようと思えばできていた。ホテルの大部屋に集まっているし、爆弾でも投げ込んで一網打尽に、とかね。


 やっていないってことは、罠ではないと考えていい。

 偉い人がやってくれば、その人たちを巻き込みかねないし、ますます攻撃はできなくなる。

 何かしてくるとは思えないけど、交渉が決裂すれば話は別だ。

 そうなった時、葉月さんには生き延びてもらいたい。


 僕や冬将は、言ってみれば代わりのきく兵隊だ。仮に死んでも新しい春や冬が覚醒するし、その人は春や冬の能力を持っている。

 偽如月(きさらぎ)のような性格に問題を抱えている人でもなければ、新しい人が力になってくれるだろう。


 葉月さんだって、死んでも新しい葉月が覚醒する。

 ただし、その人がリーダーの資質を持っているとは限らない。

 単に強いだけの人じゃ得られない能力。春に覚醒し、あっさりと力を得た僕とは違う、葉月さんならではの能力だ。


 秋陽刀は皐月に夢中で、葉月さんを守ってくれそうにない。姉は僕の個人的な望みで犠牲にしたくない。

 つまり、僕と冬将で、と。

 あんまり言うと、姉や秋陽刀の機嫌を損ねそうだ。言葉にはしないけど、冬将も同じ気持ちでいてくれる。


 僕は僕にできることをしよう。

 決意を固めていると、スーツ姿の男性が数人登場した。

 比較的若い人が一人いて、三十代からせいぜいで四十代前半。睦月と同じくらいかな。残りはおじいさんと呼んでいい年齢の人が三人いて、合計四人だ。

 なお、全員男性になる。政治家は男性が多いしおかしくないけど、女性を守りたくて男性が出てきたとすれば、格好いい。


 この人たちが政治家かな。政治家ではない権力者かもしれない。

 官僚だっけ? 省庁に務める人。

 というか、政治家と官僚は別物? 記憶を消されているからか、あるいは僕が最初から劣等生だったのかは知らないけど、全然分からない。

 生き延びて、戦いが終われば、真面目に勉強しよう。いくらなんでもあまりにバカ過ぎる。


 とりあえずは挨拶だ。

 葉月さんが立ち上がり、僕たちも続いて頭を下げる。礼儀作法とかは知らないから適当になっているけど、日本人なら頭を下げておけばよさそうだ。


「かしこまらなくてもいい。正式な会談でもあるまいし、形にこだわるよりも実利的な話を優先したい」

「ありがとうございます。私たちに敵意はないとお伝えしたかったのです」

「受け取った」


 葉月さんが優しげな口調で話し、相手も納得してくれた。

 ファーストコンタクトは成功かな。

 僕たちは交渉しにきた立場だし、いきなり喧嘩腰になったり不遜な態度を取ったりするのはよくない。あなた方には敬意を払っています、と態度で示すべきだ。


「私は、葉月葉。新人類の町にて、十二月(じゅうにつき)のリーダーをしています。常識を知らないため、無作法をお許しください」

「先ほども言ったが、形は二の次だ」


 建前かもしれないけど、形にこだわらないって言ってもらえるのは助かるね。


 こういう場面って、目上の人と目下の人、どちらから挨拶するもの?

 葉月さん以外のメンバーも名乗るべき? 人数が多過ぎると、かえって失礼にならない?


 みたいな感じで、分からないことだらけなんだ。こっちは大半が素人だしさ。

 まともに礼儀を知っているのは、睦月、卯月(うづき)神無月(かんなづき)かな。

 三人が注意しないところからして、今の葉月さんの対応は大きく間違っていないと思う。


 この先も完璧にこなせるとは限らないし、礼儀作法にばかりこだわれば肝心の交渉に支障をきたす。

 形よりも実利。相手は意外と話の分かる人みたいだ。

 無礼な真似はダメだけど、過度に気にしなきゃいけなくもない。敬意を持って接すれば大丈夫だ。

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